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ダン、新しい村で気づく。


 畑から、芽が出てきた。小さなふたばだ。

 俺は土壌改善の本もしこたま持ってきたんだけど、土に手を加える必要はないみたい。つーか、日本の農業が特殊なんだよな。

 日本は土地が狭いからやせた土地でも耕さなきゃいけない。でも広大な土地があれば、「育ちそうな場所」を選んでタネまけばいいってことになる。

 あとはある程度育ってから虫の害がでるだろうから、その時までは道路整備にとりかかることになる。


 で、カーディナルからは毎日のように馬車が来てわらわらと畑を広げていってる。

 メリクール側は人数を絞っているだけに、ちょっと多いんじゃないかな?と思い始めていた。

「ねえグラインさん、カーディナルとの話ってどんなでしたっけ? 村の人数、とりあえず同数じゃなかったですか? 明らかにあっち、うちの三倍くらい来てる気がするんですけど」

 フルームがどんどん増えていく。まるでカーディナルの村だ。

「うーん。全員通行証はちゃんと持っているし、全部確かめているんだけどな」

「ほんとにみんなが許可もらってんのかな?」

 俺は腕を組んだ。子供が走り回ってる。この子たちも許可証持っているってことだよな?

 ちょっと通行証を見せてもらい、スマホで撮影した。銀の板で、名前が彫られ墨入れされている。

 国のしるしみたいなものも細かく彫られている。

 向こうの国、金属はそうとう出るみたいだなあ。


 道づくりはこっち側とメリクール王都側でそれぞれ始めている。馬車で運んできた白い板(正方形)を並べていくのだ。平らにならした地面に、隙間を作らないよう置いていき、ある程度面積が埋まったら魔法をかける。

 すると、セラミックの板同士がくっつくのだ。

 今は俺が並べる位置を計測し、エルドリスさんが魔法で固定していってる。

 この世界に測量機はないので、まあ大変である。少し古い書物から見つけたやり方でやってるからしんどいっちゃしんどい。

 エルドリスさんはカーディナルの魔法使いにやり方を教えているが、なにしろ魔力がちがうし、エルドリスさんがチートだしであっちがビビっちゃってる。

 やはり、あっちの魔法使いも戦いには参加しないらしい。

(そういやこの人たちは一番最初に来たメンバーだったよな)

 通行証を見せてもらい、スマホで撮影した。

「さあ、ちゃっちゃとやり方を覚えてくださいね。私はいずれほかの作業へ移りますから、その時はあなたたたちだけでやりますのよ?」

 エルドリスさん、日焼けしちゃったなあ。でも楽しそうで何よりだ。

 グラインさんもその姿をちらちら眺めて浮かれてるし…ここは俺がしっかりしないとな。



 夜、スマホ画面を凝視していたんだけど…ちょっとこれやべえなと思いエルドリスさんのフルームへ入った。

「うわ、だ、ダンくん。ど、どうしたんだい」

 やべえ、グラインさんがいる。めちゃくちゃ俺お邪魔虫じゃん!

