冒険者救出作戦
宿を出た僕たちは依頼の紙に書かれていた村に向かった。村に入ると僕たちに気が付いた何人かの村人が出迎えてくれた。
「これはこれは冒険者の方ですかな?」
どうやら見た目から判断してくれたようだ。
「はい、ゴブリンの巣の駆除の依頼を出したのはこの村で合っていますか?」
「おぉ!そうです。依頼を受けてくださった冒険者の方でしたか。早速村長の所へ案内致します。詳しい事はそこでお話します。」
「お願いします。」
村長の家は奥の方にあり、少し歩く必要があった。村長の家に着くまでの間、村を軽く見回してみて気付いたんだけど、所々に疲れきった様子の村人がいるようだ。なので村長の家に着いてからそのことについて村長に尋ねてみた。
「この村は普段からこんな感じなんですか?」
「いえ、有り難いことに食料に困ることも無く皆元気に過ごしています。今こうなってしまっているのは全てゴブリンの巣が近くの洞窟に作られてからです。定期的に畑を荒らすので食料が足りなくなってきていまして。ゴブリン自体はそこまで強くないのである程度は対処出来ているのですがいかんせん数が多くて手がまわりきらないのです。そこで依頼を出すことにしまして、先日冒険者の方に巣の駆除に来ていただいたのですが洞窟に行ったきり戻って来ていないのです。」
「そうでしたか。それなら早速向かった方が良さそうですね。ちなみにですが、冒険者の方が巣に向かったのは具体的には何日前でしょうか?あと、洞窟の規模も分かる範囲で教えて下さい。」
「二日前です。昼頃に出発なされました。洞窟の規模としましては、休まずに進んだとして最奥に行くまでに半日程かかるかと。中は分かれ道が多く迷い易いので。」
「分かりました。それでその洞窟は何処に?」
「村の者に案内させましょう。」
そうして、僕たちは問題の洞窟に向かうことになった。その道中、今回の依頼に関して考えていた。
先に来た冒険者が駆除に向かったのが二日前の昼頃で、帰りが遅いことを不審に思いギルドに連絡したのがその翌日、つまり僕たちがバイタシアに来た昨日のことだとすると、僕が依頼を見かけたのは掲示板に貼り出されてすぐだったと考えられる。僕がもう少しずれた時間にギルドに寄っていたら見つからなかったかも知れない。そうなればきっとこの依頼は後回しにされて冒険者が助かる可能性は皆無に等しかっただろう。
しかし二日なら状況次第ではあるが無事でいる可能性も存在する。運が良かったな。まあ本当に運が良かったかは無事を確認できるまで分からないんだけど。とにかく最悪を回避する希望はまだある。急がないと。
暫くして洞窟に到着した。案内してくれた人に別れを告げ、言葉の方に向き直る。
「言葉、聞いていた通りこの先には冒険者がいる。洞窟の規模と経過した時間を考えるとまだ無事な可能性も存在するから、駆除の他に救助も視野に入れたいと思うんだけど。いいよね?」
「勿論だよ。救える命は救わないと。」
「そう言ってくれると思ってた。じゃあ急ごうか。『鑑定』と『索敵』を使って最短ルートで向かうから、警戒しつつついて来て。」
「了解。後ろは任せて。」
「頼りにしてるよ。」
そういう訳で早速洞窟に足を踏み入れた。その瞬間から『鑑定』と『索敵』を全開にして安全確認と同時に最短ルートを探す。
今のところゴブリンはいなさそうだな。罠の反応もなし。最初の分岐までの安全を確認。
「問題無し。行こう。」
火属性魔法で辺りを照らしつつ奥へと足を進めていった。
分岐まで何事も無く進み、そこで再び『鑑定』と『索敵』に意識を集中させる。
敵、罠共に反応無し。ルートは右。その先三百メートル程に次の分岐。
「問題無し。」
ある程度の警戒はしつつ少し力を抜いて脳を休ませる。まだ大丈夫だ。
歩き続け、次の分岐に到着した。今度は三択だ。
『鑑定』『索敵』
ルートは左。その先五百メートル程に次の分岐。途中、二百三十メートルにゴブリンの反応。数は五体。直前に罠有り。
「二百メートル先にゴブリンがいる。数は五。直前に罠があるから土属性で破壊しよう。」
「了解。準備しておく。」
言葉も僕も必要以上に話さない。今回は本気だ。
少しして問題の場所に到着し、小部屋の入口で立ち止まる。手早く済ませよう。
