二つの月
──あれから、何日経ったんだろう。
私は店の窓から、雲一つない空を見ていた。
とてもとても、空は高い。かといって冬の空とはまた違うみたい。
なにしろ、「ここ」は寒くない。
朝は突然というくらいポン!と太陽がのぼり、
夜もササッとふけていく。
そして月はどう見ても…2つある。
双子のように全く同じ大きさの、白くうすく光る月だ。
「姉ちゃん…ここ、どこなんだろうな」
弟のダンも同じように空を見上げていた。
死後の世界って、こんなんだったかな?
窓の外を走る車はない。アスファルトで舗装された道路もない。
あるのは石畳。その上を馬が走り、私たちとは明らかに違う服を着た人たちが歩いてる。
目が合えば、ビクッとして逃げていく。
「これ、『異世界』じゃないのかな」
ダンはゲーム機を見せた。画面の中には鎧の男性やドレスの女性。
「あーね。マジそれっぽいわ」
私はチェアに座ってぐるぐる回った。「イミわかんないし!こんな場所でヘアサロンやってどうすんだっつの!」
「だよな。だってここの人たち、必要なさそうだし」
石造りの街並みにそぐわない店の外観。珍しすぎるこの建物をのぞき込んではボソボソ話し合う人、目を背けて走っていく人。
この人たちには共通の外見的特徴がある。
とても、髪が長い。
生まれてから一度も切ったことないんじゃないかな。女性は後ろで編んでぐるぐるお団子にしているし(でかい)、男性も三つ編みが地面につかないよう2~3回折ってまとめている。
兵士…?みたいな人もいるけど、この人たちは特にすごい。
大きな兜に髪の毛を入れている上、収まらない髪に金属のプレートを巻いているのだ。
「俺ら…ぜったいヤバい人だと思われてるよな」
ダンの茶色の髪は私がいつも短くととのえているし、私は現在アシンメトリーボブだ。
しかも、ピンクのメッシュが入っている。
「もしかして、魔物的な何かと思われてる?」
「姉ちゃん、ゲームの中ボスっぽいよね」
私はダンの首をしめ上げた。そりゃ、今日は黒っぽいシャツに穴あきジーンズだけども!
そして、壁やドアがコツコツと音を立てた。
ノックではない。子供たちが石を投げているのだ。
「コラァァー!!クソガキ!石を投げるな!親に教わったでしょ!」
私はドアを開け、逃げてく子供たちに怒鳴った。「ふざけんなよ…もう…」
ふーっとため息をついて、そのまま膝をつく。
「異世界の人にかけた第一声がそれかよ。ウケる」
170センチない細身の弟が肩をたたいた。
こんな世界で、一人じゃなかったのだけは救いだ。
(でも、大学に上がって研究者になるつもりだった弟の夢も潰れたんだよなあ…)