お披露目と荒稼ぎ
長めです。
戦力強化週間を終えた次の日、丸一日宿に籠もってゆっくりと疲れをとった。そして迎えた今日、久しぶりに三人で出掛ける準備をしてギルドに向かう。そう、今日からはまた全員で依頼を受けるのだ。
ギルドに着いた僕たちは掲示板の前で今日の方針を話し合う。
「何がいいかな。戦力強化週間中にずっと思ってたんだけど、依頼を中心に受けるより素材収集を中心にした方が圧倒的に稼ぎ易いんだよね。」
「最初の頃はそこまで強くなかったから依頼で少しずつ慣らしてたけど、今ならもうそうする必要もないもんね。」
「うん。そうだな……ティアはどうしたい?経験のことも考えてティアに合わせようと思うんだけど。」
話を振られたティアは少しの間考える素振りを見せたあと、僕の方を向いて口を開いた。
「そうですね。私一人なら依頼を優先した方が難易度もはっきりしていて安全だとは思いますが、今はお二人がいますから自由な素材収集でいいと思います。」
ちゃんと考えた上での結論ならそれでいいかな。
「分かった。じゃあ素材収集優先で、ついでに熟せそうな依頼だけ受けていこうか。」
「決まりだね。」
「はい。」
僕たちは手頃な依頼を二つ程受けて、いつもの森ヘと向かった。
「せっかくだし新しく覚えたスキルと魔法を使ってみようか。」
「そうだね。どんな感じにする?ここら辺のレベルだと連携って感じでもないでしょ?」
「それもそうか。じゃあ一つの群れを一人で担当してみようかな。残りの二人で素材回収にまわる形で。」
「分かった。ティアはそれで大丈夫?一応難易度は調整するけど。」
「はい、大丈夫です。私もどこまで出来るのか知りたいですから丁度良いと思います。」
「おっけー。じゃあそういうことで。」
さて、狩りを始めるか。
まず最初はお馴染みのレギオンウルフさん達相手に新スキルのチェックだ。今回使うのは『瞬間移動』と『空撃』の二つ。どちらも今まで使っていたスキルの進化版だ。性能は上がったけど使ってみるまで使いやすさは分からないから多用して慣らさないと。
という事で先に『瞬間移動』から。これは道のり無視だから通り道に障害物があっても移動出来る筈だ。移動先を明確にイメージして……
『瞬間移動』
気付くと目の前にレギオンウルフがいた。イメージ通りの位置だ。僕はすかさず短剣を振り翳す。
ザシュッ
いきなり近くに現れた敵に動揺したのか動きを止めたレギオンウルフは、為す術もなく短剣をその身に受けた。
今の一瞬だけで一体の討伐が出来た。今までは経路を考える手間があったけど、このスキルでならそれがない。いきなり景色が変わることに慣れてしまえば圧倒的に短時間でケリをつけられる有能なスキルだな。これから段々と慣らしていこう。
さて次は『空撃』だ。これは実際やってみれば違いは目で見て分かるだろう。
「どうなるかな。」
群れから少し離れた位置で短剣を振る。瞬間、イメージした場所に斬撃が生まれた。本当にいきなり空間に現れるんだな。これは奇襲として使えそうだ。
そんな感じであっという間にレギオンウルフの群れを倒しきってしまった。多分三分くらいで。
「終わったよ。傍から見てどうだったかな?」
「うん、なんかすごかった。綴理くんが消えたと思ったらレギオンウルフが急に斬られてたりして目で追うのがやっとだったよ。」
「私は目で追うのすら出来なかったです。」
二人はよく分からないという表情でふわっとした感想を返してくれた。
まあ、初めて瞬間移動見たらそうなるよな。『空撃』なんか唐突過ぎて訳分かんないからな。
「ありがとう。僕はこんな感じだね。次はどうする?」
僕は空気を切り替えて二人に順番を回す。
「じゃあ私がいこうかな。丁度今ならタイミングも良いし。」
そう言って言葉は新しい魔法を使った。
空間魔法『固有次元区画』
言葉が手を翳すと、一瞬のうちに周囲にあったレギオンウルフの死体が消え去った。
「収納出来たってことで良いんだよね?」
「うん、ちゃんと取り出せるよ。ほら。」
そう言うと言葉は目の前の地面にレギオンウルフの死体を出した。一瞬だった。
すごいな。アイテムに組み込まれたシステムを読み解くことで本来存在していなかった魔法を創り出したんだよな。言葉もいつの間にかチートキャラになってしまった。
