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平原にて


「よかったー! ペティちゃんも選ばれたんだ!」

 また新しい出立式。私はペティちゃんと手をつないで一緒に飛び跳ねた。

「はい! 一緒にカーディナルへ行きます。サギリも守りますよ!」

「ダンにも会えるね」

「はい…!」

 花が咲いたように笑った。ペティちゃんは、私の何倍も我慢してたんだよね。お姉さんも向こうだし。

 私たちは馬車の様子を見た。何台もあって、荷物を積むためにいろいろな人が行きかってる。

「やっぱりもともとの隊で行く感じかな?」

「ただ、こちらも守らなければいけません。引き続き、ポンメル様がこちらに残るそうです」

「ご家族、いるもんねえ」

「もうすぐ、三人目がお生まれになるそうですよ」

 おお。それは絶対にそばにいなきゃ。

「そういえば、新しい兵士さんって『力』ついたのかな? その人たちが王都を守る感じだよね」

 ポンメルさんが見える。その近くに、この前カットした人たちが並んでる。

「はい。まだうまくは使いこなせていませんが、この辺なら守れると思います。サギリの店も、近衛隊が毎日見張りを付けますから安心してください」

 それは助かる。私とダンの大切なウチだもの。

(お客さんが来るようになってまだ数か月だったけど…今はしゃあない! また戻れることを目標にしよう)

 それに、カーディナルの美容師さんも気になるしね。ぱっつんにしか切れないっぽいけど。

「王子のせいでアイギスちゃんも連れていくことになっちゃったけど、私もいるし、みんな大変だよね」

 村でダンとも合流する。たぶんカーディナルへ行くだろう。戦えない人間が何人もついていくことになるのだ。

「でもアイギスの力は稀有です。サギリの力も、ダンの賢さも。兵士だけでは切り開けないものがあると思うんです」

 それで、とペティちゃんがこそりと打ち明けた。

「え…な、なんだって?そんな力が?!」

 思わず声を上げ、周りの人がこっちを見た。慌てて口をおさえた。


 またまた王様の長い話を延々と聞かされ、眠くなりながら馬車に乗った。見送る人たちに手を振り、街の外れに到着すると、途端に速度が上がって街がぐんぐん遠ざかる。

(おおーう…)

 馬車の中で驚いているのは私くらい? 寺院に行くときはこんな速さじゃないもの。高速道路で走る車って感じかな。

 すでに外は黄土色。何もない平地に、時々低い木がちらほら立っている。

「こちら側はこのありさまだ。今まで魔物が支配していたようなもので、誰の手も入っていない」

 ディーが言った。馬車の中はとても単純なつくり。トラックの荷台に幌がついていると思えばいいのか。他にはペティちゃん、アイギスちゃん、フラットさんが乗っており、二頭の馬を操っているのはコンベックスさんとチゼルさん。

 チゼルさんはディーとフラットさんのちょうど間くらいの年齢で、サーベルが武器らしい。明るくよく話す感じだ。

 後を追う馬車にはいろいろな荷物が乗っている。たぶん近衛隊の雑用をしている人や魔法使いもいると思う。そして、食糧も乗っけている。ノバフルームだっけ、新しい村の畑はまだ農作物が育ってないからね。

「馬車、思ってたより乗りごこちがいいね。こんな土の上を走っているのに」

「ダンのおかげだな。タイヤ? という車輪が衝撃を吸収しているらしい。それから道の部分だけは石をできるだけ取り除き、平らにならしているのだ。ここにダンが考えた石をはめるともっと走りやすくなるらしいな」

 すごいな、うちの弟…。

 平原に、何か跳ねる影を見つけた。

「シカみたいなのが走ってる!」

「魔物がいなくなり、群れが増えているようだな」

 おいしいらしい。

「牛みたいなのもいる!」

 あれもおいしいらしい。メリクールって食べもの王国じゃないかな。

「そうか、サギリは外に出たことないんだったな」

「うん。旅行って言ったらそうだもんね。初めて!」

「本来、仕事じゃなければな…」

 頭を撫でられる。「よし、わからないものがあれば何でも教えてやるぞ」

「もう、隊長見せつけないでくださいよー」

 フラットさんがはやした。すると、

「何が悪い。フラット、お前は女にだらしがないぞ。何度頬を腫らして帰ってきてるんだ」

 おおっ、ディーが開き直ったぞ! っていうか、フラットさんやばいな!

「やだ、こわい」

 アイギスちゃんがペティちゃんの手を握った。そりゃやだよね。

「だって声かけてナンパして、一日楽しめたら俺はそれでいいんで。で、別れ際怒られるっていうかー」

「フラット、この前の二股はなんだったんだよ? あの修羅場、ビビったぞ?」

 運転席のチゼルさんが振り向いた。

「いやあ、あれはなんていうか理由があって」

「…村に着いたら、わかっているな?」

 ディーがポキポキと拳を鳴らした。フラットさんがしぼんでしまった。

 ところで、実はもう一人同乗者がいる。

 女性の兵士さん。たしか、ヒルトっていうんだよね。

 この前選抜された中、たった一人こちら側なのだ。

 東洋人ぽい肌、くせのない黒髪。「手加減せず、男性と同じように扱ってください」と言われてしまい、私は遠慮なく短く切った。前髪とサイドが少々長め、でも後ろを刈り上げたマニッシュなショートにしてある。

 彼女がペティちゃんの言ってた「とんでもない能力」の持ち主なのか。だからこちらによこされた、と。

 馬車に乗ってから、彼女は一言も言葉を発していない。


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