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救出と脱出

 周囲に危険が無くなったので、言葉の所に足を運んで現状を確認した。


「終わったよ、言葉。女性たちの様子はどうかな。」

「おつかれさま。二人は無事だったからいいんだけど、一人もう既に被害にあった後で精神が不安定なんだよね。」


 言葉は困った顔をした。やっぱりそうだよね。


「そっか。取り敢えず全員をここから連れ出そう。被害を受けた女性は一旦水属性魔法で綺麗にして、その後は言葉が一緒にいてあげて。」

「うん、それがいいかな。」

「お願い。あとの二人は自分で歩けそうかな?大丈夫そうなら僕が付き添うけど。」

「二人共まだ不安感が強いみたいだけど、実際に被害は受けてないから大丈夫みたい。」


 そう言って言葉は残る二人に目を向ける。その視線を受けて、さっき会った冒険者の人のパートナーであろう女性が口を開いた。


「セレスよ。どうやらルークに頼まれたみたいね。助けてくれてありがとう。もうちょっとだけ遅かったら私も酷い目にあわされてるところだったから、本当に助かったわ。この恩はいずれ何かで返すから。」


 結構元気そうだ。良かった。


「気にしないでください。僕はただ被害にあっているのを見るのが嫌いなだけですから。僕としても助けられて良かったです。」

「そう、なら気にしないでおくわ。でも困ったことがあったらその時は頼ってちょうだい。何か力になれることがあるかも知れないから。」

「分かりました。その時は宜しくお願いします。」

「ええ、任せて。」


 そう言ってセレスさんは笑いかけた。


 会話が終わると、隣にいたもう一人の少女が話かけてきた。僕たちより少し年下くらいかな。


「私はレヴィア・エル・リシウスと申します。この度は危ないところを助けていただきありがとうございました。それにしてもお強いんですね。あんな大きな魔物をあっという間に倒してしまわれるなんて。」


 年の割に話し方がしっかりしてるなぁ。話す時の様子は年相応だけど。


「僕はツヅリです。ありがとうございます。でも、あれは大きさの割にそこまででもないですよ。ロード級でもなかったですし。それに周りの殆どは僕のパートナーが倒してくれたので一体だけに集中出来ましたから。」

「あら、謙虚なのですね。でも、そうですね。コトハさんの全体魔法も素晴らしいものでした。捕まった身でありながら少し見入ってしまうくらいに。」

「僕の自慢のパートナーです。」


 そう言って言葉の方を見やると、彼女は少し恥ずかしそうにしていた。


 そんな様子を見てレヴィアさんは微笑んで、


「随分と仲がよろしいんですね。もしかしなくとも普段の生活でもパートナーなのでは?」


 そう聞いてきた。こころなしか瞳がきらきらして、口元がニマニマしている気がする。この年頃なら興味があるのは当然か。


 なら堂々と見せつけてあげよう。いいよね、言葉?


 そうして言葉に目線を送ると頬を朱に染めた言葉がこくっと首を縦に振った。よし。


 僕は言葉を抱き寄せてその唇にそっと自分の唇を触れ合わせた。それに対して言葉がびくっと僅かに身体を震わせたものの、されるがままになっていた。


「はわわわわっ!だ、大胆ですねっ!」


 それを見たレヴィアさんは顔を真っ赤にしながらもガン見していた。


 そして言葉の方はというと、さっきよりもさらに顔を紅くして、ほーっと虚空を見つめていた。が、少ししてはっと意識を取り戻し、手で顔を覆って俯いた。よく見ると指の隙間からこっちを見ている。


 嫌がってはいないけど、ちょっとやり過ぎたかもな。でも、


「この通り、コトハは普段から最高のパートナーです。」


 僕ははっきりとそう言葉にした。恥ずかしい事ではないからね。


「よく分かりました。ツヅリさんは本当にコトハさんを愛しているのですね。」


 レヴィアさんはそう言って笑った。だから、


「ええ、勿論。コトハ程の女性はそういないと思ってます。」


 僕はそう返し、


「綴理くん……」


 それを横で見ていた言葉が僕に熱をもった視線を向けた。


 暫くそんな空気のまま時間が過ぎ、セレスさんが咳払いで話を元に戻した。


「さてと、そろそろ帰りの話をしましょう。」

「そうですね。話が逸れてすみませんでした。」

「いいのよ。私もそういうの嫌いじゃないし。ただこのままだと終わらなさそうだったから。」

「以後気を付けます。それでは帰りの行動予定を組みましょうか。まずここからだと僕の案内で最短ルートを通っても八時間程かかります。途中に休憩を挟む必要があるでしょう。皆さんは今どれくらい体力が残っていますか?それに合わせて進もうと思います。」

