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下準備

 腰の辺りに軽いだるさを感じながら、目を覚ました。


 昨日は結局言葉の気の済むまで搾り取られた。最後の方は元々疲れていたのもあって全く動けなくてなすが儘にされていたな。


 というか言葉ってあんな体力あったっけ?この一月ちょっとで鍛えられたからかな。いい事なんだけど、少し驚いたよ。僕ももうちょっと体力つけよう。


 まぁそれはさておき、出掛ける準備をするか。


 言葉は明け方までずっと動きっぱなしだったから流石に眠たいだろうし、起こさないようにしないと。


 そう思いながらもついつい言葉の顔を撫でてしまうんだけど。


「うん、やっぱり言葉は天使だな。」


 そうして満足した僕は、今度こそ朝の準備を始めることにした。



 それから二時間程経って、言葉が目を覚ました。言葉は僕の方をぼーっと眺めたあと、急に顔を真っ赤にして布団に潜ってしまった。可愛い。


 少しして、そっと布団から顔を出した言葉は僕の方を見つめ、


「綴理くん、その、昨日はどうかしてたっていうか。勢いでついっていうか。」


 そう言ってもじもじし始めた。本当に可愛いな。気にしなくて良いのに。


 だから、


「昨日の言葉も可愛かったね。言葉の新しい一面を知れて嬉しかったよ。ありがとう。」


 全肯定の姿勢を取る事にした。昨日の言葉は新鮮で、いつもとはまた違った魅力に溢れていた。もう一歩言葉を好きになれた気がする。これが紛れもない本心なんだ。


「そ、そう。じゃあ、良かったかな。」


 言葉も納得してくれたみたいだ。


 そしたらこの話は一旦お終いにして、今日の予定を話そうか。


「言葉、話は変わって今日の予定の事なんだけど。」

「うん、今日は私も一緒に依頼受けるんだよね?」

「そうだね。昨日受けてみた感じでも前と変わらないやり方で出来そうだったから、言葉が参加しても心配しなくて良さそう。」

「過保護過ぎない?私も綴理くんと変わらないくらいのステータスなんだよ?」


 言葉は少し不満そうに口を尖らせた。


「それはそうなんだけど、もし言葉に何かあったら耐えられないから。こればっかりは僕の我儘だけど、受け入れて欲しい。」

「しょうがないなぁ。綴理くんは私がいないと生きていけない体になっちゃったんだもんね。」


 言葉は呆れたように、でも少し嬉しそうに笑って言った。


 それに対して僕は、


「そうだよ、僕はもう言葉なしじゃ生きられない。だからずっと隣にいて欲しい。」


 すごく真面目に直球で返した。


「ふぇっ?も、もう!綴理くんは急にそういうこと恥ずかしげもなく言うよね。そこはもっと軽く返してくれれば良いのに。でも、そうやってはっきり言葉にしてくれるのは嬉しいかな。やっぱり言葉は直接心に響くし。」


 予想通り少し驚いた様子の言葉だったけれど、最後はしっかり言葉を返してくれた。


「そう思ってくれるなら伝えた甲斐があったかな。」

「うん、これからもいっぱい伝えてね。私もその分伝え返すから。」


 そうしてしばらくの間優しい時間を過ごした。



 着替えを済ませ、自室に運んで貰った朝食を食べながら、今日受ける依頼についての相談をする。


「どんなのがいいかな?やっぱり討伐依頼だよね。」

「そうだね。昨日もレギオンウルフの群れを狩って来たからその辺りが無難かな。一回り大きかったけどやること自体は変わらなかったから肩慣らしには丁度いいと思うよ。」

「そうなんだ。じゃあまずはそれだね。それが終わったら次はどうしよう。何か良いのありそう?」

「う〜ん、それじゃあ少し難易度高めの依頼を受けてみる?ゴブリンの巣の駆除とか。」

「いいかも。綴理くんが索敵出来るから不意討ちとかの心配が無いし。それに、危なくなったら守ってくれるんでしょ?」

「勿論。指一本触れさせるつもりは無いよ。」

「ならそれにしよう。あればだけどね。」

「多分あるよ。この前ちらっと見かけたから。比較的面倒な依頼だし、そういう依頼を出す所は村とかが多くて報酬も高くない場合が殆どだから、自分から進んでやる人はまずいないはず。」