「もう使いこなしてるんだね。ちなみに容量ってどれくらいあるの?」
ここが一番気になるところだ。
「う〜んとね、容量気にしなくていいかなってくらいは入るよ。大体綴理くんが持ってる鞄の十倍くらいは入ると思う。」
「なんかもう言葉がいる時は何も持ってこなくて良さそうな気がする。」
「そうかもしれません。ツヅリさんの鞄はソロ用ですね。」
僕の鞄は使う用というよりかは言葉の魔法の研究材料になったって感じだな。結構高かったけど意外な収獲があったから買って良かった。
「あとは戦闘用の魔法だね。スキルの方は相手が魔法を使ってこないとあんまり出番がないから機会ができた時にでも。」
「そうだね。今は普通に攻撃魔法だけでいこう。」
僕たちは次の魔物を探して森の奥へと向かった。
暫く進んだ森の深いところで足を止め、周囲を確認する。
「この辺りだと………来たみたいだね。言葉は準備出来てる?」
「ばっちりだよ。」
「いいね。今から来るのはデッドリーサイスベアで、爪の威力がとにかく凄い。それ以外も重量を活かした物理攻撃だから、結局は当たらなければ問題無いかな。」
「了解。私は魔法戦闘だから相性良さそうだね。」
「多分僕の時より楽に倒せるんじゃないかな。」
「取り敢えずやってみれば分かるよね。」
「そうだね。」
「じゃあ……」
そうして言葉が構えた瞬間、
「グオォォォォォッ!!」
少し離れた木の陰からデッドリーサイスベアが現れ、こちらを向いて咆哮を上げた。
「来た。」
言葉がすぐさま、魔法を発動する。
土属性魔法『拘泥』
風属性魔法『刻死風斬』
地面から出て来た土の縄がデッドリーサイスベアの四肢を拘束し、首元に大きめの風の刃が生み出されてその首を一撃で落とした。この間たった五秒。あっという間の決着だった。
「……ハハッ、スゴイナァ………」
予想以上に早すぎてつい言語がおかしくなってしまった。
「綴理くん大丈夫?」
言葉に声をかけられてはっと意識を戻すと、死体はもう既に言葉が回収した後だった。
「うん、大丈夫、だ、よ?」
「大丈夫そうじゃないね。」
「いや、それはどうしようもないと思う。これ程とは思ってなかったから。僕がやった時は接近戦だったのもあったけど五分くらいはかかったんだよ。それが五秒って。」
こうなるとは思っていたけど予想以上に差があり過ぎて結構心にくるんだよね。
「すごいでしょ?色々と効率考えて生み出したんだよ。」
まあでもこうやって自慢気な言葉の可愛さに比べれば僕のプライドはどうでもいいか。とにかく今は褒めてあげないとね。
「そうだね。確かに無駄が無かった。魔法の密度もそうだけど、特に拘束する時に出た砂塵を風魔法に混ぜて微振動させることで威力を上げるとことかよく考えられてると思う。」
「凄い!そこ気付いたんだね。普通初見だったら分からないのに。」
「普通の風魔法だったらあそこまで威力を上げるのは難しいからね。手っ取り早い強化方法としてはその辺かなって。」
「流石は綴理くん。なんでも分かっちゃうんだね。」
「何でもは分からな……いや、今回はたまたま微かに視えたから分かったってだけだよ。」
一瞬、眼鏡に三編みの猫委員長のセリフっぽいことを言いそうになったがやめておいた。誰かが著作権を気にしている気がしたんだ。
「綴理くん?まあいっか。取り敢えず私のお披露目はこんな感じかな。次はティアの番だよ。」
一瞬怪訝そうな顔をした言葉だったけど、そのままティアに話を回してくれたようだ。
「そうですね。あとは私だけ……頑張ります!」
結構緊張してるな。無理もないか。直前にあんなの見せられたらね。でも、そんなに気負わないで欲しいな。あくまで現時点でどれくらいかが分かればいいんだし。こういう時はこうするのが一番かな。
「言葉、ティア、こっち来て。」
「どうしたの?」
「どうしましたか?」
突然呼ばれて不思議そうな顔をしながらも近づいて来た二人を両腕で抱き締めた。
「わっ、綴理くん?」
「えっと、ツヅリさん?」
抱き締められた二人は更に訳が分からないといった顔をした。突然こうじゃ分からないよね。