「あの…すいません…通行証のことでちょっと。エルドリスさんに正確に鑑定してもらいたくなりまして」

 女性専用のフルームなのでほかにも女性が泊まるはずなのだが、エルドリスさんしかいない…完全にやらかしてしまった…

 だが、一刻も争う問題だ。

「見せてください」エルドリスさんは日に焼けていても、手がとてもきれいだ。

 そして画像を俺がスワイプしながら見せる。いろいろな人の通行証を撮影した。商人、農作業の人、その奥さんたち…

「これは、日を追うごとに彫りが甘くなっていますわよね」

「うちの通行証は金属資源がないから木のものなんだけど、偽造できないように特殊な木を使ってる。木目でわかるんだけど…」

「たぶん本物の通行証からコピーを作っているんだと思います。粘土かなんかで型を作って銀を流してる。だから彫りが甘い」

「一応それをごまかすために後から彫りを加えていますけどぞんざいですわ」

「参ったな。なんでそんなことをしてるんだ、彼らは…」

 グラインさんは赤毛の頭をくしゃくしゃした。「この村を乗っ取る気なのかな…」

 カーディナルは砂漠の国で、農作物が育たない。育っても、メリクールほど多様に作物が取れない。この肥沃な大地で「商売なし」に農作物が取れれば最高だよな。でも…

 そんな単純な話ではないよな、きっと。

「このまま人を受け入れていてはグラインさんたちに力があっても太刀打ちできなくなります。明日、話をしましょう」

 俺はそれだけ言ってそそくさとフルームを出たけど、二人は「つづき」ができる状態じゃないよな…

 なんてことしちゃったんだ。俺は自分の寝床に入りさっさと目をつぶった。しばらくしてグラインさんが戻ってきたような気がしたんだけど、完全に寝ているふりをした。



 ところが、翌朝外が騒がしい。

「いくらなんでも、これが通行証なわけないだろう!」

 朝見張りをしていたスカンジさんとリカッソさんが馬車を止めている。俺は寝間着のまま飛び出して通行証を見たが、銀じゃない。

 明らかな偽造だ。

「認められません。早々にお帰りください」

 すると、馬車から人が出てきた。

「そんなこと言わないでください…やっと国から出られたのに…」

 真っ青になった女性が俺の袖をつかんだ。

「帰ったらどうなるか、わからないんです…お願いします」

 老人も、子供も。馬車の中の人たちが身を寄せ合っている。

 そういえば、着のみ着のままって感じがする。彼らは何も荷物を持っていない。

「どういうことなんだろうか…」

「とりあえず彼らは預かりましょう。村の隅に馬車を止めさせて、アズー様たちに話をします」

 俺はスカンジさんに言った。

 この村は別の理由に使われている。



 フルームの中でアズー様は、あぐらの状態で頭を下げた。

「申し訳ない」

 土下座に近い。俺とグラインさんもフルームの中で座っているが、メリクールの人はあぐらがかけないらしくグラインさんは正座になってしまっている。

「あの人たち、難民ですよね? もっと早く言ってくれれば、こちらも準備ができたのに」

「とうとう、銀が尽きてしまったのか。逃げねばならない者が多すぎた…」

 彼は、頭を下げたままだ。

「顔を上げてください。ちゃんと話ができません。カーディナルで何が起こっているんですか」

「戦争だ。それと内乱もある」

 隣に座っていたルーフスさんがでっかい声でしゃべる。「東の国、グレナデンと鉱山の取り合いから戦争が始まって、大きくなってんだ。非常時だっつって税金は高くなるし、徴兵はされてくしよ。農民がみんな持ってかれて、食糧どうすんだっての」

「戦争になったのは、いつ頃ですか?」

「小競り合いは一年前からだ」アズー様が目を左に動かした。「本格的になったのは、メリクールと国交が回復して、すぐだ。私の父は国を案じ王に進言したのだが、宰相に根回しをされ、処刑された」

 ちょっと待ってよ。俺はつばを飲み込んだ。話がいきなり重いじゃんかよ。

「そこから国民の不満が高まったのだが、声を上げたものから捕まり、牢へ送られてしまう。私たちはレジスタンスを作り戦うことにしたのだが…今この村にいるものは私たちレジスタンスの家族、そして、処刑されたものの親戚などだ。また、逆らってもいないのに疑われ、家を暴かれ、焼かれるものもいる」

