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銀色の将軍


「おうい、こっちこっち。瓦礫はこっちに運んでくれ」

「まずは仮組みだ。あと、フルームは足りてるか?」

 王都の修繕はすぐに行われた。反乱軍のやらかしは、反乱軍が責任をもって行わねばならない。

 アイギスちゃんは住民たちのやけどやケガを次から次へと治していく。やけどは私たちの世界でも治りにくいのに、アイギスちゃんが手をかざすとなかったかのように消えてしまう。私もやけどを治してもらったけど、どこがやけどだったかわからない。

「亡くなった人がいなくてよかったですよね」グラインさん。

「それは、あなた方の誘導と対処のおかげです」アズーが返した。二人は顔を見合わせ少し笑う。

 それでも私たちがやったことは重い。街はボロボロだ。


 ルーフスはアジトへ送られた。

 本人も何をしていたのかよくわかっていないらしいが長い夢を見ていたと話す。

 エルドリスがその話を聞いて調べているのだ。

 私も、とても嫌な予感がしていた。


「城に…王とラーウースはいなかったな」

 褐色のギャルはギャル語を使わず、城から戻ってきて考え込んでいた。

「王妃や使用人たちを残しているのに。そのまま殺すつもりだったのだろうか。それを反乱軍のせいにしようと?」

 彼女は城を見つめ、ぎり、と歯ぎしりした。

「あ、あのさあ。ヴィオラ?フィッダ様?私、何て呼べばいいの?」

 いろいろ混乱している。

「ウチはウチだよ。好きに呼びなよサギリ」

 ギャルに戻った。じゃあ、ヴィオラで。

 私は話をするために休憩用のフルームに入った。アスワドさんもついてくる。

 ここは反乱軍専用のものらしく、誰もいなかった。

 胡坐をかいてすわり、私は尋ねた。

「なんで、将軍様がアジトにいたの? 偉い人、でしょう?」

 ディーと同じ? いや、軍隊の規模によってはもっと上かも。

「うん」ヴィオラもあぐらだ。隣にアスワドさんが座った。

「ウチはね…えっと、私は」少し下を向いた。「私は軍人の生まれで、家の長子として親の軍を継いだんだ。銀狼軍なんて大げさな名前だが、代々受け継いできただけ。しかし私の軍は…部下もみな優秀で規律がとれており、私もそれが誇らしかったんだ。でも、半年前」

 グレナデンとの戦いが始まって、もちろん最前線へ向かったそうだ。

「ところが国境で私たちは戸惑った。なにしろ、戦う相手などいないのだから。ラーウースはいつか来るいつか来ると言ってばかりでな。来るには来るが防衛任務の小隊しか見かけない。おかしいと思い、ラーウースに会いに行ったんだ。わが軍をくだらぬ仕事に使うわけにいかないから」

 その時、ヴィオラは大事な部下を数人連れていたという。

「ラーウースは私と食事をした。あいつはあの戦を『この国に関わる大きな作業』と言った。作業? ふざけたことをぬかすと思っていたのだが…気が付くと、部下が全員死んでいた」

 毒殺されたのだという。

「ラーウースは私に言った。お前の大事な兵はこれでは済まないぞと。私は奴を殺そうとしたが、私もしびれ薬を盛られていた。気が付くと軍へと戻されていた」

 そして彼女は頭を抱えた。

「私はそれから…ありとあらゆる食べ物が信用できなくなってしまった。何も口にできず、このままでは将軍などやっていられない。申し訳なかったが、身代わりを立てて軍から離れた。アスワドとともに」

 それが拒食症の理由か。ラーウースは彼女を深く呪ったんだ。

「アスワドは商人として動いている人間だ。情報を収集し、私をアジトへと連れて行ってくれた。素性を隠し雑用として働いて、体力を戻そうと思った…アズーはあたりがきつかったが、他の商人はやさしくてな。少しずつ食欲が出てきたんだ。自分で作物を育て、食事を作っているのだからな。そして反乱軍の奴らは私が倒せなかったのにラーウースを倒す!などと息巻いて。決してあきらめない姿に心を打たれた。そしてアスワドからメリクールの話を聞き、話を運んで行ったんだ」

 すごいな。

 拒食症ってそんなにすぐ治るものじゃないよ。それを、自分で考えて自分で乗り越えてるんだ。

(あれ?)

