テントで女子会!
村の滞在は数日なので、ダンが気を利かせてカーディナルのテントを用意してくれた。フルームっていうんだって。
細い木が傘のようになっていて、その上に布をかぶせた形。下はじゅうたん。暖炉もついていて至れり尽くせりだ。
「すごい。すーごーいー」
温泉に入ってきて大満足なのに、さらに気分が上がってくる。私はスマホであちこちを撮った。
「数十分で組み立てられるんですのよ」
今夜は女子で集まって寝られる。大女子会なのだ!
運んできた布団を敷いて、ごろごろ転がった。「あー楽しーい!屋根もステキ!」
布は二枚重ねられているようだ。柄が細かくて丁寧。しかも星と月の柄。かわいい!
「ああ、いいお湯でした…温泉ってあんなに気持ちがいいんですね」
ペティちゃんがアイギスちゃんの頭を拭きながらテントに入ってきた。
「だよね! ちょっと緑で匂いはあるけど、体があったまるよね」
草津のお湯があんな感じだっけ? 一日の疲れがじわりと溶けだしてく気がしたよ。しかも温泉内は浴槽がきれいに石で作ってあって、ダンの開発したシャワーもあって文句なし。普通の水も、たくさん出るんだよね。
「温泉なら、カーディナルに入ればたくさんあるよ。透明なヤツも、泡出るやつもあるし」
ヴィオラも入ってきた。
「そうなんだ~。全部入ってみたいなあ」
「内乱でそれどこじゃないけどさ。それからカーディナルでフツーの水はあんまり出ないんだ。なんか、黒いドロドロがでることもあんの。あれ出ると近くの水もダメになっちゃうからマジ困るし」
ふーん…?
「あのう…私もここに入れと言われたんですが、いいのでしょうか」
ヒルトも入ってきた。濡れた髪をオールバックにしていて、宝塚の男役みたいにカッコイイ…。
「いいよいいよ、てか、ウェルカーム!」
「ウェルカーム!!」
私とヴィオラが手を広げる。あんまりにおんなじことするから思わず笑っちゃった。エルドリスもクスクスしてる。
「だから会わせたかったんですのよ」
「えっ?!」
ヒルトからとんでもないことを聞き出してしまった。
「フラットさんと、幼なじみなの?」
あれこれコイバナしてて、ヒルトが何も言わないから私とヴィオラでさんざん尋問して(くすぐり)判明してしまった。
やりすぎたかなあ…。
「ああもう…」ヒルトはタオルを首にかけ、姿勢を正しつつも目をそらしている。「もう、言ってしまったからには仕方がありません。私の家は子爵、向こうは男爵家です。昔から私たちの家はつながりがあって、子供の時から知っているんです。
でもフラット、あいつは…血の気が多くって学習舎ではケンカばっかり。軍に入るまではかなり荒れていたんです。兄弟が多くて、末っ子で、あまり親に構われていなかったからかもしれません。私の家にいる方が多かったかもしれない…」
あのやんちゃ感はそれか。すぐにちょけるよね。
「学習舎のころはケンカを止めるために殴り合ったこともあります」
「まじか」ヴィオラが寝っ転がりながら驚く。
「そして、そんなに暴れたいなら一緒に軍に入ろうって提案したんです。
フラットは軍でしごかれるうちに頭角を現しました。隊長たちにあこがれ、ふるまいも下品ではなくなったし。でもそのかわり、女性にモテると勘違いしはじめて、それからは外で女の子とみれば声をかけたりするようになって」
ヴィオラは頬杖をついて、訊いた。「でもヒルトちんはそれでも好きってこと?」
「え、私は」
「好きじゃん。好きピじゃん。尽くしてんじゃん」
「好きピ…?」他の子は意味が分からなくて困惑している。
ヒルトは耳のピアスをいじりながら、うつむく。「でも私はこのように女っけがまったくなく。昔から同じように育ちましたので、向こうは男友達としか思っていないんですよ」
