実戦とレベルアップ
朝だ。今日からはついに実戦でのレベル上げが始まる。そんなに難しい依頼は受けないつもりだけど、何が起こるか分からない。事前の準備をしっかりしておかないと。
それはさておき、
「はぁ、今日も可愛いな。」
朝からこの寝顔を眺められて幸せだ。この娘を守る為ならなんだって出来る気がする。いや、なんだってしよう。
眺めているうちに気持ちが溢れてしまったから、起こさないように気を付けてさらさらとした髪を撫でた。
心の底から安心する。これは起きるまでにやめられる気がしないな。まあ目覚めた時こうしていても、きっと言葉は怒らないでくれるよね。
しばらくして、言葉がゆっくりと目を開けた。横にいる僕に気付くとはにかんだ笑顔を向けてくれた。あ、駄目だこれ。
ギュッ。
「好きだ、大好きだ。」
思わず抱きしめてしまった。
「よしよし。どうしたの?何かあった?」
言葉は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに抱きしめ返してくれた。やっぱり落ち着く。
「いや、ただこうしたくなっただけ。急にごめん。」
「いいんだよ。でも、思っていたより綴理くんは甘えたさんだよね。付き合う前は全然そんな素振り見せなかったのに。」
聖母の様な微笑みでそう言う言葉。何もかも受け止めてくれそうなその表情に、心の内にあるものが零れ出た。
「本当に信頼できる人にしか弱みは見せないさ。今こうしてるのは、それだけ信頼してるってことだよ。それと言葉には見せかけじゃない僕自身を知っていて欲しいから。」
「そっか。ありがとう。そこまで想ってくれてたんだね。」
「自分でも重たいとは思うけどね。」
そう言って苦笑いを浮かべた。出来るだけ抑えようとしてるんだけどなぁ。
「そんなことないよ。私だって全部見せたでしょ?同じくらい信頼してる。だからいつでもこうして甘えていいんだよ。普段私を引っ張ってくれる綴理くんは格好良いけど、甘えてくる綴理くんは可愛くて、色んな綴理くんが見れて私は幸せなんだから。」
一瞬沈んでいた気持ちはそれだけでふっと軽くなった。やっぱり言葉はいつも欲しい言葉をくれるな。
「分かった。そう言ってくれるなら遠慮なく甘えさせてもらうかな。」
「うん。」
こうしてお互いの気持ちを確かめ合って、また少し深く繋がれた気がする。やっぱり言葉にしてはっきり伝える事って大切なんだな。
それから程なくして、それぞれ出掛ける用意をし、一階に降りて朝食を食べた。その後、最後の用意を済ませてギルドに向かった。
ギルドに着いてすぐに依頼の貼ってある掲示板を確認してみたが、朝にゆっくりと時間をとったからかあまり沢山の依頼は残っていなかった。しかし幸いなことに目当ての依頼は難易度も低く報酬も安めな為しっかり残っていた。
ある程度予想した通りだな。とにかく依頼があるなら受けるまでだ。早速手続きを済ませてしまおう。
「この依頼を受けたいので手続きをお願いします。」
「ゴブリンの討伐依頼ですね。依頼の完了時には討伐証明部位の確認が必要となりますので、それも一緒に持ってきてください。」
そうして手続きは問題無く済んだ。
さぁ、初の討伐依頼だ。気を引き締めていこう。
資料で確認したゴブリンの生息地である森近くの草原までやって来た。さて、本番の前に手順を共有しておこう。
「言葉はまずは身を守る事に専念して。先に僕がゴブリンと戦うから。僕らの認識通りなら危険はないとは思うけど一応ね。実際に戦ってみて大丈夫そうであればその後は協力して確実に討伐していこう。」
「分かった。私は周りの警戒に専念しておくよ。直接的な戦いはあんまり向いてないのは分かってるから。」
「うん。ありがとう。それじゃあいくよ。」
しばらく散策して、ゴブリンを見つけた。運良く一匹だけだ。これなら安心してスキルを試せそうだな。
でもまあ、先に僕本来の強さを確認しようか。今日の実戦はステータスの感覚を知る目的もある訳だしな。