「私はずっと動いてないから休憩無しでもいけるわ。」

「私はあまり体力が無いので二時間程で休憩を挟みたいですね。」

「分かりました。あとは言葉とその娘だけだけど、どうかな。」

「う〜ん、私はまだ結構動けるんだけど、この娘はあんまり動けなさそうだね。立つのもやっとって感じだから。」

「じゃあ、ちょっと試してみるか。」


 そう言って僕は唯一被害を受けてしまった少女の所に歩み寄った。


「大丈夫?僕のこと怖くないかな?」

「………」


 少女は俯いて虚空を見つめ何も答えない。やっぱり駄目かと思った時、少女が手を伸ばしてぎゅっと僕の手を掴んだ。震えてはいたけれど、その手にはしっかりと力がこもっていた。


「良かった。これならなんとかなりそうだ。」


 ほっとしてそう言った僕に、言葉が聞いてくる。


「どうするの?確かに綴理くんが近づいても大丈夫なのは分かったけど。」

「自分から触れてくれたんだ。多分僕がおぶっても大丈夫だろうから、僕がおぶって出口まで連れて行くよ。」

「大丈夫?ここまで結構体力使ってるよね?」


 言葉は心配そうにしているけど、これくらいはさせて欲しい。確かに疲れてはいるんだけど、女の子たちにさせる訳にもいかないからね。


「大丈夫だよ。さっきちゃんと休ませて貰ったから。それに女の子一人背負うくらいなら負担にならないよ。」

「分かった。でも辛くなったらすぐに言ってね。綴理くんは無理しがちなんだから。」


 言葉にはバレちゃうか。


「ははっ、そうだね。気を付けるよ。」


 という訳で、洞窟からの脱出を始めた。



 最奥からの道程でそれぞれから今までの経緯を聞いた。


「私はこの洞窟のゴブリンの巣を駆除しに来たんだけど、この通りに返り討ちにあって捕まったわ。一緒に来たルークも怪我しててもう助からないと思ってた所に貴方たちが助けに来たって感じね。」


 セレスさんは考えていた通りだな。


「依頼を出した村長さんが教えてくださったので結構急ぎましたね。タイミング的にも助けられる可能性は高かったですし。」

「そのお陰で私も助けてもらえました。運が良かったです。」

「そうね。でもその娘は私が来た時にはもうその状態だったからどうあっても無事ではなかったのが可哀想ね。」

「そうですね。私がここに来た時ももう既に被害を受けたあとでしたから。立ち直れるといいんですが。」


 二人が僕の背中の少女へと視線を向けて言った。この娘も無事なうちに助けたかったな。代わりと言ってはなんだけど、その分のフォローはしよう。


「それは後々どうにかしてみます。ここから出た後取り敢えず言葉と二人で保護するつもりなので。」

「そうですか、お願いしますね。では、次は私の番ですね。私は実はこの国の人間ではないのですが、その辺りのことは今は省きます。まず私はお忍びで旅をしているのですが、数日前に偶々この付近を通りがかった時に運悪くゴブリンの群れに見つかってしまったんです。普段から戦うことが殆ど無かったので、一瞬で気絶させられてここまで運ばれてきました。そして目が覚めて少ししてセレスさんが運ばれてきたのです。あとはセレスさんが話した通りですね。」

「そうですか。名前と話し方からなんとなく想像してましたけど、もしかして結構大きい貴族家の御令嬢だったりしますか?」

「まあ、否定はしませんね。実際に私の国まで来てしまえばすぐに分かることですし。改めまして、アルファリオン帝国リシウス候爵家のレヴィア・エル・リシウスと申します。以後、お見知り置きを。」

「アルファリオン帝国候爵家ですか。またなかなか凄いところから。」

「あまり気にしないでください。私もこの通り堅苦しいのは好きではないので。あぁ、でもこれだけは守ってください。私のことはここだけの秘密ということで。他言無用でお願いします。私がここにいることが家にバレたくないのもありますが、王国と帝国はあまり仲が良くないので私の存在が見つかると面倒なことになりかねませんから。」

