表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/119

信じるもの

 私はスタイリングチェアに腰掛け、足をぷらぷらさせた。

 ──私は、美容師です!

 ──髪を切ったり染めたりパーマをかけてお客様をステキにするのが仕事です!

 ──そして、兵士さんの髪も、いじってみたい!

 言いたかったのになー。

 のになー。なー。


 口を尖らす私を見て困り顔をしながら、ダンは兵士たちに問いかけた。

「お二人は僕と姉、見た目が奇妙だと思いますよね」

「いや…まあ…」

「そうだな。お前たちは見たことのない服を着ている」

 言いよどむグラインさんと、しっかり腕を組む隊長さん。

「特に目立つ点は?」

「頭だ」人差し指を自分の頭に向け、そしてダンへ。「お前の頭はなんなんだ。まるで坊主じゃないか」

「失礼な!」私はチェアから立ち上がる。「ボウズじゃないよ!そりゃあ短いけどびみょーな差があるんだよ!」

 ダンの髪形は頭の形を把握しつくしたうえでデザインしてる完璧な作品なのだ。

「姉ちゃん姉ちゃん、ディーズさんが言ってるのは意味が違う」

 弟は私をチェアに座らせる。そして、失礼な相手に振り返る。

「坊主…つまり僧侶のことですよね。日々の生活から離れた人のこと」

 なんだお坊さんか。最初からそう言ってくれればいいのに。

 私の頭の中ではお寺の鐘が鳴っている。ゴーン。

「そうだ」ディーズさんはうなずいた。「この国の者は、髪を断ってはならない」

 そして首をひねる。「だからお前たちの頭が珍しいのだ」


 えっ。


「ちょ、ちょっと待って」椅子から降りて詰め寄る。

「なんで?!そんな長い髪で戦うのは重くないの?」

 隊長さんの瞳を覗き込む。

「大したことはない」ふと、目をそらされた。そして、金属にくるまれた髪の毛に手をやる。「爪と同じく神経は通っていないが、これは俺の体の一部だ」

「でも爪は切るんでしょ?伸ばし続けたら物が持てないし!」

「爪は爪だ」

 なにそれ!

 ダンは私たちのやり取りを見ながら考えていたようだ。

「うーん。それ、宗教ですか?」

 ふあ?

「そうだ。我がメリクール王国には国教がある。国民は戒律を守ることが義務付けられている」

「その中に、長髪の戒律があるんですね」

 えええ?

 ディーズさんはうなずいた。「当然のことだ」

 ちょっと待って。

 つまり、この国では…私は仕事ができないってこと?

「(姉ちゃんここは黙ってて)…で、もしその戒律を破ったら…例えば、事故で髪が切られたらどうなるんですか?」

 隊長さんは目を伏せ、辛そうな様子を見せた。

「この国を追放されるか、僧侶になり寺院で思索にふけるしかない」

 そんな。

 そんなあ。


 私、なんでこの世界に来ちゃったの…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