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二つ目の再会、三つ目の愛

「んっ………んんっ……はっ!今何時?………良かった。寝過ごしてはいない、か。」


 ふと目を覚まし、慌てて飛び起きた私は外の様子からまだ朝であるのを確認してほっと息を吐いた。


 今日からはここで彼を探すんだ。帰りも含めて六日間しかないからゆっくりしている暇は無い。すぐに準備して情報を集めよう。


 私はベッドから起き上がって支度を始めた。



「まずはここからかな。」


 バイタシアのギルドの扉を開き、受付に向かう。ギルドからは個人の情報は聞けない筈だから少し遠回りにはなるけどここの情報はきっと役に立つ。


「すみません。ここ周辺の宿で有名な所ってありますか?この街に来たばかりで泊まる場所を探しているんです。」

「そうですか。この街は宿が多いですから、有名な所といっても色々ですかね。価格帯にもよりますがどれくらいをお望みでしょうか。ちなみにこの街は商人がよく立ち寄ることから最低でも五千エルクはしますよ。」


 綴理君だったらそこまで高くなくて質の良い所を選ぶ筈。


「高くても一泊一万エルク以下くらいですかね。」

「それでしたら結構数が絞れますね。例としては……」



 受付のお姉さんにお礼を言ってギルドを後にした私は、早速教えて貰った宿を順番に探していった。探していくうちに大体生活圏が把握出来てきた。ここ周辺の店でまた情報を集めよう。きっと何処かに痕跡がある筈。


 それから私は武器屋、防具屋、魔導具店と聞き込みをして回った。しかし有益な情報は得られなかった。店自体の規模が大きいせいで一人一人の印象が薄いのだ。仕方ない、少しアプローチを変えて探してみよう。



