初デート!
ちゃくちゃくと「新しい村計画」は進んでいった。
エルドリスが髪を切ったことで魔法使いたちが店にやってきて私は仕事に追い立てられて。
ダンはいろんな本を勝手口から持ってきて、どれを持っていくか悩んでいる。
あと、私は実験をしていた。今までもお客さんにはワックスやクリームを渡していた。でも一日たつと在庫は戻る。
シャンプーやコンディショナーなどを外に持っていったらどうなるのかなと。
すると一日たつと在庫は戻るので少々面倒だけど少しずつ増やせることが分かったのだ。
二階のボディーソープや歯磨き、せっけんや洗顔料もそんな感じで増やす。これをダンに持ってってもらおうというわけ。
「そっか。一日待つけどある意味無限に増やせるんだ」
ダンはスマホの充電器をめちゃくちゃに増やし始めた。
「でも、こっちの技術で電気を貯められるようにしたいよなあ」
エルドリスの「力」はもう倍増もいいとこで、外で試したら野焼きになっちゃって大変だったそうだ。
あと、グラインさんはあの夜「風になびく髪も素敵だし、初々しいですね」といったんだって!
かわいいってことじゃん!
でもエルドリスは一人の魔法使いを心配していた。髪を切ったのに力が分からないらしいのだ。
私も心配している。ペティちゃんみたいに落ち込んでるんだろうな。
その子は女の子でペティちゃんと友達だそうだ。
貴族は兵士や魔法使いなど進路が決まるまで中学みたいなところで一緒に勉強するそうなのだが、そこで一緒だったらしい。
私はペティちゃんに、その子にここへ来るよう伝えておいた。
「…で、グラインの隊にポンメル様を入れたかったのだが…奥方が現在身重でな。とても村へなど行けないと断られてしまった」
「それは仕方ないしポンメルさんがいたら実質ポンメルさんが隊長だよ」
私とディーは街のカフェテラスにいた。
いい場所を教えてもらったから、休日に行こうと誘われたのだ。
初デートである。
(ほぼ毎日やってきて何回かに一回夕食一緒にしてるのに、デートが初めてなんてもう…もう…)
私服のディーも初めて見た。襟なしのシャツと深い緑の上着。ズボンは膨らんでいない。ブーツインしている。
かっこいい~。
本当は私の世界の服も着てほしいけど、ダンの服は小さいだろうし、あの子の服はおこちゃまだもんな。
それでも体格がいいし、オフでも緩さがなくてディーによく似合っているのだ。
私も一応、それなりに…それなりーに今日はプリーツのロングスカートをはいてるんだけど、もともとかわいい服が好きじゃなくて「仕事着」と変わりないような気がする。
私はテラスから川を見た。こんな場所があるんだなあ。水がとてもきれいで、魚の背が見える。
向こう岸もいろんな色の屋根があって、外国の観光地みたいだ。
「このジュース、おいしい~!」
「よかった。この店では新しい果実を試しているらしく、珍しい飲み物が出るそうだ」
「こういうのも、輸出できるといいよね」
つい、話が大きくなってしまう。
「サギリ、その帽子似合うな」
「ああ」たまにはと思って出してきたやつだ。ほかの店で働いていたときはわりとかぶっていたんだけど、独立してからそれどころじゃなかったしね。つばを上に折り曲げた黒い帽子だ。
「先ほどから若い女性が見ているぞ。サギリの服がうらやましいのだろう」
「ちがうよ。ディーを見てるんだよー。私を見てるんだったら単に珍しいだけじゃないの?」
「何度も言わせるな。珍しいくらいで好きになったと思うな。俺を見くびるつもりか?」
そう言ってディーは自分のグラスと私のグラスを取り換える。
「こっちも美味いぞ」
「う、うん」
私のはピンクに黄色の二色だったけど、こっちは緑に白だ。
ん。白はヨーグルトだったのかな。まろやかでおいしい。
「これもおいしいね!」
そんなとこを頬杖ついて見つめているディー。
「そういうとこが、好きなんだ。感じたことをすぐ顔に出したり、笑うところが。美人じゃないとか体がどうだとか俺はどうでもいい。もう、言うのは禁止だぞ」
「ほんとに、どうでもいいの?」
「ああ。俺だって顔が怖いとよく言われる。兄上とは大違いだ。しかし比べても仕方がない。変わるわけではないし。お前だって、いきなり変わらないだろ?」
私はこそばゆくなってもぞもぞしてしまいそうで、
「私はその、コワモテなとこが好きなんだけどな」
もそっとつぶやいた。
「ほら」ちょっと不服そうな顔。「お前は相当なもの好きだ」
「えへへ」
私が自分に自信が持てないのは、たぶん小さい時のクセかもしれない。
父親に愛してもらえない理由をずっと考えてて、自分の欠点をあらさがししていたんだと思う。
異世界にきてようやく、父さんが私を愛してないわけじゃなかったとわかったけど、クセはすぐ直るものじゃない。
それをディーはいつも指摘してくれるし、少しずつ自信をくれる。
「ところで…サギリ」
少々咳払いをする。そして数秒考えているようだったが、こちらを向いた。
「これから、来てほしい場所がある」
「ほえ?」
姿勢を正して、まっすぐこちらを見つめた。
「ここから歩いてすぐだ。いいだろうか」
すごく、真剣だった。