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新たな行き先は

二章最後です。

 今日で七日目、休暇が終わり聖奈が城に戻る時が来た。城の近くまで転移して聖奈を見送るんだけど、少しやりたいことがあったから言葉とティアには宿で待っていて貰った。


「じゃあ行ってくるね。日が暮れる前には訓練が終わって、ご飯食べたらその後は自由時間だからその辺りに迎えに来てね。」

「分かった。一応城の様子はいつでも確認出来るからそれで調整して迎えに行くよ。」

「うん、じゃあ今度こそ行ってくるね。」


 そうして城に向かおうとする聖奈を僕は呼び止める。


「聖奈、待って。」

「どうしたの?」

「渡しておこうと思って。」

「何かあるの?」

「うん。」


 そう言って僕は聖奈に小箱を渡す。


「開けていい?」

「勿論。」

「分かった。」


 僕が頷くと聖奈がそっと小箱の蓋を開けた。


「これって指輪だよね?」

「うん、毎日迎えに行くっていっても離れてる時間は結構あるでしょ?だからその間ちゃんと繋がりを感じられるものをと思ってね。」

「そっか。嵌めてくれる?」

「いいよ。」


 そうして聖奈から指輪を受け取ってその指にゆっくりと嵌めていく。


「聖奈。」

「なに?綴理君。」

「この指輪は婚約指輪だから。」

「そうなんだ。……え?本当に?」


 さり気なく言った言葉に、聖奈が遅れて驚いた顔をした。


「そうだよ。」

「いいの?」

「うん。君は僕の大切になった。僕は君を全力で愛するって決めたんだ。だからその気持ちを形にするならこうするのがいいかなって。」

「そっか、ありがとう。大切にするね。」


 指輪の嵌った手を抱いて笑顔を浮かべる聖奈はまさに聖女そのものだった。


「やっぱり、綺麗だ。」

「え?」


 僕は聖奈を抱き締めていた。


「聖奈、好きだ。」

「っ!……綴理君。うん、私も好きだよ。」


 僕の急な行動に驚いていた聖奈だったけど、数瞬後には同じように抱き締め返してくれた。二人の間にあたたかいものが巡って行く。巡る度どんどん熱くなっていく。もう少し、このままで……



 それから暫くしてゆっくりと聖奈から離れた。


「それじゃあ今度こそ、行ってくるね。」

「うん、いってらっしゃい。」


 何度も振り返りながら歩いて行く聖奈をお互いが見えなくなるまで見送った。


「行っちゃったな。すぐに会えるとはいえなんか寂しいな。こういう時は行動するに限る。帰って何かしよう。そうだ!そろそろ一月経つし、次にいってもいい頃だよね。帰ったら早速提案してみよう。」


 そうして僕は言葉とティアが待つ宿の部屋まで転移した。



「ただいま。」

「あ、おかえり。」

「おかえりなさい。」


 宿の自室に着くと、二人がいつものように出迎えてくれた。転移で戻って来たからいきなり現れたのに、扉を開けて入ってくるのと同じ反応だった。慣れってすごいね。それはそうとして、


