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捜索開始

「んっ……今何時だろ。取り敢えず起きなきゃ。」


 逸る気持ちを僅かに抱えつつ目を覚ますと外はまだ暗く、幽かに赤みを帯び始めた頃だった。


「良かった。ちゃんと起きられた。」


 私は最初の予定を狂わせずに済んだことにほっと胸を撫で下ろし、それからすぐにベッドから降りて用意しておいた服に着替え始めた。


 今日からの一週間は全て彼を探す為に使うと決めている。今は一分一秒でも時間が惜しい。早く行かないと。



 起床から十分程で完璧に準備を整えた私は昨日のうちにドアの前に置いておいた荷物を背負い、部屋のドアを開けた。流石に早い時間なのもあって見たところ人は誰も居ないようだった。


「他の子に見つかったらきっと観光に誘われちゃう。普段ならありがたいけど、今はその時間が惜しいし、今のうちに城の外まで行かないとね。」


 私は少しの緊張を感じながら足早に城の出入り口まで向かった。




 同時刻、彼女、神代聖奈の部屋とは別棟にある部屋の一つに動きがあった。その部屋の使用者の名は御影策。彼もまた少し前に目覚めてから、すぐさま外出の支度を整えていた。


「起床時間は問題無い。予定通りだ。あとは昨晩用意しておいた手順通りに準備を進めるだけだな。」


 気分の良い目覚めだ。これも俺がそれだけ楽しみにしているということか。まあそれだけの価値が彼にはあるだろうな。とにかく一刻も早く居場所を突き止めこの好奇心を存分に満たさせてもらおう。



 少ししてあっという間に外出用装備に着替えた彼はベッド横に用意しておいた荷物を持ち、部屋のドアを開けた。予想通り人通りは皆無だった。


「こんなものだな。この時間から城を出ようとする奴など俺くらいか。……いや、この棟では、だな。おそらくもう一つの棟でも一人いるはずだ。」


 俺は一種の確信のようなものを持って、城の出入り口へと向かった。



 城の出入り口に到着し、さあ行こうというところでお互いがお互いを視界に捉えた。


「あっ、御影君。」

「やっぱりな。神代ならそうするだろうと思っていた。」

「そういう御影君も待ち切れなさそうな顔してるけど?」

「そうか。それは仕方ないな。事実楽しみではあるからな。」

「そっか。御影君も彼を探すのよね?」

「当然だ。っとこうしているのもなんだ、そろそろ行こうか。」

「そうね。時間は限られてる。まずは手掛かりを見つけるところから。」

「あぁ。」


 こうして【賢者】と【聖女】は城内の誰よりも早く城の外へと出ていった。



 城の敷地の外に出て、一度今ある情報を整理する。


「確か彼が追放された時、王城だけじゃなくて王都からもって言っていた筈よね?」

「そうだな、確かにそう言っていた。であれば王都内には手掛かりは無いだろう。」

「早速王都の外までか。これは長い道程になりそうね。」


 改めてこれからしようとしていることの大変さを自覚した。けれど、それはやらない理由にはならない。どれだけ困難でも絶対にやり遂げてみせる。そう決めたから。


「それで、その後何処に向かったかだが、聞くところによるとエルカシアという街の方面の門から追放されたらしい。何も分からないまま放り出されれば、普通の思考ならまずは最も近い街を目指すはずだ。それを考えると、おそらく最初の手掛かりはそのエルカシアにあるだろう。」


 いきなり有意義な情報が伝えられた。


「そうなの?いつの間にそんなこと調べて……」


 驚く私に対し、彼はなんでもないことのように答える。


「追放される時に俺は比較的落ち着いていたからな。少し話を聞いておいて、残りは訓練中に身近な兵士から少しずつ情報を集めた。そして地図や本を空いた時のたた間に読み込んである程度はその情報を整理してある。」


