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南からの使者


 国から「王子が殺され、犯人はレジスタンス」という情報が流された。

 もちろんこっち側は想定済みだったのですべての町や村に動いて情報を塗り替えていく。とはいえ、「レジスタンスに王子がいるぞ」ではなく「王子は失踪、犯人不明」ということにしている。

 レジスタンスにいるとわかれば国民も気持ちが動くかもしれないけど、王子の居場所がわかっちゃうからね。アズーは国民を巻き込みたくないみたい。


 そしてメリクールから使者が来た。しかも大掛かりな感じで。

 石油の話は宙ぶらりんになったと言ったはずなんだけどな。

「ねえ、…なんでよりによってクリスが来てるの?」

 金髪超絶イケメンがニコニコして馬車から出てきた。

「来ちゃった。だってカーディナルは僕の夢だよ?」

「王様は何も言わなかったの? この国、危ないんだよ?」

 大事な後継ぎさまである。

「僕はあくまで噺手のクリスだよ。王子様ってのは内緒ね」

 ナイショの王子様、何人目だよ。もう飽きたよ。

 しかし、ファル王子とはいい話相手になりそうだ。同じ立場だし、クリスも一回ひどい目に遭ってるからね。

「で、僕はこの子と一緒に来たんだよ」

 別の馬車からドサンコちゃんが顔を出した。この子は翼が出てきて飛べる力があるんだけど、飛んだ時はディーしか操れないし、普段は普通の速度でしか走れないのだ。

「何か役に立つんじゃないかな~と思って」

 そうだな、この子はきっと。そしてクリスの力ももしかして。

「ふああ~しんどかったな。馬車は揺れるわきついわで、あーあ、かったりい」

 親方出てきた!二人出てきた!

「エルドリスが石持ってこいっていうからよ。俺もちょっとは役に立つか?」

「わーありがとう! 正直クリスより助かるかも!」

「えー。なにそれ…僕だってせっかく来たのに…」

 美形がふくれると面白いんだなあ、ということを知った。


 洗濯機もどきで洗い物をして、青い空にパンと干して。

 向こうではアズーが王子二人と板をつけて飛び回っている。

「お気楽そうだよねー。でもさ、サギリ。あのパツキンの人すっごいイケメンだけど使者としてはなんか軽いって言うか…本当は何者なん?」

 もうヴィオラにバレかけてる。

「い、いやあ。どっかの貴族じゃないかな? メリクールって軽い人多いんだよ」

「その割にはサギリとよくしゃべってたじゃん」

 うーん。どうしようかなあ。

「あ、クリス転んだ…」

 アイギスちゃんが走っていった。ヴィオラがそっちに気をとられている間に考えた。

「あのねヴィオラ!実は…あの人、スパイなの!」

「はあ? あんなに目立つイケメンが?」

 私は拳を握った。「目立つからこそなんだよ! 普段は歌を歌って歩いてるんだけどさ、いざというときは暗躍しているっつーか! でも本人に言うとヤバイから、あれこれ聞いちゃダメだよ?」

「へー。歌もうまいの?」

「それは保証する。表の顔だしね」

 なるほどねえ、とヴィオラは納得したようだ。よし。

(まったくもう、なんで私がウソつかなきゃいけないのよ…)



 日が落ちるとディーたちが帰ってくる。町や村から横暴な兵士たちを追い出し、そちらに手を回す必要がなくなったので王都を中心に潜入したり様子を窺ったりしているらしい。

「おかえりー。今日のご飯は、なんか白いやつだよ」

 黄色いライスに、赤か茶色か白のシチューみたいなのをかけて食べる。それがここの当たり前の食事だ。ライスはパンに変わったりもする。

「私は好きなんだよね。ディーはどれが好き?」

「そうだな。食べられるなら何でもいいのだが…比較的、白いものが味が優しくていいな」

「隊長、茶色のが好きって」

 フラットさんの言葉は他の人によって封じられた。

「ええと。でも、サギリの家の生姜焼きが恋しくなってきたな」

 味の好みはそれぞれだ。いいのだよ。

「私も、帰ったら、生姜焼き食べたい…」

 アイギスちゃんが服を引っ張った。

 二人が同時に来たら瞬時に豚肉消えちゃうだろうな。外で豚肉みたいなの売ってるから使ってみようかな?ウチの生姜チューブは業務スーパーのやつだし。

 ああ、そういえばあれから二週間くらいウチを離れているんだな。店はあのまま、父さんとの筆談もあれっきりだ。お客さんも待ってるだろうなあ。

 ホームシック…か?

