表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/119

お城に行こう!

 その朝、私はちょっと早く起きて店へ降りた。

 待合用の長ソファで眠る兵士様を覗きに来たのである。2階には客用の布団があるし、そこで寝てくれと言ったのにガンとして受け入れなかったのだ。

 毛布にくるまる、大きな身体。ダンより頭一つ高いから、軽く180はあるのだろう。足がソファからはみ出ている。

 クッションを枕がわりに眠る隊長様は、実に無防備だ。

「エッヘッヘ、なんだその顔は。イケメンにもほどがある」

 ちょいちょいと精悍な頬をつつくと、もにゃもにゃ言いながらうつぶせになる。

 すっきりした襟足があらわになる。

「はー…私天才…この襟足超芸術品…」

 まだ意識がはっきりしていなさそうなのを確かめて、触る。

 じょりじょり、しょりしょり。さわさわ…

「たまんない…はァ~…幸せ…」

「何が幸せなのだ?」

「ふあっ!」

 私は自分でも信じられない力で飛びのいた。床に転がる。

 ディーズさんはさっさと立ち上がっていた。

「いつから起きてました?」

「頬をつつかれた時だ。あとは様子を見ていた」

 気配を感じれば目が覚めるそうだ。兵士としての心得らしい。

「えーと、朝食ができたからお呼びしようと…」

 目が泳ぐ。ひたすらに平泳ぎ。

「上にはいかないぞ。失礼だからな」

 寝起きだから前髪が全部降りてしまっている。いい…

 少し幼く見えるのがイイ…

 ああ、私はなんて罪な生き物なんだろう。


 上から簡易テーブルを下ろし、トーストにハムエッグ、そしてコーヒーを出す。

「これは、パンか。形が珍しいな」

 まだ前髪全おろしのディーズさん。ダンもちょっと笑ってる。

「ディーズさんっておいくつですか? 俺はハタチなんですけど」

 トーストにかぶりついた彼は、もぐもぐした後に言う。

「たしか、数えで28になる」

「ああ! じゃあ姉ちゃんとだいたい同じですね」

「そうなのか。サギリはもっと若いと思っていた」

 やっぱりな。この国の人は西洋っぽい顔立ちをしている。そのクッキリハッキリした顔からすれば、平たい顔の私たちは幼く見えるのだろう。

(というか…)

「ダン、数えってどういうイミ?」

「ゼロがないんだよ。生まれた時点で一歳。誕生日は関係なく正月にみんな年を取るんだ。姉ちゃんはにじゅう…」

 そこで弟の口をふさいだ。

 まてよ。ということはディーズさんはこっちの数え方だと26か7ってこと?

 考えたくない…考えないでおこう…

 そんな複雑な思いを抱える私をよそに、彼はコーヒーをすすっている。

「砂糖が入っていないほうが、俺は好きだな」


 朝食を片付け、私たちはソファとスツールに座って膝をつき合わせた。

「さて、昨日のアレ…ですが」

 店の隅に置いてある剣。やはり光っている。

「信じられん。普段あの魔物…『グド』は数回叩かないと倒せない。胴にうまく当てれば一回で死ぬが、運しだいだ。それが、あのひと振りで全部…」

「真空なのかなあ」

 しんくう?

「空気を斬ったことで鋭い刃が…ってあんまり根拠がないか」

「なんにせよ前例がない」腕を組んでうなる隊長。

「魔力の強い部下も何人かいるが、戦闘には使えないのだ。どういうことなのだろう」

 男二人はしばらく黙ってしまった。

 原因を考えているみたいだけど、私にもさっぱりわからない。

 でも考えるのは無意味。それだけはわかるぞ。

「ねえ!」私は二人の顔をそれぞれに見た。「前例がないんでしょ?ほかにこんな力を持つ人はいないんでしょ?」

「ああ」

「ということは、ディーズさんは『超・兵器』になったんだよ!だって一人で魔物を全部やっつけたんだよ?」

 私はスツールから立ち上がる。

「こんな力、国がほっとくわけないじゃん!」

 私は演説を始めてしまった。「あんなヤバイ魔物がうようよいて、国の人は怖くて夜も歩けなくて。ディーズさんの部下は何人も命を落としたんでしょ。そして、途中でリタイアした人もいる。

みんなみんな、この力で解決できるかもしれないんだよ。

お坊さんなんかになってる場合じゃないよ。

お城に行って、話をつけよう?」

 私を見るディーズさんの瞳が、だんだんと見開かれる。私はその肩に触れた。すこし、揺らす。

「今ならあいつ、べヴェルもやっつけられる!」

 緑の瞳に力が宿るのを見た。

「俺は…俺は、この国を守れるのか」


 私とダンはできるだけきちんとした服をえらんだ。

 全ての鎧を身に着けた隊長さんだったけど、兜はうまくかぶれず置いておくしかなかった。

 掟破りの3人、いざ、城へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