再開と、出会いと
「姉ちゃん! ペティ!」
村に着くなり、ダンが駆け寄ってきた。私はダンと一か月ぶりに会うことになる。ぎゅーっと抱きしめて頭をよしよしした。
「真っ黒になったねえ」
「毎日野良仕事してたからね」
やっぱりダンの体はやわらかい。家族の感触だ。しばらくして、ゆっくり離れる。「さ、ペティちゃん」
ペティちゃんは手を組んだりほどいたりしている。
「ペティ、元気だった? …と言っても、毎日話してたけどさ」
「…そんなこと、ない…」
ぼろぼろ大粒の涙をこぼす大きな女の子。ダンは手を取って肩をたたいた。
「ごめん」
「寂しかった…寂しかったよ…」
ペティちゃんの方が大きいので、抱え込まれる形になる弟。
「そんなに、会いたかったの?」
「会いたかったに決まってるじゃないですかあ…」
「そっかあ…」
二人は動かなくなってしまった。アイギスちゃんも話したそうだったが、そのままにしてあげよう。
夕暮れの村を回る。街灯があるわけじゃないけど、石造りの家がいくつか立ち並び、その周りに畑が広がっているのはわかる。
「ひろい」
「だねえ。どんだけ耕したんだろ」
村につくちょっと前から道路が舗装されてたんだけど、その白い道が村を貫いていた。
道の向かいに大きな建物。中からほかほかと湯気をまとった人たちが出てくる。
「ここが温泉かあ!」
もう男湯と女湯が分かれたってきいたぞ。入れる!
「こらこら、サギリ、アイギス。もう暗いから建物に入れ」
ディーが追い付いてきた。もう。セ●ムだな。
「でも、寝る前に入らせてくれるよね」
「それはもちろんだ。その前に夕食にしよう。村の者が用意してくれたとのことだ」
ささやかな宴会をしてくれるらしい。
アイギスちゃんのお腹が鳴った。
一番大きな建物だ。近衛隊の詰め所と同じ感じで武骨な石づくり。でもガラスの精度が上がっていて、外がよく見える。
「サギリ!」
会場に入るなり、エルドリスが近づいてきた。わあ、別人だ。
ローブは着てない。カーディナルの貫頭衣をかぶり、腰に鮮やかな柄のストールを巻いている。セミロングの髪を横でまとめているが、やはりダン同様めちゃくちゃ日焼けしている。
それでも美人は少しも変わらないんだけどね。
たくましくなったなあ。
「エルドリス、会いたかったよ!その服、似合うね」
「そう? 私なりに向こうの服を着ているのですが」
さすが、センスがいいや。
「お、お久しぶりです、エルドリスさま」
「アイギス?! まあ、自分からしゃべるなんて。本当にサギリに鍛えられちゃったのね」
エルドリスはアイギスちゃんの頭を撫でた。
「エルドリスさま、グラインさん、と、うまく、いってるの」
「な、なんてことを! アイギス!」
そこにグラインさんも近づいて来る。「やあ、サギリ様、お久しぶりです!」彼もさらに真っ黒だ。
トレイにいくつかの飲み物を載せている。
「カーディナルのお酒です。いかがですか?」
「強そうだな…」
「そうでもないですよ。クセはありますけど」黒いからわかりにくかったけど、もう飲んでんぞこの人。
私は二つ分とって一つをアイギスちゃんに渡す。そして、グラインさんは他のところへ行ってしまった。
「ねえエルドリス…まだ彼となんともないの?」
「なんともない…というか、一回そうなりかけたんですが…あなたの弟に邪魔されたんです」
ごめん!マジごめん!