「ただいまー。どう? 王子たちの板訓練」

 ダンも戻ってきた。あちこちの油田になりそうな場所を調べていたらしい。今は貿易どころじゃないけど、平和になったらすぐ商売してこの国の足掛かりにしたいんだそうだ。

「そうだねー。王子…ファルはもともと戦いの訓練を受けてた人みたいで午前中には使いこなしてたよ。クリスはダメだね」

 のちのち王になる人でも個人差はあるようだ。

「めちゃくちゃ楽しそうだったよ」

「そりゃそうだよ。あの人がいた東宮、他に誰もいなかったんだ。外で兵士が囲っているだけ。あんな生活してて気がおかしくならなかったんだから強いよ」

「でも今日、一日アズーと遊んでたんだよ。明日からは仕事してもらわなきゃ」

「ダン、お帰り」

 当の三人がやってくる。砂と草まみれだ。ダンが思わずうへえ、と言った。

「ちょっと! 三人ともさっさと温泉入って! 着替えは持っていかせるから!」

 私は腹の奥から怒鳴った。アジトの床、誰が掃除すると思ってんの? 私じゃないけど。


 そして夕食になる。今まではアズーが中心だったけど、今日からは王子が中心だ。

 でも二人ともお風呂上がりでまるで温泉客のようにまったりしている。学生時代の友達だから、昔話に花が咲いちゃって止まらない。

 緊張感がない。

 しかしファル王子はほんとにイッケメンだなあ。短髪にしてから顔のパーツの良さがよくわかる。あんなの女性がほっとかないよ。

「あの人さ、婚約者とかいたのかな。もしくは、恋人」

「年頃だろうしそういう話は当然あっただろう。兄上も形式上、妃候補は何人かいる」

 ディーはちょっと離れたクリスをちらりと見た。

「しかし兄上はすべて断りを入れたな。父親たち…もちろん貴族なのだが、なんとしても娘を妃にすべく関係を保とうと必死だ」

「へええ。クリス、意外と大変なんだね」

 たしかにクリスも街でファンがたくさんいるし女性はほっとかないよなあ。

「あのなあサギリ…他人事のように…」

「ん?」

 私はディーを見たが、彼は非常に困った顔をしている。

「…なんでもない」

 でも、もしそんな人がファル王子にいるとすれば、その人とはずっと会えてないってことになるな。いざこざが起こって半年?

 うわー、しんどい。

「それにしても…夕食までには帰ってくると思ったんだけど、見かけないんだよね」

 私は最後の一口を食べる。

「どうした」

 あの大きな声が聞こえないんだ。

「ディーはルーフスを見てない?」

「そういえば。王都の班はアスワド殿と、他は近衛だったからな。他の町に行っていたのでは?」

 ルーフスなら、あのホンワカしてる二人にツッコミ入れてそうなのに。

「ヴィオラ、おかわりを所望する」ファル王子がお皿を出した。

「こっちもだ」アズーも。

「ちょっとお。バカ食いしてんじゃないっつーの。なんなの、二人で子供みたい!」

 今日はヴィオラが一番うるさい。

「いや、感謝している」

「感謝はもう飽きたの! 三杯目は取りに行ってよ?」

 彼女は相手が王子だろうと容赦ないなあ。

「…ん?」

 ディーはポケットからスマホもどきを出した。鉄琴の音がする。

 そして、片方の眉を曲げた。

「なぜ、王都から?」

 そして画面を見ている間に、目が見開かれた。

「どういうことだ。本当に確認したのか?!」

 大きな声。近衛のみんなが注目する。

「どうしたの、ディー」

 私がスマホもどきをのぞこうとすると、その画面を伏せた。

「ちょっと待ってくれ。ダン」

 逆どなりのダンに画面を見せた。弟もみるみるうちに顔色を変える。

 そして私をちらっと見て、顔をしかめた。

「しかし…おかしいですよ。姉ちゃんはたしか…」

「何を二人で隠してるのよ。私が関係しているなら、ちゃんと言って」

 二人は私がご飯を食べ終えているのを確認し、立ち上がった。

「外に出よう」

 

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