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竜のごとく、そして電撃のごとく

 一言でいうと、ドラゴンみたいだった。


 全身を覆う、光によって色が変わる緑のヨロイ。鱗のような模様が入っている。

 大きな男だった。

「街のものから話は聞いていた。まさしく奇妙な風体だな。どこの国の者だ」

 体が大きいと、声も低くなるのだろうか。そして、よく通る。

 見下ろされて、こちらを凍り付かせる。私たちは身を寄せ合った。

 なんて答えればいいんだろう。日本、と言ってわかるわけがない。

「答えられないのか?異国の者であれば通行証が必要だ。密入国者か」

 それはこっちでも犯罪だ!

「姉ちゃん…俺最期はステーキが食べたい…」

「あるのかな、ステーキ…」

「何をブツブツと。私の問いに答えろ!」

 男は剣を抜いた。でかい。やたらに幅が広い…ような気がする。

「お前たちの行動如何だ。場合によってはここで」

 剣の切っ先が目の前だ。細かい傷、何を斬ってきたんだろう。

 じりじりと近づいてくる。


 マジで…人生詰んだよ、これは。

 でも。

 私は弟を抱え込んだ。

「何をしている」

「やんなら、私だけにして。私はバカだけど、弟は頭がいいの。きっとこの世界でやっていける。どこから来たのか説明できないし、たぶんわかってもらえないから殺されても文句は言えないよ。

でもお願い。この子は助けて!」

 ダンは私と違う。小さい時から体育以外オール5、うちが貧乏なのを気にして給費制度のある大学に受かったすごい子なんだ。ちょっと頼りないけど、自慢の弟。

「姉ちゃん…」

 男は、兜の奥から私をにらんだ。

 私もにらみ返す。

 目をそらしたら、終わる。


 すると、周りの空気が変わったような気がした。

 ザワザワという音の、濁点が少しずつ消えていった。

 人々は、私ではなく兵士の男を見た。

「ふむ」

 彼は剣を収めた。「わかった。とりあえずお前たちの住処に案内しろ。話はそれからだ」

 私は力が抜けてダンに寄り掛かった。

 やっば。一生分の勇気使った気がする。



 彼はもう一人、部下らしき兵士と馬を連れて私たちの店についてきた。

 ちなみにその人が部下っぽいのはヨロイが簡素だったからだ。

「石造りではないな。どういう構造だろう…木造にも見えんし」

 いや、私も業者さん任せだから何でできてるのか正直わかってないです。一応もともとは木造かな?

 ガラスのドアを開けて二人を入れるとまた驚かれた。

 まず電灯。それはそうだ。彼らにしてみればけったいな形のイスも、シャンプー台もわけがわからないだろう。

 ダンと二人で待合用の長ソファーを動かし、二人を座らせる。

 一応、コーヒーでも入れるか。

 電気ケトルのスイッチを入れて湯をわかし、フィルター型のインスタントコーヒーを入れる。5分くらい2階にいたんだけど、トレイにコーヒーを乗せて店に降りたら、雑誌に興味を示している。

 写真を見たことがないみたい。

 少々浮ついた空気を、ドラゴンの男が咳払いして整える。私は二人にコーヒーを出した。

 そして。

 私はとんでもないものを見た。

「まずこちらから名乗るべきだな。私はディーズ・マティック。メリクール王国近衛隊隊長だ」

 彼らは挨拶などの前に顔を見せるのだろうか。おもむろに兜を外した。

 

 おそろしく、イケメンだった。


 私の体に電撃が走った。持ってたトレイを落っことすほどだ。

(姉ちゃん、スイッチきた?)

 ダンの小さな声が聞こえる。そう…そうなんだよ。何がどうイケメンて、

 切れ長の目で眉もキリっとしててパーツがバランスよくて、

 鼻も高くてまっすぐで、輪郭もシュッとしてるんだよ!

 瞳の色は濃い緑。多すぎず少なすぎないまつ毛。

 「男前」というべきなのかな、古いタイプの男らしさも備わっている。

 しかし、彼もやはり長髪だ。黒髪を高いところでひっつめて、金具で毛先ほとんどを覆っていた。


──もったいない!


 私だったら、私だったら…こう…もっと…!

「何をブツブツ言っているのだ?」

「すいません、姉ちゃ…姉はちょっとヘンで」

 そうだ、今はそんな場合じゃない。生死が関わっているのだ。冷静にならないと。

 もう一人の兵士も同じく長髪だが、彼は赤毛だった。グラインというらしい。こちらもなかなかイケメンだ。

「じゃ…じゃあ、こっちも紹介するね。私はサギリ。こっちは弟のダン。二人で暮らしてるの」

 私はコーヒーを勧めた。お客さん用のマグに手をかける二人。

「ん?」

「これ、おいしいですね!」

 砂糖もミルクも入れておいたけど、反応は上々。特にグラインさんが大変気に入ったようだ。

「そういう飲み物は…この国にありますか?」

 私がおそるおそる問うと、ディーズさんは首を振った。

「カーディナルに似たようなものがあると聞くが…いや、そもそも香りがこの世のものとは思えん」

 いや~、伏した目もイケメンだ~…

 さっきこの人に殺されかけてんのに手のひら返しもいいとこだよ。

 と、そんな私の肩をダンがたたいた。代わってくれるらしい。

 そうだよね。こんな姉ではダメだよね。

 ダンは私が仕事で使うスツールに腰かけた。

「俺…僕らの国ではそれが当たり前のように飲まれています。信じられないかもしれませんが…僕たちはニホンという国から来ました」

「ニホン?」「聞いたことないですね」

 二人は顔を見合わせる。

「単に遠い場所なのか、まったく違う世界なのかわかりません。数日前、僕と姉はここにきてしまったんです。住んでいたこの建物ごと」

「建物?何を言っているんだ」

 ダンが立ち上がった。「僕たちだって全くわからないんです。例えば」

 シャンプー台のレバーを回す。お湯があふれる。二人は駆け寄った。

「湯?!水ではなく、湯だと?その取っ手は?」

「僕たちの世界ではこうしてお湯を出します。建物が移動したにもかかわらず、変わらないままです。

こちらの国にも上水道があると思いますが、つながっていなければ飲み水は流れてきませんよね。この建物と上水道はつながっていないと思われます。僕にも全く仕組みがわかりません」

 ディーズさんはよくわからない形をした陶器を見回す。

「…つまり、お前たちは意図せずここに来て困惑していると」

「ええ。町の人が僕らを怖がるように。石を投げる子もいました。正直、参っています。

見たことないものは恐ろしいと思うんですけど、僕らは全く戦う力がない。見ればわかると思うんですが、体が戦うようにできていないでしょう?」

 ダンが手を広げる。

「魔法を使う可能性は捨てきれない」

「それは、確かめる方法があるのでしょうか。調べても魔力はないと思います。調べてください」

 さすがはダンだ。このわけのわからん話を丁寧に説明してくれちゃって。

 ディーズさんは腕を組み、店内のあちこちを見た。暖かい色の床、白い壁。

「美しい部屋だ。困っている人間を、放っておく道理はないな」

 グラインさんもうなずいた。

「わかった。では後日、魔術師を連れてこよう」

「ありがとうございます」

 二人はソファへ戻ってきた。「しかし不思議な椅子と…あの、湯が出る器は何だ。仕事で使うのか」

「あれはっ」

 身を乗り出した私を、ダンがすっと手で制した。

「ここは姉の仕事場なんですけど…まず先に、お二人に聞きたいことがあります」

 ようやく、ようやく私の仕事について言えると思ったのに~!


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