奴隷少女ティア
少し短めです。
私はティア、奴隷だ。
元々は魔皇国にいたが、偶々国境付近に行った時に運悪く誘拐されてしまった。その誘拐犯は捕らえた女子供を奴隷商に売りつけることで資金を得ている、業界では有名な盗賊らしく、例に漏れず私も売られることとなった。
売られてからの生活は最悪だった。
私を買い取った奴隷商がいる国は魔族の差別が酷い国で、奴隷としての扱いも当然酷かった。食べ物と言えないような食事をほんの少し与えられ、あとは檻の中に放置される。偶に客の前に並ばされるが、売れ残るとまた檻の中。そうして物好きな貴族に買われるまでずっと家畜以下の扱いだった。
買われてからの生活も、苦痛の種類が違うだけでそれまでと殆ど変わらなかった。
ただひたすらストレスの捌け口として暴力を受ける毎日。魔族というだけで蔑まれ、罵倒され、殴られたり蹴られたりする。嫌になって抵抗しようと思っても、奴隷になった時につけられた奴隷紋と首輪のせいで何も出来ない。そのうち抵抗する気も失せて何も考えずただ生きているだけになる。そうなってしまうと殴る方もつまらなくなって、気が付いた時には何処か暗い洞窟の様な所に捨てられていた。
それから暫く経ったあとも何もする気が起きず、ただぼーっとしていた。すると何処からかゴブリンたちが現れて衰弱した私を自分たちの巣へと運んでいった。
運ばれた先にはゴブリンの親玉らしき大きな体躯のゴブリンが待っていて、目の前に投げ出されると間もなくして着ていた服を全て取り払われ、そのまま好き放題に身体を貪られた。
普通なら嫌がって悲鳴をあげたりして抵抗しようとするのだろう。けれど私にはもう既にそんなことをするだけの体力も気力も残っていなかった。ただ、このまま散々弄ぶだけ弄ばれて最後には希望も何も無いまま死ぬんだろうと、そう思っていた。
気が付くと、私は床に放置されていた。何をしても反応を見せない私にゴブリンですらも飽きてしまったようだ。
私の最期はこんなものか。誰にも必要とされず、ただただ何もかもを搾取されてゴミの様に捨てられ死に絶える。
あぁ、私の何がいけなかったんだろうか。誰かに迷惑もかけていないし恨まれる謂れもない。ただ魔族であったというだけで、何故こんなにも酷い扱いを受けないといけないのか。私は絶望と共に意識を手放した。
ふと、目が覚めた。いや、覚まさせられたという方が正しいか。身体を揺らされ隣から声を掛けられたのだ。比較的背の低い少女だ。私も背はあまり大きくは無いが、私と比べても少し低い。まあそれはいい。どうやらここに居座っているゴブリンの群れの駆除に来たらしい。そこでいつの間にか隣に運ばれてきていたらしい二人の女性と共に捕らわれていた私を見つけ助けるに至ったと、そう言っていた。周囲にはバラバラに斬り刻まれたゴブリンたちの死骸がゴロゴロと転がっており、その奥ではまた別の冒険者らしき青年が私を犯したゴブリンの親玉と戦っていた。あまりの情報の多さに混乱し、ただでさえ上手く回らない私の思考回路は簡単に停止した。
私の思考回路が再び動き始めた時、私に近付く気配があった。
「大丈夫?僕のこと怖くないかな?」
さっきまでゴブリンの親玉と戦っていた青年だ。どうやら無事倒し終わったようで、周囲は静かになっていた。
改めて青年を見る。困った様な顔をして私を見る彼はとても優しそうだ。今まで私を物の様に扱ってきた奴隷商や貴族なんかとは違う、私を心から心配している様な温かい目をしている。何も言葉は返せなかったけれど、気が付くと彼の手を掴んでいた。確かな根拠は無いけれど、この人なら私のこのどうしようもない絶望を消し去ってくれるような気がした。
それから少しして、私は彼に背負われるかたちで洞窟の外に連れ出された。途中、休憩を挟むたびに彼は私を気遣ってくれた。私が何も言葉を返さなくてもずっと優しく接してくれた。いつ以来だろう、こんなにも優しさをくれた人は。今までが酷すぎたせいか、この優しさだけで全てを任せてしまいたくなる。再び背負われたその背中で久しぶりの人のぬくもりを感じながら、私は心の底から安心して眠りについた。
あれからどれくらい時間が経っただろう。目を覚ますと、私は何処かのホテルの一室のベッドの上に寝かされていた。
「あれ?私、どうして……」
横を見ると、初めに声を掛けてきた少女とずっと私の世話をしてくれていたあの青年がもう一つのベッドで寄り添って眠っていた。
「そっか、貴方たちが私をここまで運んでくれたんだ。っ!」
ここでふと気付いた。あれだけずっと声を発さなかった私の口が言葉を紡いでいる。何もかもに絶望していたあの時はそんな気力なんて欠片も無かったのに。
やっぱりあの青年のお陰なのかな。私に優しさをくれた彼。隣で気持ち良さそうに寝ている彼。彼の事を考えるだけで不思議と心が温かくなる。もしかして出逢ったばかりなのに好きになってしまった?でもきっと彼の隣で寝ている少女はパートナーなのだろう。私が彼から愛を貰うことはきっと出来ない。何より助けた側と助けられた側というだけの関係しかない私に好意を向けられても彼が困るだけ。お礼を言ったらすぐに此処を立ち去ろう。行く宛もなく、かといって故郷まで帰れる力もなく、一日一日を過ごすお金も無い私は結局何処かで野垂れ死ぬんだ。それでもこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。
ほんの少しの間だけでもぬくもりを、優しさを死ぬ前に貰えたことは幸せだったんだと思おう。これ以上は望まない。これでいい、これでいいんだ。
そう、思っているんだけど……
「あれ?どうして私、こんなに泣いて……こんな顔してたら心配かけちゃう。早く、早く止めないと。……どうしよう、止まらない、止まらないよ……」
必死に泣き止もうとしているのに、そうすればそうするほどどんどん涙が溢れてくる。もう自分でもどうしたらいいのか分からなくなっていた。
その時、隣から声がした。
「どうしたの?辛いことでも思い出した?僕で良ければ話してくれないかな。何か力になれることがあるかも知れないから。」
こんな時でも優しい彼を見て、抑え込もうとしていた気持ちが弾けてしまった。
「うわぁぁぁぁぁん!」
「わっ!」
彼の胸に飛び込んだ。そして思いっ切り泣いた。言葉に出来ない想いの代わりに涙に気持ちを溶かして。
好き。大好き。私、この人が好きだ。きっと困らせてしまうから言わないけれど、どうしようもなくこの人が好きだ。優しくて、あったかくて、私の欲しい言葉をくれる、この人が大好き。この時が過ぎたら忘れるから、今だけは、今だけはどうかこのままでいさせて。
「よしよし。思いっ切り泣こう。すっきりするまでずっとこうしてるから。」
そんな優しさに甘えて、私は暫くの間彼の腕に抱かれて泣き続けた。
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