初披露
グラインさんを先頭に、華やかだったエリアを離れて武骨な感じの廊下に出た。
だんだんと、掛け声などが聞こえてくる。
吹き抜けの広場に出た。砂利が敷き詰められており、そこに鉄の棒が何本か立っている。人のような形もあれば、昨日の犬の形もある。兵士が並び、順番にそれに向かって剣を振り回している。
「日本だとああいう練習台は木でできてるのに。頑丈だな」
ああ、時代劇とかでスパッとやるやつか。そういえば兵士は棒に対して必ず二回切りかかり次の兵士と交代する。
練習台はびくともしない。
「一回では魔物は倒せない。胴をたたき、もう一度。その癖を体に叩き込むのだ」
「本当に、本っ当に大変なんだね…」
「『グド』ならそれでいいのだが、『クネイル』が現れると十人がかりだ」
兵士たちがどよめいた。練習場に隊長が入ってきたからだ。いつも通り、だけど一つだけ変わってしまったものがあり、みんなひざまずいた。泣く人もいる。
「私たちが城へ戻ったばかりに」
「隊長は一人で巡回なさったのですか…」
「なんてことだ、たった半年で」
動揺している彼らの口をふさいだのは凛とした声だった。
「我々は近衛だ。王を守る身が泣くな。私のためではなく、王のためにとっておけ」
兵士たちは立ち上がった。
「そして、これから命を下す。私は僧侶になるつもりはない。この場に、城にいるものをできるだけ集めてくれ」
意外な言葉に顔を上げ、兵士たちは右手を胸にあてた。
「私を隊長と思えなければそれでいい。副長のグラインに従え」
「えっ?! いえ、私は隊長に従います!」
近衛兵たちは速やかに散らばった。
「すげえなあ。日本じゃこうはいかないよ。隊長がいかに人望があるかってことだな」
ダンは自衛隊に入った友達の話をした。
休日はパチンコと競馬だそうだ。
しばらくすると、練習場にいろいろな人が集まってきた。
ヨロイの人、エプロンの人、長い帽子をかぶっている人…吹き抜けだから上の階から顔を出している人もいる。
隊長は途中から何人かに声をかけ、練習台をこれでもかと並べさせた。
「隊長の命だけれど、いったいこれだけの台を何に使うんだろう」
「この練習台が本物だったら、俺たちはオダブツだ」
近衛兵が困惑しつつ練習台を運び、一方で別の兵士は練習台のある方向に人を立ち入らせないようにしていた。
一階から上まで、人がだいたい集まった頃だろうか。
「お仕事の中、お集まりいただき誠に感謝します!」
隊長は声を張り上げた。人々が一斉に、彼へ目を向ける。
右手を胸にあて、軽く頭を下げる。
「近衛隊隊長、ディーズ・マティックでございます。本日は私の剣技を見ていただきたい」
右手を胸に当てるのは、この国のあいさつなのかな。私も仕事の時よくやるんだけど。
「剣技?でも隊長の頭が」「職を辞する前のデモンストレーションか?」
ざわめきの内容はさっきとだいたい同じだ。髪がヘンとかいう人もいる。
ふんだ、今にわからせてやるもんね。
砂利の音。ディーズさんはゾロリと並んだ練習台から十数メートル離れて立ち止まった。台に向き合い、鞘から剣を抜く。
まばゆく光る剣。どよめく観客。
「今から起きること、よく目に焼き付けるようお願い申し上げる!」
皆が言葉を飲み込み、静かになった。平気なのは私とダンだけだ。
昨日のように剣を横に構える。
勢いをつけて、真一文字に空を斬った。
それから起こったことは、説明するまでもない。
バラバラの鉄くずになってしまったいくつもの練習台。そして、その向こうの壁がボロボロになっている。
人を入らせなくて正解だった。
嵐のようなものの名残りが、砂利を少々巻き上げている。
成功を見届けた隊長は剣をおさめ、そしてまた右手を胸に当てて頭を下げる。
「ご覧いただき、誠に感謝いたします」
ハンカチを口に当てる女性、砂ぼこりで目をこする人、いろんな反応があった。しかし、しばらくすると歓声になる。
「素晴らしい!」「なんなんだその力は!百人力ではないか!」「その力で魔物を駆逐できるのね?」
だけど、その中でとりわけ大きい声が上がる。
「ディー! お前…いつ戻った!」
三階だ。窓から身を乗り出す初老の男性。白髪交じりだけど…あれは、頭の上に乗っているのは。
しばらくしてその人は彼のもとにやってきた。何人もの従者を連れて。