 本当にこの秀才は抜かりがない。流石は全国一の頭脳だ。素直にそう感心した。


 それから、彼の情報を元にエルカシアへと向かうこととなった。まだ早朝の為、人通りも無くあっという間に門まで辿り着く。しかし、時間が早すぎた為まだ門は開いていなかった。仕方なく門が開くまで王都内を見て回ることにする。


「この世界に来て初めて訓練以外で外に出られたけど、こんな感じだったのね。」


 城での生活からなんとなく予想は出来ていたけれど、日本程ではないにせよ文明が進んでいる。これならいきなりこの世界に放り出されても生きていけそうだ。


「城で集めた情報通りだな。通貨さえ手に入れれば生活は出来そうだ。これ程の環境であればきっと問題無く生きているだろう。目的も達成出来そうだ。」


 隣を歩く御影君は納得し、安心したようにそう言った。


 そうだよね。あまりにも文明に差があり過ぎたらいくら彼でもどうにも出来なかった筈。ここまで環境が整っていて良かった。これなら生きて会えそう。



 暫く歩き回って粗方王都を把握出来たところで御影君から声がかかる。


「ところで、そろそろ店が開き始める時間じゃないか?これからかなりの距離を動く筈だ。しっかり食べておいた方がいいだろう。」

「確かに。じゃあ露店が営業し始めたらすぐに買って、城の生徒が外出し始める前に王都を出てしまいましょう。」

「俺は普段から一人だが、神代は見つかると面倒なことになりそうだからな。俺としてもそうしたい。」

「決まりね。」


 そうして話しているうちに、ぽつぽつと露店が営業し始めた。少し待ってお腹に溜まりそうな物を選んで買い、食べながら門へと向かう。


「一般的な食事も結構美味しいのね。城での食事はしっかりしたものだったけれど、それ以外の食事には少し不安があったから良かった。」

「そうだな。正直あまり期待していなかったが良い意味で予想を裏切ってくれた。」

「一番の目的は捜索だけど、その合間に少し観光してみるのも良さそうね。」

「息抜きとしては良さそうだな。そうしようか。」


 なんて話していると、門に到着した。今度はちゃんと開いていたので、無事外に出ることが出来た。ここからが本番だ。


 私たちは、少し急ぎめでエルカシアへと向かった。道中魔物に出会うこともなくスムーズに進むことが出来た。



 一時間程で街に入った。おそらくここがエルカシアだろう。


「ここからね。」

「あぁ、おそらくこの街にいる、もしくはいた筈だ。きっと何かしらの情報は手に入るだろう。ここは手分けして幅広く調べるとしよう。」

「そうね。じゃあ昼頃またここに戻って来ましょう。」

「分かった。それじゃあ始めるか。」

「ええ。」


 私たちはそれぞれ別々の方向へと歩き出した。



「さてと、何から始めようかな。もしここで暮らすなら食事は露店でどうにか出来るとして、宿が必要よね。ここで宿屋っていったらどこなんだろ?そういう情報に詳しそうなのは……」


 私はこういう世界にはよくある冒険者ギルドを探した。少し歩くと、それは簡単に見つかった。迷わず中に入り、中を見回す。まだ早い時間なのもあってあまり人はいないみたいだ。あいている受付に行きこの街の宿について尋ねてみると、


「そうですね。この近くだと妖精の宿り木亭が有名ですかね。このギルドのすぐ近くですし、サービスの質も良いので冒険者の中ではそこに泊まって生活している方が多いと思います。」


 というふうに快く教えてくれた。


 早速その宿に向かった私は扉を開いて中に入った。


「いらっしゃい。」


 受付では快活そうな女将さんが出迎えてくれた。宿泊客として訪れた訳ではないので悪い気がしたけれど、今は何よりも優先すべきことがあるので思い切って聞いてみることにした。