 という訳でデートコースになりうるお店を中心に回ることにした。二人はもうカップルなんだもんね……


「あ~もうくよくよしててもしょうがない!何があっても綴理君を見つけるって決めたんだから!」


 気合を入れ直した私はまず洋服店に入った。デザインが地球にいた頃来ていた服に近いから多分ここにも寄っている筈。


「すみません。人を探しているんですが、最近私と同い年くらいのカップルが来ませんでしたか?あまり身長の高くない男の子と身長が低い短めの髪の女の子なんですけど。」

「あ、それだったら昨日そんな感じのカップルを見ましたよ。長い髪のすごく綺麗な女の子も一緒でしたけど。」


 え?もしかして私の知らない女の子とも付き合ってるの?いや、まだそうと決まった訳じゃないか。もう少し聞いてみよう。


「男の子の方は綴理って言うんですけど、この名前に聞き覚えはありますか?」

「ツヅリ?……あ、その女の子たちがそう呼んでるの聞きましたよ。珍しい名前だったので覚えてます。」

「!……そうですか、ありがとうございました。」

「いえ、見つけられるといいですね。あ、そういえば昨日聞いた感じだと今日辺り王都に行くみたいですよ。」

「そうなんですか?」

「はい、昨日楽しそうに話しているのを見てましたから。」

「分かりました。本当にありがとうございます。」

「はい、頑張ってください。」


 とても重要な情報を聞けた。王都に行くんだったら私も戻らないと。


「とその前に御影君にも知らせないと。」


 私は聞いていた宿まで足を運び、御影君と合流した。


「それで、情報は確かなんだな?」

「ええ、特徴も名前も合ってる。彼の名前はここでは珍しいからまず間違いないわ。このタイミングを逃したらまた暫くは会えなくなると思うし急がないと。」

「そうだな、すぐに向かおう。ここからだと時間がかかるからな。」

「ええ。」


 こうして私たちは王都に向かった。



「ここからは手分けして探しましょう。これだけ広いと一緒に探すより分けて探す方が早く見つけられる筈よ。」

「そうだな。日が暮れる前に一度冒険者ギルドで合流して成果を確認しよう。それまではお互い自由に探す。これでいいな?」

「ええ。」


 私たちはそれぞれ別の方向に向かい捜索を始めた。



 それから少しした時のこと、運悪く私はタチの悪いナンパに捕まってしまった。こんな事に時間を取られていては日が暮れてしまうのに。


「離してください!貴方達に構っている暇は無いんです。私はあの人を見つけなきゃいけないんだから!」

「まぁまぁそんなつれないこと言わずにさあ、いっぱい楽しませてやるぜ?勿論気持ちよくもな?ギャハハハハハハッ!」

「結構です。急いでますので。」


 気持ち悪かったからその場を離れようとしたんだけど、


「おっとそうはいかないなお嬢ちゃん。俺たちが誘ったからにはちゃんとかまってもらわないと。」


 先に回り込まれてしまった。


「衛兵を呼びますよ。」

「残念ながらこの騒がしい中じゃ気付くやつはいないだろうよ。」

「諦めて俺達に付き合えよ。悪いようにはしないからさ。勿論その身体はしっかり味わわせてもらうけどな。な、お前ら?」

「そうだな。こんな上玉そうそう見つかんねぇぜ!」

「という訳だ、観念しな嬢ちゃん。」


 どうしよう。私は支援がメインだからそこまで強くないし、こんな街中で魔法を使う訳にもいかないからもう打つ手が無い。私の純潔はこんな所で捨てる訳にはいかないのに。


「面白そうな事してるね。僕も混ぜてよ。」


 ふと少し離れた所から声がした。


「あ?なんだよお前。この嬢ちゃんは俺らと一緒に遊ぶんだよ。関係ない奴はどっか行ってろ。」

「それがどうやら関係なくはないみたいなんだよね、これが。」


 段々と近づくその声に、自然と瞳の端から涙が零れ落ちた。


 この声は、私がずっと聞きたかった声。ずっと探していた人の声だ。やっと、会えたんだ。


「ぎりぎりでごめんなさい。今助けます、会長。いや、聖奈さん。」

「綴理君!」


 私の涙はもう止まらなかった。


「お前この娘の知り合いかよ。で、俺達を倒してこの娘を助けると?」

「そんなとこですかね。まあ倒さなくても問題は無いんですけど。」

「あ?どういう事だよ。」

「こういうことだよ。」


 瞬間、私は宙に浮いていた。いや、正確には綴理君が私を抱き上げていた。


「え?今どうやって……」


 私は突然の出来事にただただ困惑していた。


「その話は後で、今は逃げますよ。無駄な戦闘は御免なので。」



舞台は変わって(シーンスイッチ)



「何しやがった!……って待て!逃げんじゃねえ!」


 一瞬の硬直から解けた男達の一部がそう言ったのを置き去りに、私たちの姿は一瞬でその場から消え去った。



「ここまで来れば大丈夫かな。」


 路地裏から少し離れた所で僕は抱き上げていた会長を地面に降ろした。


「今何をしたの?」


 自分の足で立った会長はすぐにそう聞いてきた。気になるよね。


「瞬間転移、ですかね。」

「瞬間転移!?そんなことまで……」

「はい。それはともかく、被害に遭う前に助けられて良かった。」

「そうだね。ありがとう、本当に助かったよ。」

「それにしてもお久しぶりですね。こうやって話すのは生徒会長選挙の時以来ですかね。」

「うん、本当に久しぶり。あの時は本当にありがとう。おかげで無事に今生徒会長が出来てるよ。」

「役に立てたのなら光栄です。それで、聖奈さんはあそこで何をしてたんですか?」

「っ!……えっと、その……」

「?」

「……決めたんだから。ちゃんと言うって………」


 何やら会長が俯いて呟いている。どうしたんだろうか?


