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そして、お客が来る

 王妃が遠くに追放され、そのニュースは王都に伝わった。ただ実際とは話がかなり違った。病気療養のため、とかそんな感じだ。

 私は死にかけたけど、あの人の気持ちも少しわかる。だから、事実をそのまま伝える必要はないと思った。

 しばらくすると、そのニュースを打ち消すように王のパレードが行われると国の偉い人たちがあちこち歩いて触れ回った。

「いよいよですか」

 店の前でそれを見ながら弟に言うと、

「そうなのですよ」腕を組んでニマニマした。


 当日、石畳の道は厳しい道路規制が行われた。沿道の人々はできるだけ建物のそばにいること。ちょっとでも飛び出すと、この日のためにかき集めた兵士が捕まえて元に戻す。

 だから、私たちみたいに二階から見る人も多かった。

 沿道の人は会話が尽きない。

「何が起こるのかしら?パレードでしょう?」

「今までと兵士たちの様子が違うじゃねえか。道をこんなに広げて」

 すると、城からラッパが聞こえ、花火がポンポン上がった。

 街の人はパレードをワクワクして待ち構える。

 ところが、「待つ」どころの話ではなかった。

 城から飛び出した『ソレ』は、街の人が期待した瞬間、ドドドッ!とすごい速さでやってきてあっという間に過ぎ去ったのである。

「え?」

「なんだ?見えなかったぞ?」

「馬車…だったよな、あれ」

 それは二周目に入った。今度は少し速度を下げ、民衆は王様が乗っている馬車を認めたのである。

「すごい!なんて速さだ」

「どうりで道に規制をするわけだ。あんなのに跳ね飛ばされたらどこへ行っちまうんだか」

 三週目。馬車は普通の速度になった。ここでようやく屋根をたたんだ馬車。王様とプルーナー王子が乗っている。人々に手を振っている。

「王様?!前に城からお出ましになったときと…御髪が違う!」

「あの方が第一王子なの?でもあの金髪って…」

「クリスだわ!王子ってクリスだったの?!」

 ようやく人々は安心して歓声を上げた。ここからがパレードの本番である。兵士たちも馬もついてきて、踊り手さんも現れ、花びらをまく人もでてきた。

 つられて踊りだす街の人が現れ、わいのわいのと大騒ぎだ。お酒を配る人もいる。

「ねえダン、あの馬車を開発したのはあんたでしょ。どうしてそこにいるの」

「姉ちゃんだって馬のしっぽ切ったじゃん。俺はこうして眺めているのが一番だよ。あ、ペティだ」

 真っ赤な近衛の礼装を着てる彼女に大きく手を振る。

 ペティちゃんも気が付き、真っ赤になりながら馬上から手を振った。

 そういえば…グラインさんとポンメルさんはいるけどディーがいないな。

 と思ってたら…

「サギリ、ダン!」

「おおー」

「そう来たか」

 ディーはドサンコちゃんに乗ってうちのベランダに降りてきたのだ。

 街の人がおったまげている。そりゃそうだ。

「うまく乗れるようになったんだね!」

「ああ、苦労したぞ。さあ、二人とも」

手を差し伸べられた。「「え?」」

「お前たちがパレードの主役だ。皆に手を振ろう」

「いや、私たち庶民だし」

「今の国があるのは二人のおかげだ。新しい国の門出を祝うパレードに参加する義務がある」

 ダンは一歩下がった。「俺はいいです。下でペティと合流します」

「この馬は小さいが、三人乗れるぞ」

「そうじゃなくって。やっぱこういうのって二人で乗った方がいいでしょ?」

「ダン!何ソンタクしてるのよ」

「う~む…そうかもな」そして手を差し伸べなおす。

「サギリ、乗れ」

 力強く、宙に引っ張られる。ドサンコちゃんの背中は思ったより大きかった。私は横座りした。

「しっかりつかまっていてくれ」

「行ってらっしゃい、お二人さん!」

「う、うわ、うわあ~!」

 街のみんながあちこちから私たちを見た。翼の生えた馬、赤い服に緑のマントの近衛隊長、そして異国のけったいな服を着た私。

 でも、みんな手を振ってくれてる。

 あ、この前パチンコ当てた子もいる。

 ただ、こっちが振りかえすと片手になってしまうから不安定だ。

「ディー、私、挨拶できないよ。怖い」

「じゃあ、笑顔でこたえろ」

「私のカオなんか見てもしょーがないよ」

「なんで、いつも自分を卑下するんだ。お前は、普段の顔も、仕事の顔も、怒った顔も泣いた顔も、そして笑顔も…全て美しいのに」