「そっか、じゃあ決まりで。」


 ということで、今日はレギオンウルフの群れの討伐とゴブリンの巣の駆除をする事になった。



 食後に休憩を挟んで動けるようになったので、早速ギルドに向かい依頼を確認した。


「ちゃんとあった。ゴブリンの巣の駆除はCランクか。予想通りだな。」

「受付行こっか。早く終わらせてゆっくりしたいし。」

「そうだね、じゃあ早速。」


 受付で手続きを済ませ、目的地へと足を運んだ。まずはレギオンウルフからだ。


「事前に話した通り、ちょっと大きいだけだから。油断はして欲しくないけど、いつも通りに。」

「うん、しっかり確実にだね。」


 

 五分程歩いて、群れを見つけた。


「お、いたね。それじゃあいくよ。」

「うん、準備は出来てるよ。」


 まずは僕が『索敵』で個体数を確認する。数は…十五。


「全部で十五。」

「了解。」


 次に、僕が群れに近づき注意を引きつけてある程度纏まらせる。ついでに群れの頭も見つけておく。『鑑定』ですぐに分かるからね。


「見つけたよ、言葉。」

「おっけーだよ。」


 そうしたら、言葉の土属性魔法で群れを囲んで戦闘範囲を限定する。続けて風属性魔法で全体的にダメージを与え、動きを阻害する。


「よし、止まった。じゃあまずは頭から。」


 群れの頭に狙いをつけて『瞬歩』である程度まで近づき『斬撃』で一気に仕留める。


 スパアァァン!


 本来このレベルの人が使うようなスキルではない為、半ばオーバーキルの如く綺麗に首を切断した。こうなってしまえばもうただの個の塊だ。あとは一体ずつ狩っていくだけでいい。



 まもなくして群れの全てを狩り尽くした。証明部位を切り取り持って来た袋に入れ、素材となる部位はまた別の袋に入れて、一つ目の依頼は晴れて完了となった。


「これで一つだね。この後はどうする?一旦休憩挟んでもいいかなとは思うけど。」

「そうだね。あっという間に終わっちゃったから全然疲れてはいないけど、次の依頼は初めてだから念の為万全の状態で受けたいよね。」

「ついでに言うと種類的に絶対にミス出来ない依頼だからね。」

「どういう事?」

「ゴブリンの巣の駆除って事はそれだけゴブリンだらけだっていうことだから、もし捕まりでもしたら死にたくなるような目にあわされる可能性が高いんだよ。僕らの認識だとゴブリンってそういう魔物でしょ?」

「あ、そっか。ゴブリンにもてあそばれるのは嫌だなぁ。」


 言葉はその現場を想像できたようで、苦い顔をしている。


「僕もそんな言葉は見たくない。絶対に。死んでも。」


 僕も当然想像した。それだけでも吐き気がしてくる。いっそ絶滅させようか。


「あはは、そうなった時のショックは私より綴理くんの方が大きそうだね。綴理くんの為にも絶対成功させないと。」


 僕の顔を見た言葉は少し顔を引き攣らせながら自分に言い聞かせる様にそう言った。


 そんな殺気出てたのかな。いや、出てたな。出ないはずなかったわ。まあいい。今は、


「じゃあそういう事で、まずはレギオンウルフの完了報告に戻ろうか。その後は宿で少し休もう。まだ昼前だから日が沈むまで余裕があるし、ちょっと買っておきたい物とかもあるから。」

「うん。」


 ギルドに戻って依頼達成の報告をした。十五体分の二万二千五百エルクと素材分の九千エルク、合わせて三万千五百エルクの稼ぎになった。労力に比べて貰える額は中々高いから、冒険者っていい仕事だと思う。日本に居たら高校生がここまで稼ぐのは無理に近いからな。


 さて、今稼いだお金でアイテムを揃えようか。この後のゴブリン戦はゴブリンの上位種や変異種がいる可能性が高いので、状態異常系の攻撃をくらう事も頭に入れておく必要がある。そしてその対処の為に状態異常回復のポーションは買っておきたい。万が一の事も考えて。それと、全く関係はないんだけれどこの国の地図をそろそろ持っておこうと思ったので、それも買っておく。あとは、店に着いて必要だと思った物があったら買おう。



 ということで店にやって来た。言葉には宿で休んでもらっている。『鑑定』は買い物でも役に立つから、基本的に僕が仕入れを担当した方が効率が良いんだよね。


 店の中は事前の確認通り多種多様なアイテムが揃っていて、目当てのアイテムはすぐに見つかった。ハイリセットポーション四本とこの世界の地図をカウンターに持っていき会計を済ませる。八千エルクのポーション四本と二千エルクの地図で合計三万四千エルクの買い物となり、今日の稼ぎの殆どを使う結果となった。その為に受けた依頼だったんだけどね。


