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立つ


「へー。フィッダ様はいつもはこういう感じなんだ」

 私はヴィオラのウェーブの髪を結う。みつあみをいくつか作ってまとめ、お団子にする。

「サギリマジ早。ウチの髪結いじゃこうはいかないよ」

 実は前髪を作らせていただいた。祈ったから、いい力がつくといいな。

 銀の鎧に白いマント。これが本来の「フィッダ将軍」の姿だ。

「か…かっこいい~!!」

 ペティちゃんが思わず叫んだ。「私も、こんな鎧をつけられるようになりたいです!」

「へえー。じゃあディーさんより出世しなきゃダメじゃん」

 ダンが笑うと、ペティちゃんが両こぶしを握った。

「うん。がんばるね、ダン!」

「えっ」そういう意味じゃ…と言いたげな顔。いや、こっちを向くなよ。女の子の夢は自由だぞ。

「ペティは姉ちゃんみたいにオシャレもしたくて将軍にもなりたくて…ずいぶんよくばりだね」

「どっちもなりたい! こんなにそばに、お手本がいるんだもの!」

 おー。大きく出たなあ。あんなに内気な子だったのに。

 まだ弟がこっちを見てくるんだけど。あのねえ、あんたがペティちゃんに釣り合う男になればいいだけでしょうが。


 急ごしらえで直した国の広場に、フィッダ将軍とアスファル王子が立った。

 火事に見舞われた住民たちが二人を囲んでいる。

「皆、よく集まってくれた。先日の火災は、わが反乱軍の者が起こしてしまったものである。大変に申し訳ない。よって、こちらですべて責任を持ち修繕する。不満のある者は何なりと我々に言ってくれ。その声が、さらに他の民を助けることになる」

 太く低め、でも隅々まで響き渡る声だ。

 将軍の気高さ、本物の強さがその声に乗り、みんなが彼女に釘付けになる。

「そして、なぜか国王と宰相は姿を消してしまった。王都の民を守らず、王妃と使用人を残して。皆はどう思う。二人は戦をはじめ、金と食糧と兵を集め、皆に何が残っただろう」

「反乱軍が王を殺したんじゃないのか?」

 そういう人もいる。たしかに、そう見えるかもしれないな。

「静まってくれ。私は…今まで軟禁状態であった」

 アスファル王子はメリクールの服にマントを巻いている。もちろん、額には王子の証である金の飾り。

「私は…この国の戦が偽物であることを知っていた。父である王に停戦を奏上したが、閉じ込められた。私を救ってくれたのは反乱軍である」

 やはりオーラがすごい。住民は二人の輝きに目がくらんでいるようだ。

「私はこの国を立て直したい。君たちとともに安らげる国を作りたい。反乱軍にはメリクール王国の助けもある。どうか、力を貸してくれないだろうか。このさなかで戦えとは言わない。ただ、私たちを信じてほしい」

「我々反乱軍が戦うのみだ。待っていてほしい」

 町の人たちは黙ってしまった。戸惑うというより、将軍と王子というスーパースターの共演にやられてしまっているのだ。

 ところが、遠くで「カーディナル、万歳!」と声がした。

 砂の色の鎧だ。他にも数人の兵士が叫んだ。

「お、俺、徴兵されたんだ。将軍が帰っていいって言ったけど、建物直すの手伝うよ!」

「俺はやけどがひどくて…でも治してもらえたし」

 すると、街の人にもその波が伝わったようだ。

「税金がどんどん高くなって…でも言えなくて…」

「毎日、見張られてたしな」

 フィッダ将軍は言った。「もう見張りはいない。徴兵された兵士以外、軍属の兵士はすべて、こちらで捕らえている。安心してほしい。また、捕らえられている者はすべて、解放する」

 歓声が上がった。泣いている人もいた。


 城の地下から、反逆の罪で閉じ込められた人々が出てきた。その代わりに、軍属の兵士が入っていく。彼らを説得したけど、彼らにも事情とプライドがある。

「それなら、僕の出番じゃない?」

 クリスが手を上げた。アジトでカーディナルの宗教本を読み漁っていたらしい。

「もちろん『声』は使わないよ。なあに、地下に閉じ込められて退屈してる彼らの話し相手にはなるさ」

 すでにカーディナルの宗教に沿った噺を作っており、披露するつもりだという。

 ああ、これ、クリスの欲望が丸出しだわ。

「あの方はすごいな。私は彼と話していて心の中を引き出されるように感じた」

 ファル王子はごくごく真面目に、澄んだ目をして言った。

「物腰が柔らかく、少々話し方は軽妙だが…計り知れない」

 私は返した。「たしかに…いろいろ優秀ではあるんですけどねえ…」

 あんまり仲良くすると、騙されるかもよ?


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