「また変なこと教わってる!」

「ち、ちがう!何度言ったらわかるんだ。お前は、俺にとって最高の女性だ」

 振り向いた顔はとてもまじめで、胸があたたかくなる。

 甘いものを胃に入れられて、熱くなっていく。

「それならこうすればよいのか?」

 ディーは私を抱き上げた。ディーの膝に腰掛けた形になる。「これなら俺の代わりに手が振れる」

 うわあああ。なんてことするんだこの人は。

 前髪がふわりと風に巻き上げられた。

 ディーはその隙を逃さなかった。

 キスを、された。

「サギリ、どうか結婚について考えてほしい」

 緑の目のイケメンさんが、ほほ笑みかけた。

 花火があがった。私は顔を抱えた。

「け、け、けっこん~?」

「今日、皆の前で言いたかったのだ」

「どんな公開処刑だよ!」

「相変わらずよくわからんことを言うな」

 街の上をくるくる回りながら、私たちはめちゃくちゃ見世物になっていた。

「兄上に先んじるわけにもいかんが、俺はもう他に、誰も考えられん。どうかサギリも、将来について考えてくれ」

 はあ…やっば…

 日本じゃ彼氏できても二か月でフラれてた私が、いきなり求婚て。

 しかも、超イケメンで。

(あ、でも)

 待って。まだ私、


──夢を叶えてない。


「だめ!今は…まだ。これから普通のお客さんが店にきて、普通に仕事できるようになってからだよ!」

「うむ、そうか…サギリは仕事がしたいのだったな」

「そうだよ。あとはプルーナー王子のタイミングも見てさ。

あのね?全然ダメじゃないよ。私もディーのこと以外、考えられないから!いつか、いつかね!」

「それは受け入れたということでよいのか?」

 私が真っ赤になってうなずくと、ディーはドサンコちゃんの走りを止めた。

 ホバリングしたかっこうになる。

「サギリ、絶対に幸せにする」

「うん」

 私たちは深い深い、キスをした。

 花が舞い、人がはしゃぎ、踊り、そして二つの月の下。

 私は、幸せだ。

 でも、もっともっと、幸せになるんだ。



──パレードが終わって、国の空気は少し変わったようだった。ダンの作った馬車が道を行くようになり、その馬車は街から出ると、速度を上げてみるみる小さくなっていく。

 カーディナルからも馬車がどんどんやってくるようになった。

 プルーナー王子は正体がバレてもやはり「クリス」を名乗り、休日は人々に囲まれている。


 エルドリスとグラインさんはちょっと進展したみたい。あのスマホもどきで連絡をしているうちに、お茶に行くようになったらしい。

 そしてディーはグラインさんを隊長にしたもう一つの近衛隊を作ろうとしている。そちらにポンメルさんを入れるから大丈夫だろうって。そういえばポンメルさんの奥様、子供ができたらしい。

 ダンとペティちゃんはまだまだゆっくりつきあってて、なんと交換日記を始めたそうだ。レトロ!


 そして父さんが残すメモは、難しい言い回しばっかりでさっぱりわかんない。


「…父上の能力はまだよくわからん。しかしあの日から、人に対する記憶が消えなくなったという。もしそれが『力』なら、この先貴族たちや大臣とのやり取りで役立つだろうな」

 私はディーの髪を整えていた。ちょっとトリートメントして、少しカットして。眉もちょっといじらせてもらった。

 はあ…もうサイコー。私の最高の芸術品。

「えへへへへ」

「また変な顔をする」

「だって、ディーはやっぱりかっこいいんだもん」

「まったく…」

 そんなやり取りをしつつ、自然とキスへの流れになったのだが、ドアが開いた。

 年頃の女の子が二人、店の前にいる。

「あの…私たちクリス様のファンで。クリス様の髪型がステキで」

「あっ、近衛隊長もカッコイイ~!」

「私たちの髪、切ってくれますか?」


「いらっしゃいませ!」

 私は精一杯の声を上げた。

 そうだ、カットはいくらにすればいいのかな。何も考えてなかった。

「お茶セット3回分くらいでいいんじゃないの、姉ちゃん」

 上からダンがコーヒーを持ってきた。

 よーし、よし、仕事だ、仕事。頑張るぞ!


 私の夢は、始まったばかりだ!


ここまでお読みいただきありがとうございました!これで一章完結です。

第二章を現在書いてますが、しばらく更新はお休みになります。

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