「帰って来て早々で悪いんだけど。ちょっと相談があるんだ。」

「何かあったの?」

「いや、何かあった訳じゃ無いんだけど、そろそろ次の場所に行こうかなって。」

「あ、そっか。確か一月くらいいて大体慣れたら次の街に行く予定だったもんね。」

「うん、この世界を色々見て回りたいからね。」

「いいと思います。ツヅリさんがいればいつでも帰って来れますしね。」


 そうだね。スキルってやっぱり便利だ。


「うん。だから早速行こうかなって。」

「行き先はどうするの?」

「そろそろティアの無事を知らせに行こうかなって思ってるんだけど、どうかな?」

「ついに魔皇国かぁ。楽しみだね、ティア。」

「はい。家族も心配しているでしょうから、そろそろ安心させてあげないといけませんね。」


 そうして二人の同意を得て、次の目的地は魔皇国に決まった。


「という訳で、色々と物品を買い込もう。」

「スキルで行けるんだし特に準備しなくても良いんじゃないの?」


 確かにここからスキルで行き来すればすぐだから準備は必要ないんだよね。効率を考えればそれが一番だ。でも、


「どうせなら道中見て回りたいなって。一応この世界を観光するのも目的だから。」

「では道中は徒歩と馬車で進んで、寝泊まりはこれまで通りこの宿でするという感じですね?」

「そうなるかな。無駄なことしてる自覚はあるんだけど、やっぱり楽しみたいからさ。だめかな?」


 二人が反対したら素直に最速で向かうけど。


「大丈夫だよ。別に時間に追われてる訳じゃないし、ゆっくり楽しんでこうよ。」

「はい、私もそれでいいと思います。魔皇国を離れてもう既に結構経ってしまってますので、一週間や二週間の違いはあってないようなものですから。」


 良かった。


「ありがとう。じゃあそういうことで早速買い物に行こうか。」

「うん。あ、後で迎えに行く時に聖奈さんにも教えないとね。」

「セイナさんも大切な家族ですからね。」

「そうだね。ちゃんと伝えておくよ。」


 こうして僕たちは旅の準備を始めた。




 その頃、城に戻った聖奈はというと、


「婚約指輪かぁ。ふふっ、綴理君と結婚……幸せだぁ。あ〜〜〜〜もう。そろそろ会長モードに戻らないといけないのに顔の緩みが抑えられない。」


 自室のベッドの上でゴロゴロバタバタと悶えていた。


「ここまでいけるとは思わなかったな。どうにか再会しようと頑張って来たけど、まさか彼女になれた上に婚約指輪まで貰えるなんてね。諦めなくて本当に良かった。」


 これから毎日綴理君に会えるって考えると元気出てくるな。この調子でこれからの訓練も頑張っちゃおう。


 そうやって今後に思いを馳せていると、聖奈の部屋の扉がノックされ、声がした。


「神代、今いいか?」


 御影君か。


「ど、どうぞっ。」


 慌てて表情を整え扉の鍵を開けた。


「すまない。少し確認することがあってな。」

「大丈夫。それで確認したいことって?」


 まあ御影君が私に聞くことなんて綴理君のこと以外ないだろうけど。


「ああ。紡詞との連絡の取り方なんだが、用があるときに神代に言えば次の日には返事が聞けるという認識でいいんだよな?」


 やっぱりそうだった。


「そうね。私は毎日彼の所に帰るから、その前に言ってくれれば次の日の訓練の時には返事出来るはずよ。」

「そうか。それならいいんだ。この前完全な無詠唱魔法を教わってから暇な時はずっと訓練しているんだが、その間に質問したいことがいくつか出来てな。」

「流石は御影君。勉強熱心なのね。」


 私も見習って練習しないとな。


「そう言えなくもないが、俺はただ自分の好きなことをしてるだけだからな。今は楽しくて仕方がない。」

「そういうタイプだったわね。それで、もう既にある質問なら紙に書いてくれたら渡せるけど。」

「そう言うと思って用意して来た。これを頼む。」


 そう言って一枚の紙が手渡された。


 流石は全国一の秀才、準備がいい。特に自分の興味のあることに関しては抜け目がないな。


「分かったわ。確実に渡しておく。」

「感謝する。じゃあ、また訓練の時に。」

「ええ。」


 要件が済み満足したようで、御影君は心做しか嬉しそうに部屋を出て行った。


「はぁ、本当に御影君はぶれないな。私もあれくらいメンタル強かったら会長業も楽なのに。まあ、私は私らしく今まで通り頑張っていきますか。あ、今まで通りじゃないか。今は辛くなっても頼れる彼氏と優しい友達がいるもんね。ふふっ。よし、頑張ろ!」


 休暇中に出来たあたたかな家族を思い浮かべ、私は気持ちを新たに再び会長としての神代聖奈に戻った。



 それから数時間が経って、勇者達が広間に集められた。皆休暇前より明るい顔をしているので、休暇を存分に楽しめたようだ。


 勇者全員が集まったことを確認し、国王が徐に口を開いた。


「勇者諸君、再び集まってくれたこと、感謝する。この一週間、存分に王都を楽しんでくれただろうか。そうであったなら私としても嬉しい。さて、明日からはまた訓練をしてもらうことになるのだが、より多くを学んでもらう為に王立エルクシアス魔術学院に編入してもらおうと考えている。突然のことで質問がある者もいるであろうが、詳しいことは後ほど配布する資料を見て欲しい。明日の朝魔術学院寮へ移動することになっているから、このあとの時間は各自荷物を纏め、用意をするのに使ってくれ。こちらの一方的な都合であるのは承知の上だが、これからもこの国の為に頑張って欲しい。」