「あのね!」


 会長はバッと顔を上げて僕を見つめ、そして続きを口にした。


「私は貴方を探してたの。休みを貰ってからずっと。ずっと貴方に会いたかった。会って話がしたかった。」

「そう、だったんですか。それで話したかったことって。」

「うん、よく聞いてね。」


 会長は緊張した面持ちでそう言った。


「はい。」

「貴方が……好きです。私を貴方の、彼女にしてくれませんか?」

「え?」


 ちょっと待てよ。これ本当にイベントフラグだったのか。いや、今はそれどころじゃない。真剣に言ってくれていることは表情から分かるし、僕も真剣に向き合わないと。


「だめ、かな。」

「僕にはもう付き合ってる人がいます。」

「それは知ってる。情報を集めてる間に聞いたから。」

「そうですか、じゃあ分かってて言ってくれたんですね。」

「うん。それとこの世界では複数の人と結婚出来るってことも。」

「そこまで考えて……」

「考えるよ。だってこんなに人を好きになったの初めてなんだもん!……本気、なんだもん。」

「分かりました。少し、時間をください。返事はそれからでもいいですか?」

「……うん。夢咲さんたちのこともあるし、一人では決められないよね。」

「ごめんなさい。」

「いいの。そうやって真剣に考えてくれてるってだけで私は嬉しいから。」

「ありがとうございます。まずは二人と合流しましょう。そこで話し合ってきます。」

「うん。」


 僕は二人の位置を確認して、再び転移した。



「あ、綴理くん。おかえり。それともう一人は……会長さん?」

「はじめまして、夢咲さん。」

「はじめまして。それで、綴理くんが助けたのが会長さんだったの?」

「うん。僕を探してたみたいでその時にたまたま運悪く集団に絡まれちゃったみたいなんだ。」

「綴理くんを探してた?」

「うん、それについてなんだけど、少し相談することがあって。いいかな?」

「……分かった。」

「分かりました。」


 僕たちは少し移動して人気のない場所で話し合いを始めた。


「それで、相談なんだけど。」

「もしかして、告白されちゃった?」

「ツヅリさんのことですからありえますね。」


 二人は想定していたという風にそう言った。


「よくご存知で。」

「やっぱり。ティアの次は会長さんかぁ。」

「私も同じ身なのであまりどうこう言えませんね。言葉さんが良いと言ったら良いと思います。ツヅリさんが断らない時点で仲良く出来ると思いますから。」

「そこまで言われたら責任重大だな。気をつけないと。」

「じゃあ私が決めたらいいんだね。」

「任せる形になっちゃってごめん。」

「いいよ。私も仲良く出来る人じゃないと困るから。」

「ありがとう。」

「じゃあここでちょっと待ってて。私会長さんと話してくる。」

「あ、うん。」


 そうして言葉は一人会長の所に歩いていった。



「少しお話いいですか、会長さん?」

「ええ、私からもお願いするわ。」


 私が会長さんに話しかけると彼女もまた話したいことがあったようで快く応えてくれた。


「良かった。じゃあまずは……」

「うん。」

「綴理くんのこと、好きですか?」

「ええ。好きよ、大好き。生徒会長選挙の時に助けてもらってからずっと。」


 即答だった。


「それじゃあ私よりも前から好きなんですね。私が綴理くんに会ったのは二年になってからですから。」

「そうだったのね。てっきりもうずっと前から一緒だったのかと。」

「長くは一緒にいないですけど、出逢ってからはずっと一緒でしたから。というかクラスで話すのが綴理くんしかいなかったっていうのが正しいんですけど。」


 私も綴理くんもクラスでははぶかれてたからね。


「そうなのね。」

「はい。でももし他に話せる人がいたとしても私は綴理くんと一緒にいたと思います。綴理くんとは趣味も合いますから。」

「うん。」

「それで、一緒にいるうちに綴理くんの人となりを知って、優しさとあったかさを知って、気付いたら好きになってました。」


 何か嫌なことがあっても綴理くんに話を聞いて貰うと気が楽になった。綴理くんはどんな事でも真剣に向き合ってくれたし、的確に解決策も考えてくれた。私が抱える問題はあっという間に無くなって、後に残ったのは感謝と尊敬、そして綴理くんが好きだって気持ちだけだった。会長さんはどうだったんだろう?


