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お仕事と、ドッキリと

 そして私に、仕事が舞い込んできたのだ。

「サギリ様、初めましてっ!」

 近衛隊が7人。店に入るなり右手に手をあてる。

「よろしく、お願いします!」

 みな、ダンが考えたボディーアーマーを身につけている。その下に着込んでいるのがガラスとセラミックを合わせた糸で編んだ鎖かたびら?らしいのだが、普通のハイネックにしか見えない。

 すごいなーと思いつつ、そのハイネックは折れるのかな?と思ってしまった。

 ディーとグラインさんが後から入ってくる。「彼らが遠征部隊だ。ポンメル様も加えて黄の籠へ行くことになった」

 そして彼らを紹介する。「左から…ホロワ、フラット、スカンジ、コンベックス。リカッソにチゼル、そしてペティだ」

 うーん…名前をズラズラ言われても覚えらんないな。それよりは一対一でお話ししていかなきゃ。

 ただ、一人に二時間はかけたいから二日に分けようと話を付けた。

 んん?

 あれ?そういえば女の子がひとりいるぞ?



 プルーナー第一王子が王様に申し出たのだ。

 近衛隊を黒の沼ではなく黄の籠へ進め、カーディナルへの道を開くようにと。

 その道は険しいと王様は難色を示したそうだが、王子は兵力強化を進言。

 ディーたちの力を見ている王は兵士の断髪を認めた。

 僧正衆たちを抑えるのは大変だったみたい。でも王様の力は絶対なのだ。

(えらい味方をつけちゃったなあ…)

 兵士さんをシャンプーしながら、でもワクワクが止まらなかった。みんな油をギトギトにつけてたけどもう慣れたし苦にはならない。

 ああ、仕事ができる!!

 なんて幸せだろう!


 最初はホロワさん。弓矢の使い手。髪の色は薄い茶色、穏やかな顔立ちをしている。

 頭の形は問題ないし、素直な髪質なのでミディアムくらいがいいかな?

 一番最初だったので、すごく緊張してた。鏡を前に、震えてた。

 うん。私も緊張してきた。期待に応えないと。ハサミを両手に握って、祈る。

 そして、何も手を加えられていない髪。そういえば今までの3人は違ったんだよな…

「では、いきます。ぜったい、かっこよくしますんで!」

 ドキドキしながらハサミを入れる。床にするすると、髪の毛が弧を描いて落ちた。


 ずーっと手鏡が手放せないホロワさん。見慣れない自分の姿をいろんな角度で見たり、初めての前髪を指でいじっている。

 つぎのフラットさんはガツガツにかたい黒髪。ディーよりずっとかたい。これはもうベリーショートにするのがいいよね。若くてやんちゃな顔をしているし。

 この重たい感じ、ガラッと変えてあげましょう。

(そうだ、ちょっと待てよ)

 私は切り落とすだけの髪をいくつか分けてゴムでくくった。そして結び目の上を切ってワゴンとは別の台に乗せていく。

 生まれてから切ってない髪を捨てるだけなのはもったいないような気がしてきた。何かに使えるのではないかな。うちの世界では病気で髪が抜けてしまった人のための「ヘアドネーション」というものがあるけど。

 ただ、全部保管するのは大変かなあ。

 で、フラットさんはみごとにバッサリいかせてもらった。サイドも後ろもラフめに刈り上げ、上もかなり短く、サラッとした感じにカットして、軽さを出した。

「うおっ、カッコイイ! 隊長に近づけた気がします!」

 あ、カッコイイって言ってくれた人初めてだ。うれしいな!