 そうしてこの場は解散となり、それぞれ自室に戻り明日の移動に向けて準備をすることとなった。


 魔術学院か、学校ってなんか懐かしいな。まだ二月ちょっとしか経ってないのに。


「あ、住む場所変わるんだったら言っておいた方がいいよね。忘れないようにしないと。」


 そうやって綴理君のことを考えながら自室に戻ろうとしたところで食事の時間に話すことの多い女生徒に声をかけられた。


「会長、休暇の間なにしてたんですか?一緒に王都観光しようと思って探したのにどこにもいないんですもん。」


 彼女は少し残念そうな顔だった。


「え?ああ、ごめんなさい。少ししたいことがあって休暇が始まった日の早朝に城をたったの。」

「そうだったんだ。道理で一回も見かけなかった訳だ。」

「どうしてもはずせない用事だったから。」

「いいんですよ。私は私でしっかり楽しんできましたからね。それにしても用事ってその指輪と関係あったりします?休暇の前はつけてなかったですよね?」

「よく気付いたわね。そうよ。」

「やっぱり。もしかして彼氏とデートでもしてたんですか?」


 唐突に核心を突く質問をされ、答えに詰まる。


「あ、えっと……」

「え!本当に?会長って付き合ってたんですか?お相手は誰なんですか!この世界に来てるってことはこの学校の生徒ですよね?」

「え、ええ。二年の生徒だけど。」

「年下なんですね。それでどんな人なんですか?会長の彼氏だからやっぱりなんでも出来る人だったり?あれ?でも二年にそんな子いたかな?」


 女生徒は二年の生徒を振り返って首を傾げた。


「そうね。多分分からないんじゃないかしら。彼は普段そこまで本気で生活していないから。でもやる気になったら多分出来ないことは殆ど無いと思う。」

「そんな人が。あ、でもじゃあその指輪はその彼に貰ったんですね。」

「ええ。婚約指輪だって。」


 渡してくれた時の綴理君を思い出し、自然と頬が緩みかけそうになって慌てて表情を戻す。


「え?二年の子ってことはまだ早いんじゃ。」

「日本ならね。でも私たちは今異世界にいるでしょ?それなら年齢は関係ないから。」

「そっか、それは確かに。にしてももうそこまで進んでるんですね。まさかあの会長に婚約までしてる彼がいたとは。」


 やっぱり私って普通の男の人は相手にしないようなお嬢様みたいに見られてるんだな。


 でも、


「私だって普通の女の子なのよ?恋愛くらいするわ。」

「それでも会長を落とせる男子がこの学校にいるとは思ってませんでした。凄い人といっても全国トップの御影先輩くらいしか思いつかないですし。」

「別に私は能力が高いから彼を好きになった訳じゃないのよ?元々あれほど能力の高い人だとは知らなかったから。」

「そうなんですか?じゃあどうして?」

「そうね。助けてもらった時にすごく安心したからかしらね。」

「安心感ですか。」

「ええ。さっきも言ったでしょう?私も普通の女の子だって。」

「なんか会長のイメージ変わりました。前は何処か遠くの人って感じでしたけど、表情もなんとなく柔らかくなった気がしますし。」

「そうね。彼に受け入れて貰えて心に余裕が出来たからかしらね。」


 私としては自然に出た言葉だったんだけど、彼女はとても驚いた顔をした。


「受け入れて貰えた、ってことは告白は会長からしたんですか!?」

「そうよ。私が好きになって付き合って貰ったの。」

「付き合うことはあっても告白される側だと思ってました。」

「まあ確かにそういうことも何回かあったけれど。」


 断るの大変だったなぁ。会長としてかろうじて顔と名前は一致するけどそれ以外何も知らないのに当然知ってるみたいに告白してくるから本当に対応に困った。まあ、それほど自信があったんだろうけど初対面じゃあ流石にね。


