言葉の無詠唱魔法講座
更新が遅れてすみません。
ギルドで綴理くんと別れ、ティアと二人きりになる。思えばティアと二人きりは初めてだ。綴理くんを挟まずに話したことが無いからどう話しかけたら良いか分からない。そう悩んでいたんだけど、
「ツヅリさん、なんだか楽しそうでしたね。」
ティアの方から声をかけてきた。
「え?」
「一人で依頼に行くって言っていた時、凄く楽しみだって顔してました。」
「言われてみるとそうだったね。多分私たちがいる時は私たちが危険な目にあわないように気を遣いながら戦ってるから、全力で戦えなくて不完全燃焼だったんだと思う。それで、何にも気にしないで自由に出来るようになったから自然とあんな顔になったんじゃないかな。」
私は普段の綴理くんを思い返しながらそう言った。
「ツヅリさんは優しいですからね。早く心配させないくらい強くなりたいです。今の私は完全に足手まといですから。」
ティアは申し訳無さそうな顔をしてそう口にした。それを見て私も口を開く。
「私もだよ。私はこの世界に来てからずっと綴理くんの側にいるけどいつも守られてばっかり。最近は私も強くなって一緒に戦えるようになったけど、綴理くんの隣に立つにはまだ足りなくていつも申し訳ないと思ってる。だから、一緒に頑張って強くなろう。いつか綴理くんの隣に立てるように。」
「そうですね。気を落としていても仕方ないですし、早く帰って魔法の練習をしましょう。」
「うん。じゃあ行こっか。」
「はい。」
私たちは歩くペースを早めて宿へと向かった。
宿についてお風呂で身体の汚れを落とし、着替えを済ませて二人でベッドの縁に腰掛けた。準備は万端だ。
「それじゃあ始めるよ。分からないことがあったらどんどん聞いてね。」
「はい、宜しくお願いします。」
「じゃあまずティアが魔法使う時ってどんな手順で使ってる?私の方法は特殊だから普通の方法も知っておきたいんだ。」
ティアの普通が分からないと比較しようがないからね。
「えっと、私の場合というか一般的には決められた詠唱をすることで体内の魔力が一箇所に集まって、それが一定の動きをして決められた形の魔法が組み立てられる、というふうに詠唱を起点に自動で発動される感じですね。」
「やっぱりそんな感じなんだね。詳しい説明ありがとう、よく分かったよ。」
概ね予想通りの仕組みだ。これなら当初の予定通りに進められそう。
「お役に立てたのなら良かったです。」
「うん、じゃあ改めてこれから私が普段やっている魔法の使い方、正確には魔力の使い方を教えるよ。」
「お願いします。」
「ティアの言った感じだと、詠唱する以外は基本的に使う人の意志は入らないんだよね?」
「そうなりますね。」
「そっか、私の場合は詠唱しないで最初から最後まで自分で考えて組み立てるんだ。だから厳密には毎回使ってる魔法が違うんだよね。」
「そういえばツヅリさんもコトハさんも詠唱しているところを見たことがありませんね。」
ティアは私たちの戦いを思い出すようにしてそう言いながら不思議そうな顔をした。
「綴理くんも私も元々魔法が使えなかったから、そもそも詠唱がどんなものか知らないんだよね。そのまま別の方法で出来るようになっちゃったから今もまだ知らないままで。綴理くんも私の魔法を元に覚えてるから知らないんだ。」
「そうだったんですね。私にとっては魔法と詠唱は二つで一つのものでしたから、詠唱無しで魔法を使う自分が想像出来ません。」
「だよね。でも結構単純なんだよ?詠唱してる時の魔力の動きを詠唱無しで再現する、ただこれだけだから。」
「話だけ聞くと確かに単純ではありますね。」
「そうでしょ。この世界の文明の進み具合なら伝わると思うけど、要は機械を使って布を織るのが詠唱魔法で手作業で布を織るのが無詠唱魔法ってことだね。」
「分かりやすいですね。」
「だからそれと同じ様に無詠唱に求められるのは、手作業する時のコツを掴むこととひたすら慣れることなんだ。初めは魔力を自分の意思で動かす所からなんだけど、これが結構難しいんだよね。なかなか安定させられなくて。あとは、それに慣れてきたらその魔力を使って決まりどおりに組み立てる。これで晴れて無詠唱魔法が使えるようになるって感じ。手順は少ないからまずはやってみよう。」
「早速ですね。頑張ります。」
こうして魔力制御の訓練が始まった。
「まず試しに魔力を動かせるかやってみて。」
「はい。」
ティアは緊張した面持ちで頷いた。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。もっと力を抜いて、楽な気持ちで。もし暴発しても、私がこの部屋の内側に魔力の膜を張ってあるから大丈夫。気にせずやっていこう。」
「分かりました。」
こころなしかティアの表情が少し柔らかくなった気がする。これなら大丈夫そうだね。
ティアが目を閉じて集中状態に入る。私はその様子を『解の魔眼』を使って観察し、状況把握に努める。魔力の動きが目に見えて分かるから、教えるにはもってこいのスキルだ。
少しして、ティアの体内の魔力が動き始めた。
「いいよ。その調子で身体全体を循環させるようにして、段々考えなくても出来るようにしていこう。」
正直飲み込みが早いと思う。魔法に長けた魔族だからなのか、それとも昨日のアップデートのおかげで仕様が変わったからなのかは分からないけど、教える側としては手がかからなくてありがたい。このままいけば今日中に無詠唱魔法を使えるようになるかもしれないな。頑張れティア!