足音を極力たてないようにしてゴブリンに近づく。まだ気付かれていないみたいだ。まずはこのまま奇襲で仕留めよう。
よし、今だ。
手に入れたばかりの短剣をゴブリンの首筋に振りかざした。
ザシュッ。
ゴブリンは特に声を上げる事も無く倒れ、動かなくなった。これは予想以上に弱いようだ。これなら冒険者始めたてのFランクでも受けられるのに納得がいく。
何はともあれ問題は無さそうなのでこの調子で見つけ次第狩っていくか。今度はスキルも使って。
それからは手持ちのスキルを順に使ってゴブリンを狩っていった。ゴブリンが弱すぎるのもあってスキルの強みはあまりよく分からなかった。今度もっと強い魔物で試そう。
さて、やりたい事は粗方出来たしここからは言葉も一緒だ。
「大体調べたかった事は分かったから、言葉も実戦で戦ってみよう。僕はサポートにまわるから。」
「うん、やってみる。」
言葉が目を瞑って集中し始めた。この間は無防備だから、僕が周りを警戒する。
少しして言葉がそっと目を開けた。準備が出来たみたいだ。言葉がゴブリンに片手を向け、掌に魔力を集める。
瞬間、電撃が奔った。それは的確にゴブリンの頭部を撃ち抜き、絶命させた。
「やっ、た。」
張り詰めた糸が切れたようにそう言った言葉は少しふらついていたので、そばに行き抱きとめた。
やはり僕たちのステータスでは魔力量が心許ないか。こればかりは地道に増やしていくしかないな。それよりも今は言葉の体調が優先だ。
「言葉、一人で立てる?きつかったらこのまま支えてるけど。」
「大丈夫。ちょっとずつ慣れてきたから。でも、もう少しこのままでもいいかな?」
「もちろん。僕のことは気にせず楽にしていて。周りの警戒はしておくから。」
「ありがとう。そうさせてもらうね。」
それから五分程して、言葉が離れた。
「もう普通に動けそうだよ。」
「良かった。それじゃあ討伐証明部位の回収と死体の処理をしようか。」
「うん。それにしても綴理くんは魔物を倒すのにあんまり躊躇いが無いんだね。私はどうしても忌避感が拭えなくて。」
「生き物を殺す事に全く躊躇いが無いって訳じゃないよ。グロいのはそこまで得意じゃないし。でも、放置して僕の大切に被害が出る可能性があるなら、その時は躊躇はしないし容赦もしない。僕がどうにかなるだけならそこまで気にしないけど、僕の大切な人や物を失うのだけは絶対に許容出来ないから。」
「そっか。大切、か。」
「うん、今の僕にとって言葉は何よりも大切なんだ。だから僕は殺す事だって躊躇わない。自分でも思い切りが良過ぎるとは思うけどね。」
「そうかもね。私も大切な人を失いたくない気持ちはよく分かるけど、綴理くん程割り切れないや。」
「それが普通だよね。やっぱりこういう人は怖い、かな?」
「大丈夫だよ。私は綴理くんの優しいとこも、甘えたがりな可愛いとこだってちゃんと知ってる。その上で、私の事を何よりも大切だって言ってくれた綴理くんを怖がったりなんて出来ないよ。」
「ありがとう。そう言ってくれるなら僕も気が楽になるよ。一緒にいるのが言葉で良かった。」
「ふふっ、そっか。」
言葉の嬉しそうな笑顔が眩しかった。やっぱり僕は言葉が好きだ。
一通りの後始末を終え、帰路についた。帰る間はすることも無いので、雑談しながら元々の目的であるお互いのステータスを確認する事にした。まずは僕から、
名前 ツヅリ・ツムギシ
Lv 4
職業 【 】
体力 360
魔力 200
物攻 120
魔攻 80
物防 160
魔防 80
スキル 『鑑定』『読心術』『瞬間模倣』
『中級剣術』『中級槍術』『中級杖術』
『中級弓術』『中級短剣術』『真偽眼』
『中級斧術』『索敵』『幻影』『瞬歩』
『武器破壊』『剛力』『騎乗』『斬撃』
『隠蔽』『魔法剣』『超回復』『調合』
『魔力回復(強)』『五感強化』
『第六感』
魔法
称号 《転移者》《探求者》《蒐集家》
《jm%d23@あgf》