「会長さんはどういうふうに綴理くんを好きになったんですか?」


 私が気になってそう聞くと、会長さんは過去を思い返して懐かしむように、慈しむように話し始めた。


「そうね。私が初めて彼に会ったのはさっきも言った生徒会長選挙の時だった。私はその頃から今と似たような立場で、会長になれるかどうかはそこまで問題じゃなかったわ。一番辛かったのは皆が描く私が本来の私に比べて大きかったこと。私自身はそれ程優れた人間じゃない。ただ、優秀な人との繋がりか多かっただけ。だから皆の望む会長になれるか不安だった。」

「確かに私も会長さんは何でも出来るすごい人だと思ってました。会長になる為に生まれてきたような人だって。」

「皆そう言うのよね。近くで一緒に活動している人達でさえ、ね。そんな感じで私は誰の前でも優れた人間でいなければならなかった。でも、彼はそうじゃなかった。彼だけは私を特別な人間じゃなくて、ただの一人の生徒として見てくれた。そんなに頑張らなくてもいいって言ってくれた。散々愚痴も聞いてもらったし、時にはアドバイスだってしてもらった。私が一番不安定だった時期に、誰よりもそばにいて支えてくれた。それで、段々と私の中で彼の存在が大きくなって、あっという間に好きになった。それからずっと、そして今も。」

「話してくれてありがとうございます。会長さんの気持ちはよく分かりました。だから、最後に二つ質問です。」


 私は少し表情を引き締めて会長さんの目を見つめた。


「何でも聞いて。」


 会長さんも真剣な顔で私の目を見つめ返した。


「じゃあまず一つ目。綴理くんの為に何でも出来ますか?それが綴理くんを間違った道に進めることだとしても。」

「それは出来ない。彼が間違った道に進むなら、それが彼の頼みでも全力で止める。」

「分かりました。じゃあ二つ目、これで本当に最後です。」

「うん。」

「綴理くんを全力で愛して、全力で愛される覚悟はありますか?」

「あるわ。」

「綴理くんのくれる愛は重いですよ。そして誰よりも愛に餓えている。それを受け止めて、その心を満たしてあげる自信はありますか?」

「うん。彼がそういう事を大切にしているのは話していて感じてた。それを含めても私の気持ちは変わらない。私が支えて貰ったように、私も彼を支えたい。私は彼が、綴理君が大好きだから。」


 少しの間、沈黙がその場を満たした。そして、


「分かりました。これからよろしくお願いします。一緒に綴理くんを支えて行きましょうね。」


 そう言って私は新しい家族に微笑みかけた。


「………はぁ、良かった……」


 会長さんはとてもほっとした顔をして息を吐いた。


「ごめんなさい、偉そうなこと言って。でも、綴理くんのそばにいる人は、私に負けないくらい綴理くんのことを思ってくれている人じゃないと納得出来なかったんです。だって私も綴理くんが大好きだから。大した気持ちも無い人には綴理くんのそばにいて欲しくないって、そう思ったんです。」

「いいの。私もきっと同じ気持ちだから。これからよろしくね。」

「はい。じゃあ綴理くんの所に戻りましょうか。」

「うん。」


 そうして私たちは少し離れた所で待っていた綴理くんの所に歩いて行った。



「おまたせ、綴理くん、ティア。」

「その様子だと、言葉は良いって言ったんだね。」

「うん、覚悟は伝わったから。」

「そっか、それなら。聖奈さん、これからよろしくおねがいします。」

「うん、よろしくね。あと、お願いなんだけど……」

「聖奈って呼んだらいいかな?」

「流石だね。うん、私だけさん付けはちょっと寂しいから。あと、敬語も。」

「分かったよ。じゃあ改めて。これからは一緒だよ、聖奈。」

「うん。」


 こうしてまた一人、僕は愛する人を見つけた。そして、愛してくれる人も。

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