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いにしえの隠れ家


 ブルトカールを後にしてまた砂嵐がやってきて、馬が動けなくなるほどの強風で数時間立ち往生し、

 今度は雲一つないほど青空が広がったりする。

 この国の天気は、人のように変わるんだ。でも、月は相変わらず二つ。

「あの山かな、姉ちゃん。前にアスワドさんが言ってたやつ」

 ダンが指をさす。砂漠の中にふわっと、富士山のような山が現れた。なんの緑にも覆われない、岩肌だけの山だ。

「ああ…赤本が降ってきたやつ」

「なんのことですか?」

「ああ、こっちのこと」

 私はみんなに手を振ってごまかす。大学受験の本があの山から飛んできたなんて言っても意味が分からなすぎるだろう。

「とはいえ、富士山っていうよりエベレストだなあ」

 けわしい山脈だ。おなじような山がいくつも連なり、世界を隔てる壁のようだ。でもここは現代じゃないし、あの山にわざわざ挑戦する人はいなさそうだ。

 馬車は山へ向かって走っているように見えるが、やがてぽつぽつ植物が増え始めた。

 川がみえてきたのだ。どんどん、幅が広がっていく。

「この川の先が、王都みたいだね」

 地図を手にダンが言う。「あの山から水が流れていて、そのほとりに町があるんだな」

 川辺にいた鳥が馬車に気づいて羽ばたいた。大群だ。そして、大きな町へと飛んでいく。

 都の姿が現れた。川を分けて水で街を囲い、さらにぐるりと緑が壁になっている。建物と緑が共存し、中央に大きな建物がちょっとだけ見えた。あれがお城なんだろう。

「大きな街だねえ」

「メリクールの王都よりはるかに大きいな。魔物がいない分、人が多く栄えているのだろう」

 すると、スマホもどきに連絡が来た。

『王都には入らないぞ。アジトに向かう』

 前の馬車が大きく西へ曲がった。

 そうだよねえ。あの人たち見つかったら捕まるんだよね。


 やべえ、えらいもん見た。

「恐竜じゃん…」

 馬車を降りると、目の前が砂に半分埋まった大きな骨。

 ライオンとかクマとか、そういうレベルじゃない。建物のレベルででかい。そして、骨格はトカゲだ。…たぶん。

 ダンが化石のあちこちを走り回って見ている。

「すごいな。モンゴルでも恐竜の化石がたくさん見つかっていると聞くけど、ここも化石が平気で散らばってんのかな。…いや、プテラノドンがいるんだもんな、現役か。じゃあティラノサウルスもいたりして」

 子供の時は恐竜の図鑑ばっかり見てたもんなあ。なんで男の子って恐竜大好きなんだろ。

「さすがにティラノサウルスがいたらこの世界に人間いないんじゃないの?」

「だろうね。これは国が砂漠化して住めなくなったんじゃないかな。ディーさん、メリクールにはこんなでかい魔物いるんですか?」

 ディーもしみじみ見上げていた。「俺が見た魔物で一番大きかったのはドラーゼだったな。こう…」

 腕を広げたが、ちょっとかわいらしかった。

「いや、腕ではレギドくらいしか表せないな。馬を三頭並べても足りなかったな。クネイルも大きいが、あれは長いというか」

「なるほど。でかいと生きられなくなって小さく進化していく感じなんでしょうね」

 私の世界の恐竜は隕石が落ちたとか氷河期とかで絶滅をしているが、この世界にはいるかもしれない。

「ただ、魔物は死んだら骨も何も残らないぞ。これは普通の生き物だったのでは?」

 へええ。

 すると、骨のあばらからルーフスが顔を出した。

「おい、何してんだ。入れ入れ」

 ここがアジトの入り口なのか。斬新すぎる。

 化石の下を掘り、レンガで穴を補強している。

「あんな骨はここらにいくらでもあるぞ。馬車もすぐそばにある骨の下に隠せるようになってんだ」

 そして地下に大きな部屋。灯りがともり、立派なじゅうたんが敷かれている。

 フルームと構造が似ていて、部屋は円形。布団が隅に積み重なり、放射状に廊下があって他の部屋につながっているらしい。

「あっちが台所、あっちが洗い場。向こうは外につながっている。温泉と便所があるからな。一応平気だとは思うが、外に出るときは気をつけろよ」

 温泉、あるのか!