「私もカーディナルに行こうと思うんです」
「え、大丈夫?エルドリスの力は戦闘には」
「いえ…実はダンからとある話を聞き…、お役に立てるのではと」
なんだろう。
私はお酒を口にしたが、これはジンに似ているな。ストレートだと私にはきつい。炭酸水があったのでそれを足した。
だけどアイギスちゃんはもうコップを空にしている。ザルなのか。
部屋の中心に人だかりができ始めた。
「ささやかですけどパーティーですわ。楽しんでください」
三人でそっちへ寄ると、見たことのある人たちがいる。近衛隊の人や、カーディナルのぱっつんもいる。
「ええと、それでは歓迎会を始めます。皆様、新しい村・ノバフルームへようこそ。二つの国のかけ橋となるこの村で、どうぞ交友を深めていただきたい。それが、未来へつながることでしょう」
お酒を配り終えたグラインさんがグラスを持ち上げた。「乾杯!」
会食が始まった。ぱっつんの隣にはヤンキー商人のアスワドさんもいるんだけど、あのでっかい人は誰だろ。他にも商人さんはいるのに、やたら目立つんだよなあ。
すると、私の心を察したように彼が近づいてきた。
「よう! あんたがサギリっていうのか。ダンの姉さんなんだって?」
すっと手を差し出した。「俺はルーフスってんだ。カーディナルの商人やってる。よろしくな」
この人も自分で切ってる派だな。髪の毛がたてがみみたいにワッと広がっている。
「よろしく。商人さんなんだ。てっきり兵士さんかと思った」
私が握手すると、彼は白い歯を見せた。「ハハハ! 商人は身体が資本だからな。行商で耐えられなきゃつとまらねえ」
「あなたもレジスタンスなの? 国と戦っているって」
「まあそうだな。俺の親父が商人連合の親玉なんだ。商人は皆、国にキレてっからな。俺らはまだいいが、あんたも難民を見たろ。レジスタンスの家族だったり、勝手に疑われて追われているんだ」
「うん…」
メリクールにやってきた、何台もの馬車を見たよ。みんな、疲れた目をしていた。
「あんなのは、本来あっちゃならねえ。俺は一刻も早く、宰相のラーウースをぶっ飛ばしてやりてえんだ」
宰相か。今回の黒幕ってやつなのかな。
「メリクールには感謝してる。これから、よろしくな! ああ、俺の事は呼び捨てでいいから!」
いい感じの人だ。少なくともあのぱっつんとは違う。
ルーフスは他の人にもあいさつに行った。
「ああいう人もいるんだね」
アイギスちゃんはちょっとビビっていた。エルドリスは手を顔にあてる。
「商人の方々は皆、メリクールとは違いますのよね。街を渡り歩いて仕事をしているからみたい」
あの人も押し売りすんのかなあ。ドア蹴飛ばしそう。
エルドリスが別の方向に顔を向けた。
「あ、ヴィオラだわ! サギリ、ぜひ彼女に会ってください」
エルドリスが褐色の肌の女性に手招きした。彼女は小走りでやってきた。170くらいのナイスバディだ。
「エルドリス、この子? そのサギリってのは」
いきなり指をさされる。
「ええ、美容師のサギリ。ダンのお姉さんよ」
「ちーっす!!」
おお。ピースではないけど手のひらをぱっと顔にかざしたぞ。
「ウチ、ヴィオラ。まーなんつか、レジスタンスの雑用とか? やってます。よろしくぅ」
おい、まじか。異世界にギャルだ。
明るい色のウェーブがかった髪をポニーテールにしている。服は生成りだけど、胸元は大きくあいてるしスカート丈も短い。明らかにギャルだ。
「よ、よろしく」さすがに気圧されたぞ。
「え、サギリの髪、なんでそこだけ色違うの? かっこいいじゃん。服もめちゃヤバイし。エルドリスが会わせたい言ってたのわかるわ! アガる!」
うそ、私のメッシュをほめてくれたの、この子が初めてじゃない?
「サギリ、友達になろ!」
すごい明るいいい笑顔だ。
「わかるの?これね、ここだけ染めてるの!」
「ウチもやってみたい!」
「っていうかヴィオラは爪塗ってみるの興味ない?」
「え、爪?」
「ああでも雑用とかしてるなら邪魔かなあ。つけ爪ならいいかなあ。あと、いろいろメイクしてみたいな」
「エルドリスが言ってた。サギリって知らん色の口紅とかたくさん持ってるんでしょ?見して見して!」
やばい、この子新鮮だ。ギャルだけど、ギャルだけに何を言っても食いついてくる!
気が合う!
「よかった。ヴィオラはきっと、サギリと仲良くなれると思ってましたの」
「この村、女子少ないしさ。ホント会えてよかったよ!」
ヴィオラはウインクした。
過酷な旅だと思ってたけど、いろんな出会いがあるもんだ。