 という訳で、当初の目的も果たしたので宿に帰ることにした。


「ただいま、言葉。ちゃんとあったよ。」

「あ、おかえり。そっか、それでどんな感じ?」

「ハイリセットポーション四本と地図で三万四千エルク。物はこれだね。」


 そう言って袋から中身を取り出し、机の上に並べた。それを見た言葉は少し苦い顔をした。


「ハイリセットポーションって青いんだね。飲むのにちょっと抵抗あるかも。」

「まあイメージ通りではあるかな。そもそもポーション全体が飲みたくなるような色はしてないからどうしようもないね。取り敢えず治癒系の魔法かスキルを覚えるまでの我慢かな。それさえ出来れば使う機会は殆ど無くなると思うよ。」

「早く覚えないと。」

「そんなに嫌なんだ。」

「うん、こういう炭酸飲料とかも好きじゃないんだ。」

「そっか、分かった。早めに対処するよ。」

「一緒に頑張ろうね。」

「うん。」


 言葉の気合の入りようが凄かった。本当に嫌なんだな。


「話は変わって地図なんだけど、結構詳しく描いてあるのがあったんだ。値段は地図にしては高めだったけど。」


 そうして言葉に地図を手渡す。


「やっとだね。」

「うん、やっとこの世界がどうなってるのか分かる。この国の名前も。」


 地図にはこの世界の国と街の名前が書き込まれていた。どうやらこの国の名前はエルクシオン王国というらしい。その中に僕たちがいたエルカシアと今いるバイタシアを見つけた。その位置関係から推測するに僕たちが召喚された城があるのは王都エルクシアスだろう。どうやらちゃんと王城だったらしい。だとしたらこの国の王は本当に横暴なんだな。


 それはさておき今のところ行ったことがあるのはこれくらいか。


 その他の国は四つ。エルクシオン王国の北に位置するエルクレイス公国、西に位置するエルクマイル教国、東に位置するアルファリオン帝国、南に位置する魔皇国だ。魔皇国だけ国名が無いのは国交が無く詳しい事が分かっていないからだろう。そのうちここの情報も手に入れたいし、いつか行こう。


 なんて色々考えていると、


「結構広いんだね。いつか他の国にも行ってみたいな。」


 言葉がそう言った。


「ここに来る時もそうだったけど、言葉って思ったよりアウトドアな感じだよね。旅行とか好きなの?」

「うん。やっぱり新しいことを知れるのが楽しいかな。色んな所で色んな物や人を見て知識を得るのは本を読むのと似た感じでわくわくするから。綴理くんも本読むの好きだし分かるんじゃない?」

「そうだね。新しいことを知るのは僕も好きだな。その為には定位置にこもりきりは良くないし旅したいとは思う。」

「だよね。じゃあある程度この街に居たらまた別の街に行こうよ。最終的には全部の国を周りきるんだ。」

「それじゃその為にも今日の残りもしっかり熟して資金を貯めないとね。」

「うん、なんかやる気出てきたかも。」


 これからの事を考える言葉は終始楽しそうにしていて、僕も自然と笑顔になった。


 さて、それじゃあこの流れのままゴブリン狩りに出発するとしますか。


「言葉、もう休憩は大丈夫?」

「うん、いつでも行けるよ。」

「それなら早速依頼を終わらせに行こうか。日が沈んでからは危険だし。」

「そうだね。早めに片付けてゆっくりしようね。」

「うん、言葉の膝の上でゆっくりね。」

「えっ、綴理くん?」

「なんでもないよ。」

「なんでもなくないよね?もう、しょうがないなぁ。いいよ、帰ったらね。」

「やった、速攻で片付ける。」

「そんなにして欲しいんだ、膝枕。」

「言葉に触れてると安心するから。」

「いつも寝る時触れてると思うけど。」

「それはそれ、これはこれだよ。触れる時間が増える分には嬉しいだけだから。欲張り過ぎかな?」

「ううん、そこまで素直に求められるのは悪い気はしないから。それに、もう綴理くんが甘えたがりなのは知ってるから今更って感じだし。」

「そっか。なら良かった、のかな?」

「良いんだよ。そこも含めて私の好きな綴理くんなんだから。」


 そう言いつつ僕に向けられた笑顔がとても眩しかった。いつもこの笑顔に救われるんだよな。


「よし、じゃあ行きますか!」

「うん!」



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