一方その頃
更新が遅れてすみません。今回は短めです。
この世界に来てから一月半が経った。いや、もうすぐ二月か。
「綴理君、どうしてるかな。こう言うのはあれだけど、一緒に追放されたあの子が羨ましいなぁ。」
今日も私はあの日召喚されてすぐ追放された彼のことを考える。もう二月近く顔を見ていないことになるから、彼の力を信用していてもやはり心配になってしまう。いくら彼が凄いといってもここは今までの常識が一切通用しない異世界だ。彼といえども今生きている保証はない。
「あ~早く自由になりたい。外に出たいよ〜。」
はぁ。最近は毎日こんな感じだ。こんな姿は部屋の外には持ち出せない。生徒の代表なんだから。でも、逆に言えば部屋の中ならいいんだよね。ベッドの上でバタバタしたり悶たりしてても誰も見てないし。
「街に出れないか聞いてみようかな。それが出来たら上手く動けば綴理君の行き先の手掛かりくらいは掴める筈なんだけど。………でも駄目か。訓練以外では頑なに城の外に出さないようにしてる気がするんだよね。多分許可は出ないかな。あ~もう全部投げ出して脱出したいなぁ。」
そうしていつもの様に自由時間を浪費していたら、気付けば夕食の時間になっていた。
「もうこんな時間かぁ。部屋の外に出るなら会長モードに切り替えなきゃね。………よし。」
私は凛とした表情を顔に貼り付け部屋の扉を開いた。
同時刻、また別の部屋。
「今日の訓練も無駄無く終われた。とはいえ勇者がいると満足に出来ないこともあるからな。今のうちに少しでも訓練しておこう。」
そう言って俺はいつもやっているように自室での魔法の訓練を始めた。日々ひたすら枯渇するまで魔力を消費しているせいか、いつの間にか魔力回復のスキルを獲得していた。それにより訓練の量も増え、各魔法のレベルもだいぶ上がった。いい傾向だ。
「最近は新しく治癒魔法も修得していたな。手持ちの中では一番レベルが低いし最優先で育成すべきなんだが、対象がいないと使えないのが難点だな。仕方ない、後々機会を見つけ次第鍛えていくとするか。」
一つずつ順番に手持ちの魔法を使用していく。室内で火属性は危険なのでそれ以外だが。もうずっとやってきているからか、訓練しながらも別のことを考える余裕が出てきたので最近では魔法のシステムについて思考を巡らせている。
毎日の様に使用しているといつの間にか各魔法のレベルが上がっている。魔法のレベルが上がると使用可能な魔法が増え、それは各魔法とレベル毎に決まっている。複数人に確認したが全員共通の魔法を覚えていた。だからこれはおそらくそういうシステムになっているのだろう。
加えて、各魔法の発動には決まった詠唱が必要であるらしく、魔法を覚えると同時に自然と分かる様になるみたいだな。その点に関しては最初から『詠唱破棄』を持っていた俺はよく分からないが、魔法の種類の調査と並行して聞いたので間違いないだろう。
今の所集めた情報から分かったのはこんなものか。
「情報が足りないな。現時点では予想出来た範囲内でしかない。やはり城の外でこの世界の住人達からも情報を集める必要があるな。そしてゆくゆくはおそらくイレギュラーであろう彼にも詳しく聞くことが出来れば更にこの世界について分かる筈だ。」
まあ、分かったからといってどうということもないのだが、異世界に来たからにはこの世界のことを解明したくなってしまう。何より新しい発見は面白さの塊だからな。前の世界で秀才と呼ばれていたのも実際はこの趣味の一環で知識を集めた結果に過ぎなかった。
そんな訳で俺はこの世界でも知識を求める。ただ面白さの為だけに。
「……もう時間か。そろそろ食堂に向かわなければならないな。」
俺は思考を中断し、部屋の扉を開く。
「食事も大切な要素だ。さて、今日の夕食は何だろうか。楽しみだな。」
暫くして夕食の時間となり、城にいる勇者達が皆食堂に集まり用意された食事を食べ始める。勇者達を従わせる為か、はたまた王家としてのプライドか、異世界人から見ても豪華な食事だ。そのせいもあってか食事をする勇者達の表情は明るい。
その中でも一際騒がしい集団が一つ。【勇者】を中心とするグループだ。
「龍牙くん、ほらあ~ん。」
「お、莉紗ちゃんありがと〜。あむっ……うん、可愛い娘に食べさせてもらう料理は最高だなぁ!」
「もぉっ、龍牙くんったら。でも嬉しい!」
「ははっ。」
「ねぇ、私のことも忘れないでよね!」
「おっと、勿論だよ美沙紀ちゃん。一緒に愉しもう。」
「うん!」
こんな感じで毎日人目も憚らずにイチャイチャしている。というかもう既に周囲もこんなものだと公認になっている。あまり良く思っていない人達も、優遇職の【勇者】を敵には回したくないし、殆どの人は自分達のグループでの食事に集中している為気にしていない。
そうやって、殆どの勇者たちがある程度満足した食事時間を過ごす中、それらを俯瞰する位置にスキルが展開された。綴理のスキルだ。これは一方通行のスキルの為認識は出来ないから、誰も見られていることには気付かない。……筈だったのだが、一人、気付くとまではいかないが綴理たちの視線を微かに感じ取った者がいた。
「?……誰かに見られているような。」
「会長、どうかしました?」
「いえ、なんでもありません。」
「?…そうですか。」
そう、【聖女】である神代聖奈だ。通常であれば、まず僅かにでも気付くことなど無い筈なのだが、彼女が綴理のことばかり考えているせいか感じ取れてしまったようだ。そして一度気になってしまったことはなかなか頭から離れないもので、食事が終わったあとも彼女の頭の中ではそのことを考えていた。
食事中に感じた視線。一方的に見られていて、目が合うということは無い視線。普通だったら気分が悪くなる筈なんだけど、不思議と悪意は感じられなかった。寧ろ、もっと見て欲しいような、ずっと求めていたような温かさと懐かしさを感じる視線だった。
「綴理君……」
どうしてか彼の名前が口から溢れた。
「あれ?どうしてだろ。最近会えなさすぎて私変になってるのかな。」
自分でも不思議なことに、自然と彼の名前が頭に浮かんだ。ここには彼は居ないのに。
「でも、いっか。なんだかやる気が出て来たし!もっともっと頑張って早く綴理君に会うんだ。そして出来れば綴理君と一緒にこの世界を周れたらなぁ。」
そうして一人の恋する乙女は今日も彼方の彼を想いつつ、一日を終えていく。胸の中で日に日に増していく彼の存在を感じながら。
「ふふっ、彼女も報われると良いですね。今までしっかり役目を果たしてくれましたし、どうやら本気で好きになっているみたいですから。彼女が貴方に会えるのはまだ先になるとは思いますけど、その時は彼女の気持ちも受け止めてあげてくださいね?まあ貴方ならきっとそうするとは思いますけど。……いつかの私の時みたいに。これからが楽しみですね、綴理様。」
綴理が新しいスキルを早速使ったことに気付き、同時に俯瞰して綴理と勇者達を観察していた彼女は、そう言って一人微笑んだのだった。
綴理が彼女と再び出逢うのは、まだずっと先のこと。
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