似た者同士
声を取り戻した王子は、ぽつりぽつりと話した。
「父上はさすがに参ったようだね。あの直後、私にあれこれ尋ねたあたり、何も知らなかったようだ。
責任を取って玉座を降りる、なんて言い出さないといいけど」
事件が少々片付いたのを見計らい、私たちは店に戻った。何しろプルーナー王子の髪があまりにもひどかったから。
あの長髪がよく似合っていたのに、短い部分は耳あたりまで切られてしまっていた。
「俺も、父上に連絡が行き届かないことがあってな」
「お互い、大変だよね」
さて、どうしたもんだろ。シャンプーしてみたけど頭の形はカンペキだし、顔は最上級だからなんでも似合っちゃう。ミディアムでもいいし、いっそパーマでもかけちゃおっかと思ったけど、ちょっとひらめいた。
よし、やっちゃうか。
私はてきぱきとブロッキングを始めた。
「一年前まで…王妃は私にも優しい笑顔を向けてくれた」
ソファでディーが言った。まだ酔いがさめないらしく、うちの冷凍庫から出したアイスノンを額に当てている。
「あの人はただ、一年前まで怒らなかった。それだけだよ。怒らないけど泣きわめいて、周りを困らせていた」
「一年前…ちょうど、俺が近衛の隊長になったあたりだろうか?ポンメル様が僧侶になり、俺が隊をまとめることになってしまった。力を持ったと思われたのだろうか」
そっか。隊長になって半年、私たちが来て半年か。
私は二人の会話には加わらず、ただハサミを動かした。
「それはね、ただのきっかけでしかないよ。母はずっと…リュミエール様をねたんでいたみたいなんだ。しかし父上に知られたら愛想をつかされてしまう。ずっと最近まで我慢していたのかもしれないね。
でもさ、リュミエール様はあのお立場なのに、何も欲しようとしないだろう?人柄がそもそも違ったのさ」
ディーのお母さまはただ王様に貰った宝石を大事にしていた。
パーティーでの王妃はとても優しい感じだったけど、
あの笑顔の下にずっと気持ちを押し込んでいたんだ。
「よし、できましたよ!」
クロスを外す。青い衣装に着替えていた王子は、鏡を見て首を傾げた。「おや?これは」
少し後ろを刈り上げて、サイドもすっきり。でも上のツヤツヤ感はのこして、左側に前髪をおろしている。
「俺と左右対称ではないか」
ディーが後ろに立つ。私はフヒヒと笑った。
「お揃いもいいかな、って思ったの。だって兄弟だし!」
「顔は似てないのに、双子みたいに見えますね」
ダンもイヒヒと笑う。
「うーん。悪くないなあ」王子は前髪をいじる。「私みたいにナヨナヨした顔でも、しまりが出るね」
「兄上が似合いすぎていて、俺が恥ずかしくなってきたぞ」アイスノンの活用法が違う方になったみたい。
「まーまー。ディーはその形がいちばんっていうか、それしか似合わないっていうか」
「まったくほめていないな」
「まーまー。ディーさん、それが姉ちゃんなりのラブですから」
「むっ…」ディーがアイスノンで顔を覆ってしまった。
「なんだあ」王子が椅子から立ち上がる。「二人はもう付き合っていたのか。残念だな、私もサギリを気に入っていたのに」
ええっ?へんな兄弟。
「出会った時から面白い子だなって」顔を近づける。「さっきのアレ、心に効いたよ。力は…あの力はおそらく一日に数回だけ使えるんだろう。私はまた『クリス』として、歌うために使うよ」
「兄上」
「ふふ、私たちは似た者同士みたいだ。でもねえ、私はサギリとダンみたいに楽しくやりたいんだよ。今は恋人よりも家族、兄弟だ。ディー、母上がいない今、アンヴィールは私たちでしっかり仕付けよう」
あの子は王妃のお人形だったわけだ。
兄弟は握手した。「わかった。父上もお支えしていこう。…ん?」
ディーはボディーアーマーのふところからスマホもどきを出した。青く光っている。
「グラインからだ。黒い沼は俺なしでつぶしたらしい。もう隊を分け、あいつに任せてもいいころだな」
おっ、グラインさん出世のチャンス!
おそらくエルドリスにもこの連絡が入っているのだろう。
(まてよ?あのお泊まりの日、エルドリスはこれを作りたかったってことかな)
そっか、私のためでもあったけど、そういうことか。やるじゃん!