まずは言葉が土魔法で周囲の罠を破壊する。それが終わるとすぐに僕が動く。『瞬歩』から『斬撃』で五体纏めて討伐。死体を土魔法で埋める。再び『索敵』で安全を確認し直して元の道に戻る。さぁ次だ。
あれから何度か分岐、戦闘を繰り返した後、安全を確保した小部屋で休憩をとることにした。
「流石に六時間も『鑑定』使うと疲労が溜まるな。頭痛がしてきた。」
「おつかれさま。ここは安全だし少し寝たら?なんなら膝枕する?」
「……嬉しいお誘いだけど、それは帰ってからのお楽しみってことにしておこうかな。今したら抜け出せなくなると思うから。でも仮眠は取らせて貰うよ。いざという時に頭が使えないと困るからね。」
「分かった。私が見張ってるから安心して寝ていいよ。」
「うん、ありがとう。」
その言葉を最後に僕は意識を手放した。
「寝ちゃった、かな。」
私は隣で眠る綴理くんの寝顔を眺めながら洞窟内での彼を振り返る。
この洞窟に入ってから綴理くんはずっと気を張ってた。私も警戒はしていたけれど、その度合いは比べるべくもない。
私のことを心配してくれているのもあるんだろうけど、それはいつものことで、今回は他の人の命もかかっている。警戒しつつもゆっくりしていられない。そんな状況で最速最善の行動をする為にどれだけ頭を使っていたのかは私には分からないけど、きっと私の想像は超えている。その分の疲労も大きかっただろう。これまでの六時間一切の休憩をしなかったのが不思議なくらいだ。
そう考えながらも、その疲れを直接癒やしてあげることが私には出来ない。それがどうにももどかしい。綴理くんは側にいるだけで良いって言うけれど、出来ることならもっと何かしてあげたい。
何か、ないかな。綴理くんのして欲しいこと。
色々考えた末に取った行動は、
「んっ。」
精一杯の感謝と愛情を込めたキスだった。意識がないからキスをしてもどうにもならないはずなんだけど、不思議と気持ちが伝わる気がした。
何か温かいものが体の中に流れ込むような気がした。いつまでも感じていたいような、どこか安心する温かさだった。
ふわふわと定まらないでいた思考が段々とはっきりしていき、ふと目を覚ます。短時間の仮眠の割に疲れは完全に無くなっていた。
「ん……おはよう、言葉。」
そう言って言葉の方を見た。すると言葉は顔をほんのり朱に染めながら視線を少しずらして、
「おはよう、綴理くん。」
そう返した。その様子が少し気になったが別に問題がある訳ではないので聞かないでおいた。それよりも今は優先することがある。
「頭もすっきりしたし、再開しようか。言葉もいける?」
「大丈夫。」
「そっか、なら。」
「うん、行こっか。」
僕たちは依頼を再開した。
それから一時間程経った頃、僕の『索敵』に人間が引っ掛かった。恐らく先に入った冒険者だ。その地点に向けて足を運び、そして見つけた。そこには足に怪我を負った男の冒険者がいた。
「大丈夫ですか。」
近づいて声をかける。
「君達、冒険者か。俺はこの通り怪我はしてるがなんとか生きてる。それよりも俺と一緒に来た女の冒険者がゴブリンの群れに連れ去られた。まだそこまで時間は経ってないが、拠点まで連れて行かれたら何されるか分からない。俺の事は放っておいてあいつを助けてやってくれ。頼む。」
その人はとても悔しそうな顔をして頼み込んできた。パーティを組むのだからそれだけの仲なのだろう。必ず救わなければ。
「元々そのつもりで来ました。僕たちが代わりに助けに行きますから、貴方はここで足の怪我の治療をしていて下さい。」
そう言って常備してある自作のハイヒールポーションを二本手渡す。
「おい、これ結構高いやつじゃないのか?そこまでしてもらう訳には。」
その反応も予想通りだ。
「気にしなくていいです。趣味の一環で作ったものですから。それに、今はそれどころではないので。」
そうしてしっかり瓶を握らせた。
「お、おう。すまないな。そういうことならありがたく使わせてもらうよ。」
納得して貰えたので早速救助に向かうことにした。
『鑑定』『索敵』
「……見つけた。行こう、言葉。」
「うん。」
急ぎ足で最奥に向かった。




