あなたも私もワーカホリック
ポンメルさんはすぐに城へ戻った。王様がその力を認め、近衛隊の復帰が決まったそうだ。
「今頃、ご家族と再会してるんだろうなあ…娘さんとか泣いてるんじゃないかなあ」
私たちは自宅に戻り、いつも通りの夕食を囲む。ご飯に味噌汁、生姜焼きにキャベツだ。
「あの人はいいお父さんそうだもんね…」
毎日毎日生姜焼きかポークソテー…しんみりする。
「な? 姉ちゃんの力、マジだったろ?」
「でもさ、『チート』をさっきスマホで調べたけど『ズル』って意味だったよ?」
「そりゃズルだよ。ディーさんやポンメルさんの力、あんなの人外だよ。でもその力があれば国が守れるんじゃん」
「ダン、あんた箸で人を指すのやめなさいよ。お母さんに言われたでしょ」
「へいへい。でもさ、これで姉ちゃん仕事できるんじゃないの? よかったじゃん」
ダンは夕食をたいらげ、食器を流しへもっていった。
そっか。
私、もう二人分、仕事したんだ。
手のひらを見つめる。
「お客、来てくれるかなあ?」
「もう少し時間はかかるかもだけどな」食器を洗いながら鼻歌。
だよねえ。国の生活に根付いた宗教はカベだもんね。
「サギリ、ダン…いるか?」
ディーが階段を途中まで上がってきていた。
「うわっ、ごめん、気づかなかった!」
せっかくだからリビングに入ってほしかったのに、やっぱり断られる。
私が店に降りる。灯りを付けた。
ディーは床を指さした。「今夜もこの店が狙われるかもしれん。ここで寝ていいか?」
「だったら布団用意するから、ソファで寝るのはやめてほしいんだけど」
「いや、それは申し訳ない」
「困るのはこっちです。ソファはこの店のお客様が座るものなの。ディーみたいにでかい人が毎日寝たら壊れるんだよ!」
「なんだ、その理屈は」
ふくれた。子供みたい。
王様の言葉を思い出す。
この人、部下には慕われてるけど友達はいなかったんだろうな。親の事情がフクザツだから周りも近寄りがたかったかもしれない。性格がカタいし。
異世界から来た私とダンは違うから、
──「めずらしい」から、本音が出せるのかもしれない。
「しかし、今夜だけだ。明日からは外に出てこちらから駆除を始めることにした。数日間近辺を回り、この街に入らぬようするつもりだ」
「そっかぁ。ディーとポンメルさんがいればイケるかもね!」
すごいな。力を得たとたんに行動を切り替えてる。この人もよほどワーカホリックなんだろうな。私と同じ。
──でも、しばらく会えないんだ。
「どうした?」
ディーが顔を覗き込んできた。突然のイケメンは心臓に悪い。
「い、いやあ、なんでもないって、うん。
そうだ!私たちも今日は下で寝るよ。夜更かししちゃおう!」
そして店の床にみっつの布団を敷いて、ルームランプ一つを中心におしゃべりしまくった。
この街のこと、店の種類のこと。ダンは大学のことをしきりに聞きたがったが、私はわけが分からなくて眠くなる。
でも日本のことになるとガンガンしゃべった。クルマのこと、カラオケのこと、テーマパークのこと…
どこまでしゃべったのか、いつから寝入ってしまったのかわからない。
気が付いたら朝日が差し込んでいた。
そしてディーは部下を連れて王都を出て行った。
近衛兵たちは意気揚々と、私たちに手を振ってくれた。
ベランダからも見えなくなって、なんだかしゅんとしてしまった。