表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/119

受け皿

 あっ、これはインスタ映えするやつだ。

 石造りの外観だったのに、店内は木造アンティーク調。柱も天井も細かい彫刻がしてあって、メルヘン!という感じだった。

「なんでも頼んでいいよ。ケーキもある」

 それは僕のポケットマネーだから、と片目をつぶった。

 この人、誰にでもこんな感じなのかな。

 私はお言葉に甘えてお茶とケーキ。ダンはクッキー。

 クリスさんはお茶だけだった。

「わー。たしかにこの匂いは紅茶に似てる」

「私のはハーブティーかな。ケーキも甘くっておいしい!」

 異世界にきて初めてのお菓子かも。

 以前ディーの詰め所でサンドイッチをもらった時以来だ。

 この事をディーに話したらなんていうかなあ。

 あんまり迂闊に人とかかわるな!とか言われるのだろうか。

「どうしたの?」

 そんな表情を読み取ったようだ。美しい人が美しく頬杖をつく。

 すごい。窓からの光で金髪も衣装もキラキラしてる。

「あの…私たちまだこの国に来たてだから、近衛隊隊長に守られている立場でして」

「あの隊長さんかあ」ニコッとする。「遠征の列を見たよ。そういえば髪を失ったのに僧侶にならなかったとか。

まあ…あの寺院にいてもいいことはないだろうけどね」

 青い瞳がかげった。

「お金のこととか言ってましたけど」

「そーなんだよねえ。僕が稼いでいるのはちゃんと寺院にお金がゆきわたらないからさ。建物や庭はどんどん増えるのに祈る人たちの生活がままならない」

 どこの国も同じだな。

「僧侶たちはもちろん質素な生活をしなければならない。だけど最近質素の度を越えていてね。祈る人がのたれ死んだらどうなっちゃうのさ」

 クリスさんはカップをあおり、給仕さんに差し出した。「おかわり」

 私はこの国の宗教に抵抗がある。

 私の仕事と真っ向対立してるからだ。

 この国の人は一度髪を失ってしまうとチャンスがない。

 でもこの人は、その受け皿を守ろうとしている。

 そもそもの受け皿に欠けがあるから。

「上の人たちが何とかしてくれないの?」

「本当はそうあってほしいけど、僕にできることはこれくらいさ。僕はただの噺手だからね」

 二杯目が出され、細い指が取っ手にかかる。

「国の教えは、ままならぬことを受け入れること…手を尽くしたら、あとは祈ること」

 私とダンはじっと彼を見てしまった。とても深刻な顔をしていたからだ。彼は慌てて手を振った。

「やだなあ! ちょっと真面目なこと言っちゃったね。ゴメンね? 僕はさあ、イロイロあってさ。ほんと、教えに救われたとこあるんだ。だから、恩返ししているだけなんだよ」

 そしてすかさず、ぴっとこちらに視線を合わせた。

「それよりさ。君ら異国から来たんだろ?見たことない服、見たことない恰好をしている。すごいや」

 前のめりになる。

「いろんな物語を知っているんだろ? 聞かせてくれたらうれしいな。参考にして噺づくりに役立てたいんだ」

 私はダンを見た。「それならダンのほうが詳しいかな?」

「いやー、俺は文系ニガテだからなー…」

 うちのリビングには漫画しかないし。ギャグ漫画ばっかりだし。

 しかししばらく考えた後ダンは切り出した。

「ちょっと時間をください。思い当たることがあるんです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