「アズーよう、だから言ったろう? こんなチマチマしたことやってねえでさっさと宰相の首、取っちまえって!」

 ルーフスさんが立ち上がりアズー様を見下ろす。逆にアズー様は彼をにらみつけた。

「父は急ぎすぎて殺された。その後お前たちは何をした? 暴動を起こし、仲間が死んだだけじゃないか。血を血で洗って勝ったとしても、国民はついてきてくれないぞ」

「クッ…おめえは本当に口ばっかりで!」

「お前は、冷静という言葉を知らぬのか!」

「まあまあまあまあ」

 俺はあわてて組み合う二人を引きはがした。グラインさんも手伝ってくれた。ルーフスさんがでかいから助かったよ。

「国が大変なのはわかりましたから。鉱山っていうのは、金銀銅、鉄などいろいろ出るんですか?」

「鉄だ。グレナデンは鉄を欲しがっている」

「しっかし国境ぎりぎりの鉱山まで狙うなんてよ…だが、一年もドンパチやってたらさすがにもう、どうでもよくねえか?って思えてきちまう」

 一度仕掛けた戦いは止められない。双方がそうだろう。戦争はそういうものだ。

「国王はお話できる状態ではないんですね?」

「うむ…私は第一王子とは学友なのだが、王にはお目通りが叶わぬ。そして王子は政治に口が出せないらしい」

「宰相だ。あいつが全部仕切っちまってんだ。王様なんて、もうお飾りにすぎねえんだよ」

 俺はグラインさんを見た。

「どうでしょうか」

「隊長…ディーズ様や王に連絡しましょう。戦争が元であるなら、もしかしたら、止められるかも…」

 カーディナルの二人は、きょとんとした。

「戦争を止める? あんたら何を言ってるんだ?」

 外で声が上がった。

「グライン、魔物が出たぞ!」スカンジさんがフルームの入り口を開けた。

「やっぱり出ますか…こっちに来てから見たことなかったんだけどな」

 頭をかきながらグラインさんが立ち上がる。

「魔物…?」二人は戸惑う。なぜそのように冷静でいられるのか、という声だ。

 グラインさんは部下に尋ねる。

「スカンジさん、どのくらいの数ですか?」

「レギドと、ここで戦った翼のあるヤツだ」

 俺たちはフルームから顔を出した。村の人が真っ蒼になって逃げている。俺も魔物を直近で見るのは初めてだ。プテラノドンみたいなやつと、トラみたいなやつの群れがいる。

「じゃあレギドは俺が。もうホロワさんが翼のやつを狙っているんでしょ?」

 グラインさんはフルームの外に立てかけてあった槍を手にした。「スカンジさんもレギドを」

「ああ、わかった」

 二人は走り出した。

「おいおい、あんなのがここにはウジャウジャしてるのかよ。安全だって言ってたじゃねえか」

 ルーフスさんが魔物を見て俺の背中をつかんでいる。

「まあ…たくさんいるんですよね。でもあの人たちあれよりももっと多く魔物やっつけてるらしいんで」

「ふざけたこと言ってんとブチ殺すぞ」

「ほら、見てみて」

 ドン、と音がして空がはじけた。フルームの上に乗ったホロワさんが弓を放ったのだ。

 ただの矢を飛ばしているだけなのに、魔物に当たると爆発する。えらい力だ。

 スカンジさんが双剣をふるうと風が起こってトラみたいなのが三枚おろし。

「でやああああ!」

 そして、グラインさんの稲妻。槍をふるうとその切っ先が電撃を散らす。トラもプテラノドンもみんな黒こげになってく。

 リカッソさんという人も、鉄球のついた武器を回すとグンと鎖が伸びてトラをつぶしていった。

 あっという間の出来事だ。

「なんだよ、あれ…」

「すさまじい力だ」

 異国の二人はぽかんとしてるが、俺も冷や汗をかいている。

(やっぱ姉ちゃんのチートやべえなあ…)


「なあ、メリクールの力があれば、宰相なんかすぐ倒せるんじゃないのか?」

 フルームの中に戻ってルーフスさんが目を輝かせる。が、アズー様は難しい顔をする。

「それでは自分たちの力で国を立て直せないということになる…」

「そんなのどうでもいいじゃんか。俺たちがやってムダなら、力を借りなきゃだめだろ」

 いや、よくないな。俺もアズー様と同じ考えだ。

「ルーフスさん、アズー様はね、メリクールに助けを求めて頼りすぎるとその代償が大きいと考えているんです。例えば…まあうちの国王はそんなこと考えないと思うんですけど、乗っ取られるとか」

「のっとり?」

 声が素っ頓狂すぎて耳が痛くなった。

「うちの国王は温厚でしっかりした人だけど、つい最近ゴタゴタしてたんです。その残党がいないわけでもないだろうし、そういう人がカーディナルに対してよくないこと考えるかもしれないんですってば」

 姉ちゃんに説明している気分になってきたが、姉ちゃんと違うのはルーフスさんがちゃんと俺の話を理解しようとしてるとこだ。

 姉ちゃんは難しいことは俺に丸投げだからなあ。

「うーん…うーん。なるほどなあ…」

 ルーフスさんはたてがみみたいな頭をおさえる。

「ようやくわかったか、もう少し学べ」

「ダンの話はとても分かりやすかったぞ! アズーは説明しないで俺のことをバカだアホだ言うよな。お前にダンの爪の垢、煎じて飲ませてやりてえよ!」

「そもそも察しが悪いお前に、説明する義理はない」

 アズー様もいちいち口がきつい。ほんとにこの二人仲が悪いなあ。

「とにかく! メリクール側は過干渉にならない程度で力を貸しますよ。もしそのまま放置すればこっちまで戦いに巻き込まれかねませんからね」

 さらに内乱があれば、グレナデンには都合がいいはずだ。

(うまみはなさそうだけど…)

 俺はとりあえずスマホもどきでディーさんに連絡し、グラインさんが馬で王都へいったん戻って詳細を伝えることになった。

 その馬の速さもカーディナルの人の度肝を抜いたが、

 もし向こうからペガサスが来たらぶっ倒れるかもしれない。


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