「突然で申し訳無いんですが人を探しているんです。もしかしたらその人がここに来てたかもしれなくて。」

「あら、そうなの?いいわよ、なんでも聞いて。丁度今は満室で宿泊でも断らなくちゃいけなかったし、暇してたところだったから。」


 良かった。タイミングが良かったみたいだ。


「その人の名前は紡詞綴理って言うんですけど、ここに泊まってませんでしたか?」


 そう尋ねると、女将さんはすぐに反応をみせた。


「ツヅリ?あ、もしかして貴方と同じくらいの年の男の子?」

「!…そうです!」


 きた。


「コトハって女の子も一緒だったわよね?」


 これは絶対にあの二人だ。


「……はい!間違いありません。ここに泊まってたんですね。」

「ええ、毎日見ていて楽しかったわよ。本当に仲のいいカップルだった。毎日イチャイチャしてるのを眺めるのが日課になってたくらいよ。」

「っ……そうですか。」


 ちょっと聞きたくなかったことを聞いてしまい動揺が顔に出てしまいそうになり慌てて取り繕った。生きていただけでも良いんだ。それ以上は欲張っちゃいけない。今は何よりも早く見つける、それだけなんだから。


「でも残念ね。二人なら一月前にこの街を出たわよ。」

「そうですか。行き先は分かりますか?」

「ここから近くの街に行くって言ってたから、多分バイタシアにいると思うわ。次の街にも一月くらいはいるみたいだから多分まだそこにいると思う。でも、いずれ王都にも行くって言っていたからそっちにいるかもしれないわ。そこに関しては流石に。私が知っていることはこれくらいかしらね。」


 予想していたよりも多くの情報が得られた。随分と女将さんと仲良くしていたみたいね。おかげで見つけるのはそこまで難しくなさそう。良かった。


「ありがとうございます。それだけ聞ければ見つけられそうです。あとは自分で頑張ってみます。」

「役に立ててよかったわ。それにしてもこんな綺麗な娘に探してもらっているなんて、あの子ったらモテるわね。将来何人奥さん作るのかしら。」

「えっ?」


 今すごく大事なことを聞いた気がする。


「奥さんって何人もいて良いものなんですか?」

「そうよ。殆どの国では一夫多妻制だから、沢山奥さんがいるのは珍しいことじゃないわ。」

「そうなんですね。」


 その事実に少し救われた。


 まだ諦めなくてもいいのかな?


「ええ。あ、引き止めて悪かったわね。きっと見つかるわ、頑張って。」

「はい、では。」


 そうして私は妖精の宿り木亭を後にした。


 行き先の候補は分かった。あとは細かい情報を集めて行けば良い。区切りも良いし、少し休憩しよう。続きはそれからゆっくりでいいよね。



 それから暫く時間が経過し昼頃になったので集合場所に向かった。そこでは既に御影君が待っていた。


「待たせたわね。何か情報は得られた?」

「あぁ、俺は冒険者として活動していると当たりをつけて武器屋を中心に聞いて回った。そのうちの一件で行き先の情報が得られた。」

「私の方は宿の方で話を聞いて、そこで行き先を教えてもらった。」

「そうか。じゃあ照らし合わせれば確実だな。俺の方はバイタシアに行けと言われたが、神代もか?」

「ええ。もしかすると王都にも来てるかもしれないとも言われたわ。」

「やっぱりか。ならまずはバイタシアで探索をして、休暇の後半では王都も探すことにしよう。」

「そうしましょう。じゃあ早速向かいますか。」


 私たちはそのまま目的の街バイタシアへと向かった。



 かなり歩いて到着した頃には日が暮れ始めていた。仕方がないので探索は中断して適当なところに宿をとることになった。


「それじゃあ、また明日。」

「あぁ。」


 御影君と別れて自室へと向かった。部屋についてひと息つく。


「はぁ、今日は体を酷使し過ぎたな。お風呂入って早く寝よう。明日も動かなきゃいけないからね。」


 そうして重い体に鞭を打ってお風呂を済ませ、ベッドに倒れ込む。


「はぁ、やっと休める。本当に疲れたなぁ。でも行き先は掴めたし、頑張って良かった。きっと、会えるよね?」


 綴理君との再開を思うと温かい気持ちになって、いつの間にか私は眠りに就いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖奈はいつ頃綴理に合流予定ですか。
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