「トイレってどうなってるの?」

「んーまあ、川っていうか」

 実際見てみてああ…と思った。川に突き出るような小屋があり、穴が開いている。ナチュラルな水洗式だ。一応ドアあるし見られないからいいか…ペーパー持ってきてよかった。

 中に戻ると後ろの馬車の人達も到着していた。ヴィオラがいる。

「さて、ウチは食事の支度しなきゃだわ」

 男性たちが食糧を運んでくれるが、作るのはヴィオラと、もともとアジトにいた女性数人だけらしい。

「私も手伝うよ」

 メリクールの男性女性が手伝いに向かった。アイギスちゃんはいきなり包丁で手を切ったので待たせることにする。

「ありがとー。ウチらでいつも食事作ってるから超たすかる」

「男性は、手伝わないんですか?」ダンが野菜を洗う。台所には水が来ている。温泉の水を再利用しているのか、少々温かい。

「うーん。やっちゃいけないらしいんだよね」

「宗教か」ディーが尋ねると、彼女はうなずいた。

「オトコには結構戒律あるんよ。家事はだいたいしちゃダメ、なんだよねえ」

「女性は?」

 ヴィオラは首を振った。不思議な戒律だな。

 そしてかまどで火を起こそうとするので、エルドリスが止める。「待ってください、この地下で火を起こすんですか」

 メリクールの工房は地下だから、魔法の火しか使っていない。

「でも、ウチら魔法とかつかえんし…」

「そうですか…ついに、見せるときが来ましたわね」

 テッテレー。青いロボットが道具を出す音が聞こえた。エルドリスの手に、正方形の板。スマホもどきと同じで黒い。

「これに、炎の魔法を込めます」

 みんなが彼女に注目した。エルドリスが呪文を唱えると、赤く光る。そして、かまどに置いた。

「ヴィオラ、これを指でさわってみてください」

「ウチ、魔力ないのに?」彼女はおそるおそる褐色の指で触れる。すると、板から火が。

「おお~」

 かまどを使うのに十分な火だ。

「もう一度触れば消えます。魔力は今くらいだと一週間くらい持ち、また魔法を入れれば同じように使えます」

「つまり、魔法をその板に溜められるってこと?」

 エルドリスえもん、すごくないですか?

「ダンがいつも魔法使いたい使いたいって口癖のようにいうものですから。これならサギリも使えますよ」

「俺、もうその板でスマホ充電してるんだ。超便利だよ」

 えー。ものすごく万能じゃん。

(ちょっと待てよ?)

 私はない頭でいろいろ考えた。ということは、「アレ」とか作れるのかな?


「全員、無事に到着したな」

 じゅうたんの上に、みんなで円座する。ひざ元に食事。何か旗のようなものが壁につるされ、その下にアズー様が座っている。周りはアジトにもともといた人達とルーフスやアスワドさんが座っている。

 私たちはその反対側。ディーがちょうどアズー様と対面に座っている。

「メリクールの方々、ここまでよく来ていただいた。そしてブルトカールの件、感謝する」

 指でととっと胸をたたき、頭を下げた。

「ここを守ってくれたものはわからぬと思うが、メリクールの近衛隊は常人ならぬ力をお持ちだ。私たちの志にお力添えしてくれるだろう」

 アジトの人たちは声を上げた。ほとんどが商人、ルーフスよりは少々年上の人ばかりだ。貴族の人も少々いるのかな。髪の毛がぱっつんなのでわかりやすい。

「あの力でとっとと城に入っちまおうぜ!」

 ルーフスが立ち上がりかけ、アスワドさんがその肩をおさえる。

「だめだっつってんべーや。あくまでメリクールは力を貸してくれるだけ」

「んー…なら、周辺の街とかはどうなんだ?」

 ルーフスが尋ねると、商人さんたちがざわざわし始めた。

「国境のフィッダ将軍率いる銀狼軍が全滅したらしいって…」

「ナランハの街でも処刑があって…もっと早ければ」

「ナランハ? 辺境じゃないか。そこまで国が取り締まりをしているのか」

 国の情報を耳にするアズー様たちは苦々しい顔をする。なんか、やりたい放題みたいだな。アズー様の父親も殺されてるってダンに聞いてるんだけど。

「あの、それでちょっと提案があるんですけど…」

 ダンが手を挙げた。

「現在鉄鉱山をめぐって争いをしているとのことですが、もしかするとそれを放棄できる材料があるかもしれません」

 アジトの人は若くて細っこい小僧が何を?という顔をしている。アズー様が手を横に動かし、周りを鎮めた。

「彼はとても頭がよい。村の構想は彼の者だ。ダン、それは何のことだ」

「アズー様が水を探すときに使うあのやり方、この国では水ではなく『ドロドロしたもの』ばかり出るとおっしゃってましたよね」

「ああ…使い物にならんハズレだ。水と混ざれば飲めなくなるし、突然燃えることもあって厄介なだけだ」

「燃えるんですか? ますます俺の求めるものに近い。湧き出る場所に連れて行ってほしいんです。もし俺が求めている者だとしたら、それは鉄より価値があります。メリクールに伝え、こちらで高く買い取らせてもらいます」

 アジトの人がどよめく。アズー様も膝立ちする。

「さすがに何を言っているのだ。あれが鉄より価値がある? 宝石や金だというのか、あれが?」

 ディーが空気を受け止めてダンの手をひっぱろうとしたが、弟は自信満々だ。

「どうか、連れてってくれるだけでも。お願いします」

 そのあと食事になったが、アジトの商人さんたちはそのドロドロの話をしつつ、メシがまずくなる…と口々に言っていた。

 よっぽどのハズレなんだな…。


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