ヒルトは寂しそうに笑ったが、なんか腹立ってきたなあ。
「ねえ、それダメだよね、なんでかなあ。なんでフラットさんってヒルトのよさに気づかないのかなあ?あほなんじゃないの?」
私は枕を抱きしめ、みんなに訊いた。
「うーん…サギリ、違うと思います」ペティちゃんが手を挙げる。
「兵士ってもっと、女性づきあいのエグい人はすごいんですよ。でもフラットは休日にカフェで声をかけて、一日デートしてすぐ別れてしまうらしいです。誠実じゃないって私が言うと、『でもなんか、違うんだよなあ』っていつも。さっき言ってた二股も実を言うと、一回デートして思い詰めてしまった女性が他の女性とデートしていたフラットに出くわしただけなんですって」
「あるあるー。思い込み激しい系。あれは地雷」
「じゃあ、あの人何してんの?」
私がペティちゃんに言うと、ペティちゃんはヒルトに向いた。「大丈夫だと思いますよ、ヒルト。あれはたぶん…フラットがまだ迷っている感じなんです」
なるほど。本当はヒルトのこと以外考えられないのに、男友達の時間が長すぎちゃって「恋人」の距離感がつかめないのか。だから他の女の子と付き合って確かめてるんだ。さっきのあの視線、フツーじゃなかったもんな。
ヒルトはため息をついた。「実は選抜を潜り抜けたとき、『お前は入るな』って言われてしまって。先ほどようやくわかった気がします。フラットはあんな戦いをしているんだって、ようやく知った。なのに私、あの時ムカッとして、逆らって」
自分の髪の毛を、触る。
私はその手をとった。
「ヒルト、それでもあなたの選択は間違ってない。あなたがいなかったら私とアイギスちゃんは助かってない。いいんだよ、一緒にいたければ向こうが何を言ってもついていきなよ。ヒルトにはその力があるんだもの」
私は戦う力がないから、我慢してしまった。
「そうですわ。私も…全然うまくいかないんですけど、自分の今に自信があります」
エルドリスはもっとがんばろうよ。まあ、こっちにも責任はあるけど。
「ハハッ。コイバナってやっぱりアガるよね~」
ヴィオラが布団に転がってニヤつく。
そうだ。「ヴィオラはさっきからのらりくらりしてるよね? どうなのよ」
「ヒミツ!」
「えっずるい。ヒルトがあれだけ言ったのに、逃げんな!」
「だってさあ、ウチが言ってもみんなわかんないっしょ? ここにいない人だしさ」
「そうかもしんないけど、どんな人かは言いなよ」
「超ステキな人。心が、きれいなんだ」天井を向いて、笑う。でも、すぐに転がって顔を伏せた。
「会いたいな。内乱、早く終わんないかな」
私たちは、何も言えなくなった。
私たちは会おうと思えば会えるしいくらでもチャンスがある。
でも、ヴィオラは違うんだ…。
「ゴメンゴメン。ウチが暗い空気だしちゃったね。マジごめん」
起きて、舌を出す。
そして、私の顔に枕が当たった。
「枕投げて、遊ぶの知らない?」
メリクール側はそれぞれ顔に「?」をつけているが、私は立ち上がった。「それな!枕投げ!やろう!」
「どうやるんですか?」
「ただ相手に枕を投げてぶつけるだけだよ」
「こうですか?」
とんでもない速度で枕が飛んだ。慌ててよける。
「ヒルトちん、ガチじゃん!」
「それなら私もできそう」ペティちゃんが両手に枕をかかえている。
私とヴィオラは逃げ回った。そしてアイギスちゃんにつまづく。
「寝てるし!」
「さっきお酒がばがば飲んでたからなあ」
後ろから枕がぶつかってきた。結構いたい。
「くそ、反撃だー!!」
落ちた枕をつかんで走り出す。女の子だけのテントは大騒ぎになってしまい、覗きに来たディーが、
「何をやってる! 周辺からあのフルームがうるさいと言われたぞ! もう寝ろ!」
まるで修学旅行の先生だった。