「ティアが緊張してるみたいだからほぐせるかなって思って。」
一瞬止まった二人だったけど、理解が追いついたみたいでそっと口を開いた。
「ありがとうございます。しっかりほぐれました。私は私に出来ることを精一杯やります。コトハさんにはまだまだ追い付けませんからね。」
「うん、自分のペースでゆっくりでいいから一緒に頑張っていこう。」
「はい。」
上手くいったみたいで良かった。
「理由は分かったけどなんで私も?」
あ、そっちの説明も必要だよね。まあ単純なことなんだけど。
「ティアだけ抱き締めたら言葉が寂しいかなって。違ったかな?」
「ううん、確かにそれはあると思う。ティアがそうしてもらってるのは嫌じゃないけど、私もして欲しいなとは思うかな。」
「そっか、なら良かった。二人共に寂しい思いはして欲しくないからね。」
「うん。ありがとう。」
そうして少しの間三人で抱き合っていた。
「さて、それじゃあ再開しますか。」
どちらからともなく離れた僕たちは狩りを再開することにした。
早速『索敵』で周囲を確認して丁度良い標的を見つける。
「ティア、木の上にワイルドシーフがいる。」
言いながらスキルを切り替えてティアの目に様子が映るようにする。
「……分かりました。いきます。」
準備が整ったらしく、ティアが集中し始めた。数秒してティアが手を翳し無詠唱で魔法を放った。
風属性魔法『紅葉乱舞』
魔物を斬った多量の風の刃は血に染まり、その名の如く紅葉のように舞って消えていった。
「どうでしょうか。私としては、今までと比べて威力も精度も格段に上がったのが感じられましたけど。」
ティアは相当手応えがあったようで、やる前の緊張度合いとは打って変わってとても満足した表情をしていた。あとは僕たちが認めてあげるだけだな。
「うん、良かったよ。本来ティアのレベルじゃ出せない威力だった。よく頑張ったね。」
「教えたことちゃんと出来てた。これであとは本当に慣れてくだけになったね。一緒に頑張って強くなろうね。」
「良かった。ありがとうございます。」
今回は三人共だいぶ強くなれてたな。この感じだと今日の稼ぎは結構いきそうだ。ちょっと楽しみだな。
「そろそろ帰ろうか。」
「そうだね。もうちょっとで日が暮れちゃうし帰ろっか。」
「成果としては十分な物がありますし、そうしましょう。」
あれから暫く森の中で狩りを続けた僕たちは相当数の魔物を狩った。あまりにもスムーズに狩れたものだから気付いた時にはこの時間だった。周りが見えなくなる前に街に戻らないと。あ、そうだ。こういう時はあれを使おう。
「言葉、ティア、僕に掴まって。街のすぐ近くまで『舞台は変わって』で行こう。その方が早いから。」
「そういえばそんなことも出来るようになったんだったね。便利だなぁ。」
「普通では有り得ないことですからね。凄いです。」
「そうだね。スキルに感謝しないと。じゃあ、行くよ。」
「うん。いつでもいいよ。」
「はい、私も大丈夫です。」
「よし!」
『舞台は変わって』
僕たちは一瞬で街の門の近くに転移した。そしてそのまま街に入りギルドヘと向かった。そして今ギルドの受付に到着した。
「依頼の達成報告と素材買取をお願いします。」
「分かりました。まずは依頼の方から、レギオンウルフの討伐十五体とワイルドシーフ討伐十体ですね。証明部位をお願いします。……………はい、確認出来ました。合計で四二五〇〇エルクになります。次に素材買取ですね。量が多い場合は裏の倉庫の方での買取となりますがどう致しますか。」
「裏の倉庫でお願いします。」
「分かりました。ご案内致します。」
そうして僕たちは受付の人に、案内されてギルド裏の倉庫に到着した。そこでは強面の男性が素材のチェックと仕分けを行っているところで、男性は僕たちの方を見ると怪訝そうな顔をして口を開いた。
「こりゃまた随分と若いが、裏に来なきゃ出せない程狩れたのか?見た目の感じだとそこまで強いようには見えないが………まあいいさっさと出してくれ。」
見た目的にはそう思われても仕方ないかな。でもまあ実際に見てもらえば早いか。
「言葉、お願い。」
「了解。」
空間魔法『固有次元区画』
ドザアァァァァァァァァァァ!