「っていうか、アスワドさんて何者? 副将軍かなんか?」

 彼は手を振って笑った。

「とんでもない。俺はただの間者だよ」

 スパイってことらしい。

「フィッダ様の命なら、あちこちを回って情報をとってくる。商人はその一面でしかねえ」

 なるほど、うちの国に一番で来るわけだ。

「私のあの言葉はアスワドの故郷のものらしい。素性を隠すために教えてもらったんだ」

 ギャル語が方言…。

「そうだ。聞きにくかったんだけどもしかして背中のキズは」

「ああ、戦いの時にやられたやつだな。あの時は大変だった」

 笑った。むしろ勲章ってやつかな。

 私は一通り理解して息をついた。「ヴィオラ、すごいねえ…」

「何言ってんの?ウチはサギリに会って『あ、同類!』って思ったんだよ。なんつか、ツワモノのオーラでまくり?」

 いきなり口調が変わった。「だってさあ、アスワドから聞いたけど『神の手』?それパないよ。メリクールの軍隊底上げして、しかも国の宗教まで変えちゃうんだもん。あんな兵士、ウチだって欲しいし!」

 私は笑った。ギャップすごすぎだよ。

 ヴィオラは私の手を取った。「来てくれて、マジでありがと。ウチね、今まで女子とコイバナとかできなかったから、すごく楽しかった。サギリは自分で板とかつけて頑張るしさ。アズーの心まで開いたとき、なんかウチもやれるかもって思えたんだ」

 白い歯を見せて、笑ってくれた。

「私も、ヴィオラに会えてよかったよ」

「ただねえ…」

 そこに、来客があった。

「フィッダ!!」

「アスファルー!!」

 えー!!

 イケメン王子とギャルが抱き合い、フルームの中でぐるぐる回った。

 え、え? じゃあ、ヴィオラの言ってた「好きピ」って、王子?!

「お前がようやくフィッダを名乗ったと聞いて。私はいてもたってもいられなかった。近くにいるのに触れられず、辛かった…」

──超ステキな人。頭もいいんだ。

 そりゃあ、そうだよ。

「サギリさあ…」ヴィオラはファル王子の頭を触った。「いきなりアスファルの髪を切っちゃうんだもん。びっくりしちゃってさ。一回キレかけたんだよ。でもよく見ると短い方がカッコイイかな」

「フィッダ、これは私が頼んだのだ。責めないでくれ」

「だから、似合ってるっていってるじゃん。私はもう、会えただけで…」

 えらいことをしてしまった…

 しゃくりあげるヴィオラ。そして抱きしめる王子。

 二人だけにしよう。私はフルームを出た。アスワドさんも空気を読んでいる。

「将軍はさ、戦が始まるまで王太子妃候補ナンバー1だったんだぜ。そりゃもう、ヒマがあればイチャイチャしててな。困ったもんだったべ」

 そりゃあ強くて戦えるお妃は国にとって大きいよね。

 いいなあ。私もディーを抱きしめたくなってしまった。

 すると、ディーが馬に乗ってアジトから戻ってきた。私は手を広げたが、ディーはそれどこではなかったようだ。とても苦い顔をしている。

「エルドリス殿がルーフスを調べ、はっきりした」

 ディーの両手が、私の肩をつかんだ。

「やはり呪いだった。ルーフスは操られていたのだ。彼は意識を失う前、とある老人に出会っていたという。おそらくそいつが、ルーフスに呪いをかけた」

 やっぱりか。

 私ははっきりとディーの目を見た。ディーがうなずく。

「べヴェルだ。あの男、おそらくラーウースに呼ばれて国境を越えたのだろう」


──私を欲しがるものがいる限り、いつでも戻れるのさ。


 あの男…!!

 何度でも立ち上がるのはクソ悪党も同じなのか。

 そして、あんな外道を欲しがる奴がまだいるのだ。


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