無謀ということ
翌日、ディーはグラインさんと一緒に店へやってきた。
そして、刺繍の施された袋を私にくれた。ずっしりしているので何事?と思って開く。細かく印刷された紙の束と、いくらかの金属板。
「これ…もしかしてお金?」
「そうだ。今回の遠征が成功し、国王にサギリの力をお伝えした。お前に対する褒賞金だ」
「すご、金貨とか入ってる。これいくらくらいなんですか」
ダンが尋ねる。ディーはさらっと答えた。
「近衛隊員一人分の給料だな」
「大金じゃん! これで外でケーキ食べられる!」
私がはしゃぐと、ディーが笑った。「ケーキか。欲がないな」
「あはは。だって今までごはんには困ってなかったから」
毎日毎日豚肉だったけどね。これからは、この世界のものが食べられるぞー!
ステーキとかあるかなーと考えていると、ダンが質問していた。
「ディーさん、しばらくはこの街にいるんですか?」
「ああ」うなずいた。「次の遠征も考えてはいるが…遠征には準備と金が必要だ。間隔をあけないと。部下の休息もいる」
命がけだものね。
「今回は…誰も…何もなかったんだよね?」
あの時望遠鏡でみたことは伝えてないけど。
「そうだ。サギリ、お前のおかげだ」
任務が果たせたこと、それが百点満点だったこと。
めいっぱいの笑顔だった。
やっぱりディーの笑った顔、スキだな。
一方その後ろでとてもカタい顔をしている人がいる。
「グラインさん? グラインさんも副隊長だから一緒に行ったんですよね? お疲れ様です!」
赤毛のイケメンさんは、うつむいたままだ。
「実は…グラインを連れてきたのは…どうしてもといってきかなくてだな」
ディーが彼を見やる。少し鈍い青の鎧が震えた。
「あの…サギリ様」
「様?!」
自分を指さす。とんでもない、あたしゃ一般人だよ。
「お願いがあります! 俺の…私の髪を切ってくださいませんか?!」
「ほえっ?!」
「…私は遠征で痛感したのです。隊長もポンメル様もすごい力をお持ちで。正直お二人だけで戦っていると思いました。
では私は?今のままでは二人をお支えできない。ただの荷物になってしまう」
「グライン、先ほども言ったはずだ。お前はよくやっている」
「しかし! 俺は副隊長であります。なのにグドもレギドも何も…何も倒すことができず背を向けて逃げるだけで…」
すごく深刻な顔になっている。
そうだよなあ…ディーとポンメルさんのチート? を見たら焦るよ。
「でもさ、ディーとポンメルさんはうまくいったけど、私の力ってまだよくわかんないよ? もし何もなかったら、グラインさんはお寺に行くことになっちゃうかも」
「だそうだ。その覚悟はあるのか。俺とポンメル様はまず髪を失った。お前は自分から、髪を捨てると言っているのだぞ。お前は子爵の生まれだし、その地位も」
「かまいません!」
そして彼はとんでもないことをした。
隠し持っていたらしきナイフをプレートの間に当てて、ざっくりと髪を切ってしまったのだ。
「このグライン、何もできないのなら生きる意味はありません。俺には兄がいて、兄には子供がおります。俺は、隊長のお役に立ちたいのです!」
みな、あっけにとられてしまった。彼は本気だ。
私が、本気にさせてしまったのだ。