言葉が魔法を使うと同時に夥しい数の魔物の死体が倉庫内に積み上げられた。
「「は?」」
それを見た受付のお姉さんと仕分けの男性は予想通りぽか~んとしている。
驚いてるとこ悪いけど、買取してもらわないと。
「これでいいですか?良ければ買取をお願いします。」
「………あ、あぁ。この量だと時間がかかるが構わないか?」
受付のお姉さんはまだ固まったままだったけど、仕分けの男性は復活したので作業に移ってもらった。
暫くして買取の計算が終わったようで、途中に復活した受付のお姉さんから声がかかった。
「お待たせ致しました。素材の確認が出来ましたので、買取に移ります。」
受付のお姉さんに連れられ再び受付まで戻って来た僕たちはわくわくしながら結果を待つ。
「では今回の買取内容ですが、デッドリーサイスベアが五体、ユニコーンボアが十体、キラーハウンド八体、ブラッドパンサー十三体、ラピッドラビット二十体、ファントムバード十八体、クレイジーホース四体、ブラッドファングフォックス六体でした。買取価格は合計八十万四千エルクになります。」
おお、かなりいったなぁ。一日で一ヶ月分の宿泊費稼げちゃったよ。これが毎日となると相当お金に余裕が出来るな。冒険者って凄い。
僕たちは報酬を受け取って帰路についた。
「それにしてもここまで稼げるとは思わなかったなぁ。」
ギルドを出て少しして、言葉がそう呟いた。それに対して僕も言葉を返す。
「本当にね。本格的に冒険者が稼げるって実感が湧いたよ。まあ今日に関しては言葉が殆ど稼いだよね。今日の言葉は本当に強かったな。」
「そうですね。今日のコトハさんはいつにも増して格好良かったです。」
「そ、そっか。」
言葉はこういう褒められ方に慣れていないからか、とても恥ずかしそうに笑った。こういう顔も可愛いな。
「うん、本当に頑張ったね。勿論ティアも。この前は僕がマッサージとかしてもらったから今日は僕が二人に何かしたいな。何かして欲しいことある?」
いつも癒やしてもらってるし、たまには僕も恩返ししないとね。
「そうだね、どうしよっか。デートの約束はしたからそれ以外でだもんね。」
「どうしましょう。」
「う〜ん。取り敢えず宿に着いてから考えようかな。」
「そうしましょうか。」
すぐには決まらないようで、帰ってからのお楽しみということになった。
それにしても二人共だいぶ仲良くなったな。日本だったら僕は二股状態だから空気が悪くなってもおかしくないのに、本当にできた娘たちだ。そんな二人を彼女に出来てる僕は本当に幸せ者だな。感謝しないと。
そうして宿に戻って来た僕たちは、流石にあれだけ稼いだのもあってお風呂や食事を済ませたあとすぐにベッドに入った。思っていたより疲れていたようで、二人はすぐに眠ってしまった。どうやら二人からのお願いは明日みたいだな。
「二人共、今日はよく頑張ったね。ゆっくり休んで明日もいい日にしよう。おやすみ。」
両隣の安らかな寝顔に一度ずつキスをして、僕も目を閉じゆっくりと意識を落としていった。
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