お!思っていたより成長率が高いな。初期値の加算方式か。もう既に一部は勇者達レベルになっている。この成長の仕方が僕たち特有なのか、勇者達も共通なのかは比較対象が近くにいないから分からないが、成長が早いに越したことは無い。とにかく今はありがたい限りだな。
さて、言葉の方はというと、
名前 コトハ・ユメサキ
Lv 2
職業 【司書】
体力 200
魔力 100
物攻 40
魔攻 40
物防 60
魔防 60
スキル 『速読』『高速読解』
魔法 複合魔法『雷撃』
称号 《転移者》《ck8n3と#&》
一応レベルアップは出来たみたいだ。ステータスのシステムが僕と同じなのも確認出来た。取り敢えずは上手くいっているみたいだけど、まだまだ心許ないか。明日以降も少しずつ強化していこう。魔力には限界があるし、物理攻撃でも戦える様にしないとな。
「一応目的は達成出来たかな。明日以降もこの調子で頑張ろう。」
「そうだね。魔物の討伐に慣れる為にも出来るだけ毎日依頼を受けないとね。」
「じゃあ早く帰ってしっかり休むとしようか。」
「うん。」
ギルドに着いて依頼の完了報告をした。今日の稼ぎは流石に討伐依頼なだけあって薬草採取の時よりは多く、六千エルクとなった。まあこんなものかな。後は宿に戻って今日の疲れを癒すだけだ。
宿では手早く事を済ませて自室のベッドに二人で座り、今日一日を振り返った。
「今日は初めての討伐依頼だったけど、上手くいってよかったよ。レベルも上がったし。」
「そうだね。でも今日は殆ど綴理くんに頼りきりだった。私は魔法を一回使っただけで動けなくなっちゃったし。」
「まあそこはあんまり気にしなくてもいいんだけどね。今の時点では魔力が足りないんだから。でもそう思うなら明日は僕の短剣使って戦ってみる?勿論僕もサポートはする。」
「やってみる。いずれは出来ないといけない事だから、早めに慣れておくに越したことはないよね。」
「よし。そういう事なら明日は言葉を中心に訓練していこう。僕の方は少しだけだけど余裕が出てきたからね。」
「ありがとう。お世話になります。」
「いいよ。僕も守れる範囲は限られてるから言葉自身が強い方が安心出来る。情けない話ではあるけどね。」
「ううん、そんなことないよ。私も守られてばっかりは嫌。ちゃんと綴理くんの隣に居たい。貴方は私の彼氏で、私は貴方の彼女なんだから。」
会話の流れの単純な反応だったのかも知れないけれど、それは確かに僕が無意識に望んでいたものだった。そして言葉の包み込む様な微笑みがどうしようもなく魅力的で、脳が奥から揺らされるようだった。頭の中にあった色々が一瞬で消え去り、後に残ったのは単純な嬉しさと言葉に対する愛しさだけだ。
「そっか。うん、そうだね。ははっ、改まって言われると恥ずかしいな。でも、なんていうか、その…」
「惚れ直しちゃった?」
「まぁ、うん。一時的に語彙力無くなるくらいには。それと、色々と元気が出てしまうくらいには、ね。」
「え?あ。」
「ごめん、こんな流れで節操が無いとは思うけど、それだけ言葉を近くで感じたくなったんだ。」
「そ、そっかぁ。ふふっ、もうしょうがないなぁ。付き合うまでそんな感じしなかったけど、綴理くんって意外とエッチだよね。でも、そこも含めて大好き。だから、いいよ。前した時みたいにいっぱい可愛がって。ね?」
言葉が妖しく微笑む。その表情だけで僕の理性の殆どが溶かされてしまった。ぎりぎりで踏みとどまり最後の確認をする。
「そんな煽るような事言われたら多分止まれないよ?僕としては嬉しいけど。」
「大丈夫。なんだかんだ言っても期待しちゃってるんだ。どんな事をしてくれるんだろう、どんな言葉をかけてくれるんだろうって。私も大概エッチな娘みたいだね。」
そういうことならもう我慢しない。
「そうかもね。じゃあ、いくよ。」
「うん。あっ。」
そのままの流れで言葉を押し倒した僕は、溢れ出す愛しさを余さず注ぎ込むようにして言葉を精一杯可愛がった。言葉はそれを体と心で包み込むように受け止めてくれた。
そんな幸せな時間は、外が微かに赤みを帯びる頃まで続いた。




