言葉のスキルの真価
何か頬に心地良い感触がする。温かくて、どこか安心するような…
「んっ、朝…か。」
目を開けた瞬間、横から覗く柔らかな視線と目が合った。その視線の主はふっと笑って、
「おはよう、綴理くん。疲れは取れた?」
そう口にした。
「おはよう、言葉。そうだね、熟睡できたから今日もばっちり動けそうだよ。それにしても早いね。その様子だと起きてから結構経ってるんじゃない?」
「うん、三十分前くらいに目が覚めてたよ。それからずっと寝顔を眺めてました。」
そう言って意地悪な笑みを浮かべる言葉。
「なんか恥ずかしいな。起こしてくれても良かったのに。」
「昨日色々と動いてくれて疲れてると思ったし、なんか起こすのが勿体ないような気がして。」
「まあ言葉がいいならいいんだけど。」
「うん。じゃあ着替えて朝ご飯食べに行こう。今日も忙しくなる予定なんでしょ?」
「まあ、そうなるとは思うけど。今日はいつもよりテンション高めだね。やっぱり自分のスキルの事だから?」
「それもあるけど、上手くいけばやっと綴理くんの役に立てると思うと、ね。」
言葉は噛み締めるように何処か遠くを見つめて言った。何か僕の知らない事があるみたいだ。敢えて聞きはしないけれど。
「そっか、ありがとう。でも張り切りすぎてもあれだから軽い気持ちで調べていこう。まだ当分は暮らせるお金は昨日で手に入ったから余裕はあるし。」
「うん。」
そんなふうに穏やかな朝を過ごし、行動の準備を全て整えた。忘れ物もなし。
「よし、じゃあギルドに行こう。実験はそこでしようと思う。」
「ギルドでどんなことをするの?」
「資料室で資料を読み込んだり、訓練場で他の人たちが使う魔法や技術を見る予定だよ。僕の想定だとそこで何らかの収穫が得られるはず。」
「そっか。難しいことは分からないから着いたら詳しく教えてね。」
「もちろん。じゃあ早速向かおう。」
冒険者ギルドにて、
「まずは資料室だね。ここでは主に魔法に関する本を中心に読んでもらうよ。いつもとは違って『高速読解』のスキルを意識して内容をよく理解する様に心掛けて。」
「うん、分かった。言う通りにやってみる。」
こうやって全面的に僕の言う事を信頼して実行してくれる所も僕の大好きな所だ。普通ならもっと質問責めになってもおかしくないのにな。言葉の信頼に応える為にも結果を出さないと。全力で頭を回そう。
十分程時間が経った頃、言葉から声がかかり、僕は資料を捲る手を止め言葉の方を向いた。
「スキルの効果なのか前より内容の理解が早く深く出来る様な気がする。基本的な魔法に関しては大体分かったよ。」
基本魔法だけでも結構なページがあったのにこの時間で読めたんだな。無意識に『速読』スキルを使ってたみたいだ。それはさておき本での理解が出来たなら、実際に見て理解を深める段階にいけるな。
「よし、次は訓練場に行こう。そこで実物を見て貰おうと思う。」
訓練場に着くとすぐに魔法を使っている人が見えた。これなら目的はすぐに達成出来そうだな。
「言葉、誰でも良いから魔法を使う瞬間に何が起きているかを読み取る意識を持ってスキルを使ってみて。多分何回かやれば何か起こるはずだから。」
「うん、やってみる。」
言葉が真剣な目で魔法発動の瞬間を観察している。
しばらくして、何かに気付いたみたいだ。驚いた顔をしている。そのまま僕に近づいてきてこう言った。
「魔法が使われる瞬間にその人の体に重なって何かが移動するのが視えたよ。」
来たか。
「多分それは魔力ってやつじゃないかな。僕たちには馴染みのないものだけど、魔法を使うなら必要になるだろうし。使う時に移動してるのなら多分間違いないと思う。」
「そっか、それでこの後どうしたらいいの?」
「さっき読んだ本で理解した事を思い浮かべながら、視えた物とその魔法をイメージしてみて。そしていけると思ったら実際に発動させて。」
「うん、頑張ってみる。」
そうして言葉は目を瞑って集中し始めた。それから少しして、周囲に変化が起こり始めた。
そして、
バチィ!
壁に向けられた言葉の掌からさっき見た様な電撃が放たれた。
「わ!出来たよ!」
そういって言葉が嬉しそうに僕に近づいてきた。そして急に力が抜けた様にして倒れかけたので駆け寄って抱き留める。
「あ、れ?力が入らなくて。ごめんね。」
「いや、いいんだ。多分魔力切れだからしょうがないよ。元々僕らは魔力量が少ないから今のだけで使い果たしたんだと思う。」
「そっか。じゃあもう少しだけこのままでもいいかな。」
「うん。よく頑張ったね、言葉。実験は成功だよ。本当に予想通りだった。言葉のスキルも使えないスキルなんかじゃなかった。」
「役に立てそうで良かった。それで、私のスキルはどういうものなの?」
「その名の通り物事を高速読解するものだよ。ただ、それを拡大解釈しただけ。読解っていうと本や文章って感じがするけど、読み解くことのできるものはそれだけじゃない。魔法の構造や発動のプロセスだってその範囲に入るはずだ。そう考えたから、読み解くときに理解しやすいように資料を読んで、その後実物の魔法を視て貰ったんだ。初めて見る魔法じゃ視えても根本が分からないからね。そしてそれらの結果として言葉は誰に教わるでもなく視ただけで魔法が使えるようになった。正直ここまで上手くいくとは思わなかったよ。」
このスキルを極めていけばいずれは初見の魔法を瞬時にコピー出来る様になる。そうなってしまえばもはやただのチートスキルだ。これから一緒に育てていこう。
「そっか。取り敢えず、これで綴理くんの役に立てるんだね。良かった。」
僕の腕の中で、言葉は心底嬉しそうに、そしてほっとしたように微笑んだ。
「これから地道に種類を増やしていこう。今日は初めてだからここまでにして、回復したら次の実験に移ろう。今度は僕の番だ。こっちに関しては直接スキルに関わっている訳じゃないから出来る確証はないんだけど、一応試しにやってみたくて。」
「そっか。上手くいくといいね。」
「うん。」
もしこれが思い通りに出来たらいよいよ不遇職じゃなくなってくる。寧ろ召喚された中でも最強の部類に入るはずだ。まあステータスが最弱なのは変わらないんだけどね。