 この人も剣の使い手だそうだ。


 三番目はスカンジさん。彫りが深く「南欧系」のイケメンさんである。髪色は赤め、クセというよりはパーマがかっている。

 これは生かすしかないでしょ。

 下はタイトにカットして、あとはパーマっぽさを生かして量を減らす。

 そして、スプレー缶を逆さにして泡を出す。

「えーと。これはムースなんですけど、このくらい出して両手でもみこんで下さい。そうするとクセがよく出るんです」

「ほう…私はこの髪の手入れが大変で嫌で仕方なかった。なのにこの程度でまとまるなんて。あなたは本当に神の手なのですね」

 スカンジさんはディーとポンメルさんの間くらいの年らしい。しなやかな動きと丁寧な言葉。大人だ~。

 両利きで二刀流だそうだ。すごいな。



「はあああ~3人いっぺんは久しぶりで疲れた」

 二階のおふろで久しぶりに入浴剤を入れて長くバスタイム。

 みんなイケメンさんだったなあ。和風、洋風、いろんな人がいる。戦っているから自他ともに厳しいんだろうし、それが顔に出るんだろう。

 仕事できるのがたまらないし、

 みんなどんどんステキになっちゃう(私の好み)のが、

 ほんとに…最高…

「姉ちゃん早く出ろよ。こっちは今日、工房で粉まみれになっちゃったんだよ」

「わかったわかった。ちゃんと洗うんだよ」

 タオルを巻いてダンと入れ違いになる。ダンは明日も忙しいらしい。

 牛乳一気飲みしたくなって冷蔵庫から牛乳パックを出した。

「おいサギリ、いるか?」

 またディーが階段の途中にいる。

 私…わたしは…タオル一枚…

「ああああ!」

「うわあああ!」

 私は牛乳をぶちまけたし、ディーは階段を駆け下りたものの一段踏み外したらしく大きな音を立てた。

 急いで下着とパジャマをつけて牛乳を拭き、髪にタオルを巻いて降りる…。

(階段には仕切りが必要だなこれは)

 ディーはソファでうずくまっている。

「ごめん…ダンはおふろ入ってたし、油断してた…」

「女性があんな姿でうろつくもんじゃない。体を冷やすぞ」

 向こうは顔を手のひらで覆ったままだ。

「おや?ディー様はああいうのは初めてだったかな?」

「当たり前だ…」

 彼女、いなかったのかな? 友達もいなかったっぽいしなあ。

 それにしてもいい襟足である。やはり彼が私の最高傑作。

「ごめん、冗談だよ。それで、何か伝えに来たんでしょ?」

「そんな姿で横に座るな」

「これはパジャマだってば」

「寝巻には違いないだろう。あのな…その…わからないなら、いい」

 へんなの。

「伝えに来たのは三人の力についてだ」

 ディーはこちらを見ずにとつとつとしゃべった。

 ホロワさんの矢は砲弾のように落ちると爆発した。

 フラットさんの剣には炎が宿った。

 スカンジさんが剣をクロスしてふるうと、凍るような風が起こったらしい。

「すごい!みんな力がついてよかった~」

「本当にお前は神の手だ」

 手だけを見た。王子のように、触ったりしない。

「私は仕事ができて何よりだったよ! 一番大変だったのはフラットさんかな。でも一番喜んでくれたんだ!」

 あはは、と笑う。

 私はこれでいいんだもの。

 ディーはやっぱり、窓のほうを見ていた。

「サギリは仕事をしていないと生きられないのか」

「それはディーも同じじゃん」

「似た者同士か」

 私たちは笑い合った。が、ディーはすぐに向こうを向いた。

「そ…そうだ。明日なんだが…見ての通り、わが隊には女性がいる」

「うん、びっくりした。女の人も兵士になるんだね」

「お前の世界では違うのか」

「いるにはいるけど、圧倒的に少ないんじゃないかな」

 この国、男女に関してはあまり仕事の差がないみたい。

 馬に乗って巡回してる女性、結構いるなとは思ってたんだけど。

「ペティは近衛で最も若いが、かなりの腕だ。そして今回ここに来ることを志願してきたのだが…サギリ、ペティにはどうするのだ?俺たちみたいに切るのか?サギリはそんなに短くないから」

 ああ、と私はタオルをほどいてワゴンのくしで形を整えた。少々伸びてしまって、切ってくれる人のいないアシンメトリーボブ。

「それは、明日頭を触ってみないと何とも言えないな。ただ、ちょっと考えたいよね。こっちにきて女の子をカットするの初めてだから。ワクワクするな」

「ペティは前からサギリの髪型に驚いて憧れていたそうだ」

「えっ?! えー、そうなの? これは個性的すぎるからオススメしないけどなあ」

 意外なことを聞いて浮かれてしまう。

「いや…俺も、似合っていると思うが」

「えーほんと?でも髪の毛短い女性、私しかいないのに比べようがないでしょ」

「あのな…サギリ…なんでお前はそう…」

 ん?

「自分に対して、評価を下げようとするんだ」

「え?」

 何言ってるんだろ。

 ディーは立ち上がった。「とりあえず報告は以上だ。明日、また四人を任せる。よろしくな」

 そして結局、かなりこちらを見ずに出て行ってしまった。

 さっきっから変だったな…と思って階段を上がりかけ、ボタンが途中までしか止まっていないことに気づいた。

 ああ、そういう意味だったのか。こんなちっさな胸を気にしてくれてありがとう…。



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