それから十分程した辺りでティアがゆっくりと息を吐いた。
「おつかれさま。どうやらいけたみたいだね。」
「はい。以前より魔力の流れがしっかりと感じ取れました。やはり昨日のステータスの変化の時に私自身の身体にも変化があったのかもしれません。」
「なんにせよ良かった。これで次の段階に進めるね。」
「魔法の組み立て、ですね。」
「うん。その為にはまず魔法陣の理解からだね。自分で組み立てるから、魔法陣がどういうものか分かってないと上手く組み立てられないんだ。」
そう。ここからは魔法を発動した時に現れる魔法陣について勉強する必要がある。魔法陣には部分毎に決まった意味があって、その組み合わせで魔法という結果を生み出している。だからそのシステムを覚えてしまえばいくらでも応用が出来てしまうんだよね。という訳で、魔法陣を細かく分解して説明していく。
「まず魔法陣の中心の図形が属性を表してて、その外側を囲む円の数で攻撃系とかのタイプをが決まる。そしてその円と一番外側の二重円との間に書き込まれるもので出力とかの細かいことが指定されて、最後に二重円の間に詠唱文が書き込まれて魔法陣が完成する。魔法陣の内訳はこんな感じだよ。」
「いつも見ていた魔法陣はそんな複雑に組み立てられたものだったんですね。」
ティアはとても驚いた表情をしていた。
「そうだね。それだけのことを詠唱をするだけで自動で選択して組み立ててくれるっていうのは便利だと思う。でもそれだと微調整が出来なくて使い勝手が良くないよね。詠唱をした時点で魔法が選択されちゃうから、詠唱ありだとどうしてもその問題が解決出来ない。そこでするのが自動化に頼らない無詠唱ってことだね。」
「それで魔法陣の理解が必要だと。」
「そうなるね。でも実はもう今の話を聞いた時点でこれ以上は勉強しなくてもいいんだよね。」
私はいたずらっぽくそう言った。
「え、そうなんですか?てっきりこれから一つずつ覚えていくのかと。」
「それだと大変でしょ?結局無詠唱に必要なのは、魔法を使う時に何を決めなきゃいけないのかを知ってることだから。それさえ分かったら覚えておくものは何もないんだ。無詠唱の時魔法陣は使わないからね。」
「使わないんですね。」
「うん、その代わり頭の中に明確なイメージを持つことが大切なんだ。どんな過程を通って魔法になるのかのね。具体的には属性、性質、形状、動き、威力の決定とかをして結果を限定していく感じで。それが細かくて明確な程、それをはっきり思い浮かべられている程、思った通りの魔法になるよ。例えば」
そう言って私は掌に小さな火の玉を生み出した。
「この火の玉の場合だと、まずは火属性。次に攻撃魔法。その次に球体、静止、最小限の威力って感じに決めてる。纏めると、最小限の威力で静止した球体型の火属性攻撃魔法っていうことだね。威力の上下は込める魔力の量で、精度は魔力操作の上手さで変わるよ。」
「分かりました。早速やってみますね。」
「うん、頑張って!」
ティアはさっきと同じ様に目を瞑って身体の魔力を動かし始める。少しずつ、少しずつ魔力が形になっていく。そして、
「出来ました!」
目を開いたティアは嬉しそうな顔を私の方に向けて言った。
「頑張ったね、ティア。あとはそれを繰り返してスムーズに素早く出来る様になったら完璧だよ。」
「はい!練習あるのみですね!」
ティアは瞳を輝かせ、また練習を始めた。
無詠唱魔法が使えるのがよっぽど嬉しかったんだね。あそこまで喜んでくれるなら教えて良かった。
「じゃあそろそろ私も練習しようかな。新しい魔法も考えたいし。」
それからは綴理くんが帰ってくるまでずっと二人で魔法の練習を続けた。
今回の件で、ティアとの間にあった遠慮みたいなものが完全に無くなって仲良くなることが出来た。綴理くん、もしかして狙ってたのかな?まあそうじゃなくてもこの機会をくれた綴理くんには感謝しないと。
ありがとう、綴理くん。
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