「なんとなく想像出来ますね。分かりました。しっかり内密に、ここでは仲良くしましょう。」

「はい、宜しくお願いしますね。」


 こうして出口へと足を進めていった。



 暫く歩くと、向かう道の先から歩いてくる人が僕の『索敵』に引っ掛かった。場所とタイミング的にルークさんだな。


「セレスさん、もうすぐでルークさんが来ると思います。」

「あら、歩けるの?あいつ怪我してたはずだけど。」


 セレスさんが首を捻った。そういえばまだ説明してなかったな。


「さっき会った時にハイヒールポーションを渡しておいたので、経過時間的にはもう動けてもおかしくはないですかね。あれは自作のやつで効果は市販のものより高めに作ってあるので。」

「何から何までお世話になるわね。っていうか、自作のポーションって!貴方そんな事も出来るの!?」

「趣味で色々薬草を調合するんです。なのでせっかくならちゃんとした物も作ろうと思って作り置きしてたんです。こうやって依頼に出る時は念の為常備しているんですが、今回は偶々それが役に立ちましたね。」

「戦闘能力以外も凄いのね。もしかして、他にも色々出来たりする?」

「色々の種類にも寄りますけど、生活に必要なことなら大体は出来ると思います。」

「じゃあ料理とか家事も?」

「自分が困らない程度には出来ていると思います。でもその辺りは言葉に聞いた方が良いですね。客観的な意見なら信憑性があると思いますし。」


 そうして二人で言葉の方を見る。


「そうだね。綴理くんはちゃんと出来てると思うよ。というか私が出来ないことまで何でも出来るからちょっと女子としての自信が無くなりそう。」

「う〜ん、なんかごめん。もしもの事を考えると出来ない事は出来るだけ無くしておきたくて。」

「良いんだよ。元々そういう人だって分かった上で一緒に居るんだから。私は私に出来ることをするだけだよ。ちゃんと私にしか出来ないこともあるから。」


 そう言う言葉はどことなく誇らしげだった。


「そっか。なら僕はこのままでいるよ。やっぱり出来ないより出来た方がいいからね。」

「うん、頼りにしてる。」


 そうして互いに笑いあった。僕がここまで心の底から笑顔になれるのは言葉といる時だけだ。僕にとってはこれが何よりも言葉にしか出来ないことだと思う。言葉の顔を見ながらそんなことを考えていた。


「ん、んんっ!いい雰囲気のとこ悪いんだけど、一度戻ってきて。」


 セレスさんの咳払いで我に返った。言葉のこととなるとついやっちゃうんだよな。


「すみません、話を戻しましょうか。もうそろそろルークさんと合流出来ると思います。」


 と言った瞬間、


「お〜い!大丈夫だったか〜!」


 ルークさんが向かいの道から走って来た。


「ぴったりですね。」


 少しして、ルークさんが僕たちに合流してそのままセレスさんに抱き着いた。


「セレス!良かった、本当に無事で良かった!」


 ルークさんは本当に嬉しそうに涙を流してセレスさんの無事を噛みしめていた。それを受け止めたセレスさんは、


「ちょっとルーク!?私は大丈夫だから、離して!皆の前で恥ずかしいんだけど!」


 ちょっと慌てていた。とても恥ずかしそうにしているが、ルークさんは一向に離れる気配は無い。暫く抵抗していたセレスさんだったけど、ついに諦めたようで、


「もう、しょうがないんだから。よしよし、心配しなくても何もされてないわよ。ちゃんと助けて貰ったから。」


 困った様に、でも満更でもなさそうにルークさんの背中をさすっていた。



 少ししてルークさんが落ち着いたのか、やっとセレスさんから離れた。セレスさんがは〜っと息を吐いて、


「御見苦しい物をお見せしました。」


 そう言って苦笑いをした。


 だから、


「僕たちも似たようなものですから、これでおあいこですね。それにしてもセレスさんもちゃんと愛されてるじゃないですか。」


 そう返した。


「そうね。私も人のこと言えない立場だったみたい。」


 言いつつどこか嬉しそうに笑った。


 それからは何事も無く、適度に休憩を挟みながら出口まで進んでいった。

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