「ですよね。そういう話はよく聞きましたから。でも、そっか。会長を落としたその彼に私も会ってみたいなぁ。」

「あら、貴方もきっと知ってる人よ。」

「え?でも二年生に男子の知り合いなんていないんですけど。」

「聞いたことない?二年生のキューピット。」

「キューピットって、相談に乗って貰ったら必ず仲良しカップルになれるっていうあのキューピットですか?」

「そこまで詳しくはないけど多分合ってるわ。そんなこと出来る人、他に思いつかないもの。」

「ますます会ってみたくなりました。」

「いずれ会えると思うわ。」


 遊びに来るって言ってたし。


「学院では会えるかなぁ。あ、そろそろ準備しなきゃいけませんね。時間取らせちゃってすみません。」

「気にしないで。」

「ありがとうございます。また明日から頑張りましょうね。それじゃあおやすみなさい。」

「ええ、おやすみなさい。」


 こうして私は彼女と別れ、今度こそ自室に入った。


「ちょっと話し過ぎちゃった。綴理君とのことで気が緩んでたのかな。さてと、そろそろ来る頃だよね。その前に荷物纏めちゃおう。って言っても殆ど無いんだけど。」


 少しして荷物を纏め終わった頃、綴理君が迎えに来た。


「あ、キューピットが迎えに来た。」

「キューピット?」

「うん。普段話してる子がこの指輪に気付いてね。それで綴理君のこと少し話したんだ。名前を出さない代わりに二年生のキューピットだよって。」

「確かにそんな風に言われてたっけ。僕はただ見ててもどかしかったから幸せの成就を早めてただけなんだけどな。本当に個人的な理由で。」


 そう言って綴理君は困ったように笑った。


「それでも結果的に皆幸せになってるからキューピットって言われてるんだよ。私の周りでも相談に乗ってもらおうかなって綴理君を探そうとしてる子もいたくらいだし。」

「そこまで広がってたのか。まあ見つからなかっただろうけど。」

「普段の綴理君はクラスの隅っこで静かにしてるタイプだもんね。」

「よく分かっていらっしゃる。変に目立つと面倒事に巻き込まれるからね。自分から関わること以外には労力を裂きたくないし。」

「ふふっ。それでも困った人がいたら助けてくれるよね。私の時みたいに。」

「僕は悲劇が嫌いだから。知ってしまったらそれは見なかったことには出来ないんだよ。」

「そういうところなんだよね。私が好きなのは。」

「そうかな。なら、いいか。」


 はにかんだ笑顔を浮かべる綴理君はちょっと可愛かった。


「うん、いいんだよ。あ、それでね、明日から王立魔術学院に通うことになったんだって。」

「急だな。にしても学院か、ちょっと楽しそうだな。」

「そういうと思った。本当なら一緒に通ってたのにね。」

「仕方ないよ。どうしても通いたくなったら別の手段で学生するさ。」

「うん。それで明日からのお迎えなんだけど、場所は分かるんだよね?」

「大丈夫、調べておくよ。時間の方は生活に合わせて調整していこう。」

「流石綴理君、ありがとうね。じゃあ荷物も纏め終わったし、言葉ちゃんとティアちゃんのところに行こっか。」

「そうだね。」


 そう返事して綴理君が私の手を握る。



舞台は変わって(シーンスイッチ)



 私たちは二人が待つ宿に転移した。着いてからは、今日知らされたことを二人にも共有したり、綴理君たちから魔皇国に行くと教えられたりして明日からの予定を話し合った。その後はいつものように寝る準備をして、皆で一緒に布団に入った。



 明日から新生活が始まる。綴理君たちとは行き先が違うけど、私は私で精一杯頑張ろう。疲れたら、いつでもここに帰ってこれるんだから。

次話から三章に入っていきます。本業の学生の方が少し忙しくなってきたので更新速度が一週間に一度くらいになるかもしれません。最大限早めに更新するよう努力しますので、これからも綴理たちを見守っていただけると幸いです。星やブックマークをつけていただけるとより励みになります。そちらの方もよろしければお願いします。


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