声のちから
とはいえ、この鉄格子はあまりにも邪魔だ。
「う~、一回、一房だけ切ればいいよね?カンペキにするのは後でいいよね…」
もやもやしてると、王子がつぶやく。
「私は…もう祈りを捧げるだけの人生でいいと思ったのに」
「ちがうよ。それは国を、王子の信じる考えを王子が投げ捨ててるようなものだよ。王子は何がしたかった? お金を何に使いたかった? 師匠さんみたいになりたいんじゃないの?」
王子は私をじっと見た。
私も見つめ返す。
お願い、自分を捨てないで。
「もう、サギリはこれだから」王子は笑った。そして、頭を鉄格子に寄せる。「これで、神の力が宿るんだね?」
「けっこう、力はガチャなんですけどね」
すべすべの金髪。長い部分を一束だけ。
私は思いを込めて、切った。
兵士がすんなりと牢屋を開けた。彼の目はうつろだ。
「ありがとう。王妃たちに問われたら、私が開けたといいなさい」
「は…い…」
兵士は頭を下げた。
えらい力が王子に宿ったようだ。
彼はのどに手を当てた。「まさかと思ったが…」
「まさしく、王の力だよ!」地下から三人で走り出る。
「これはよくない力だね」眉を曲げる。「もし私が間違った命令をしたらと思うと」
「そう思ってるなら大丈夫ですよ。姉ちゃんが言ってた」
ここ、どこなんだろう。一応城の一階なんだろうけど、私が知ってるエリアとはずいぶん違う。
石が、なんとなく青い。
「ここは、母上と私たちの住まいだ」王子は言った。
「後宮ってやつですか?」
「そう。だからここでは、母上の言うことがすべて」
黒いヨロイが、私たちに気づいてやってきた。「王子!そして魔女だと?逃がすな!」
後ろからもやってくる。挟み撃ちだ。
「そこを開けろ!」
王子の「声」に前のヨロイたちが止まり、道を開いた。
「後ろの兵士を、とらえておけ」
やがて、ヨロイたちの同士討ちが始まった。もみ合い、殴り合い、叩き合い…しばらくすると、みんなで倒れてしまう。
「実によくない力だ」後ろを振り返りながら、私たちは走った。
「それよりも、父上に伝えられたら…」
王子は立ち止まり、見まわした。小さな窓があって、外には緑が生い茂っている。
つまみを回して窓ガラスを開け、言った。
「誰でもいい、父に私たちの身の危険を知らせてくれ」
ざわっ、と音がした。そこにいた鳥たちが一斉に飛び立ったみたい。
「すごい、鳥にも伝わったのかな?」
「果たして、父上にわかるだろうか…」
そして何度かヨロイや文官などに出会うが、彼の「声」で動かなくしていく。
こちらは戦闘する力など全くないから、ありがたいのだけれど。
息切れして、足がもつれる。ダンが引っ張ってくれた。
長い長い廊下だった。庭に出る。「あそこからが、父上たちのいる領域だ」
ああ、見覚えのある石の色だ。
「王様に言えば、何とかなるよね?」
「だといいが…」
王子が急にせき込んだ。そして、声が出なくなった。
≪この力は限りがあるようだ。なによりだな≫
口の動きで何とかわかるが…いや、ちょっと待って。これはまずいよ。
「王子たちを逃がすな!」
王のエリア前に、黒いヨロイが先回りしていた。
こちらのパワーはゼロ。万事休す。