一閃
あの時、街で突き付けられた大きな剣。
ディーズさんはそれを片手で軽々と持ち上げた。
「このような現象は見たことがない」
鎧と同じ色で鞘もそろえられており、少々の宝石と細工が施されている。
ふんわりとした光。
「魔法ではないんですか?」
「魔法は戦いでは使えない。魔術師は索敵や錬金術が主な仕事だ」
まさかべヴェルの呪いじゃないだろうな…?と思ったけど嫌な気配はしない。
「鞘が光っているのか、それとも」
隊長はゆっくりと剣を抜いた。
そして、私たちは思わず目を覆った。
「これは」
「ライトセーバーじゃん!」
ダンは映画の剣の名前を出した。まさしく蛍光灯のような光だ。
「まぶしいな」
すぐ鞘に戻す。
「うん…ずっと見てるのはきついね」目がチカチカした。
「どうしちゃったんだろ?」
その時、遠吠えが店を貫いた。
「しまった、この店が明るかったから?」
私たちもナニがアレだったから、ドアのブラインドがテキトーになっていたし、
下がっていたとしてもある程度光が漏れていたはずだ。
「先ほどのこともあったし、べヴェルの奴が他にも何か」
そういえばあの人、この店に入る前何かもたもたしていたな。
ドアから外を見る。街の明かりは何もない。ここの人たちは夜は真っ暗にして寝なければならないんだ。
その代わりにあるのは私も見た黄色い光。
いくつもいくつも、交通渋滞みたいに集まっている。
「姉ちゃん…これは、死ぬ」
「異常だ。異常すぎる」ディーズさんが舌打ちをした。「我が部隊は何をしているのだ?まさか…」
あの時みたいに? 私は口を覆った。
すると、かすかな鈴の音がした。
チリン、チリンと頭の奥で呼びかけられている。
その相手はライトセーバー。
まぶしいので鞘に納めたそれが、私に何か伝えようとしてる。
「この剣」私が触ろうとすると、彼が首を振る。「サギリのような女性が持つものではない」
試しに一回だけ持たせてもらったが両手で抱えても無理だ。ディーズさんどんだけ力あるんだよ。
鈴の音が消えた。
音はすべて、ディーズさんの身体へと吸い込まれたように『見えた』。
まさか。
もしかして。
「ディーズさん、その剣で魔物を斬ってみてくれませんか?」
「そうするしかなさそうだ」胴にだけ防具を身に着け、ドアを開けた。「隊の様子もわからんし、何もしなくても俺たちはあれに殺されてしまう。今は身分など関係ない」
そして、こちらを振り返った。「朝になったら、べヴェルを殴る」
私は大きくうなずいた。「もしかすると、その光は魔物に効くかも。うまく…いくかも!」
「ならいいがな」死地へ赴く軍人の顔だった。店を出て、群れの前に立つ。
私たちは手を取り合ってみているしかない。
「我はメリクール王国近衛隊隊長、ディーズ・マティック! この地を汚すものよ、立ち去れ。さもなくば、私が相手する!」
名乗りに呼応して、魔物たちが高く鳴く。
大剣は鞘から抜かれ、光を放った。
「神よ、どうか」
顔の前に剣を構え、彼は祈った。
魔物の群れがジグザグに走り寄ってくる。
「ご加護を!」
一匹が彼にとびかかり、彼はその胴を払うつもりだった。
ところが、その一振りは大きく白い弧を描き、魔物をこっぱみじんにしたのである。
「な…?何?なんだ、この剣は!」
胴を斬ってもまだ襲ってくると思い身構えていた彼は、その必要のなさに驚いている。
「まだです!まだたくさんいます!」
「そうだな」
しかし剣はまた、一匹を塵に変えた。一匹、一匹と彼が剣を振るたびに一瞬で消えてしまう。
「あの剣、たぶんもともとは全然切れるモンじゃない。西洋の剣は相手をぶっ叩くためにあるんだ」
店の中でダンは言った。「あきらかに変だ」
「魔法かな…? でも魔法は戦いに使えないって」
「でもいまいち効率が悪いな。ひょっとすると」ダンは外に出て、叫んだ。
「その剣、大きく空振りしてみてください!」
ディーズさんが振り返る。
「近くに相手がいない、今なら試せます!」
魔物たちはわけのわからない力にひるみ、じりじりあとずさりして様子をうかがっている。
「こうか?」
隊長は剣を横に構えた。一度後ろへ引いて、脚を開いて安定させ力をためる。そして、
「うらあああっ!!」
闇を斬った。
風が起こり、ダンは身を伏せる。私は窓から目を見張った。
見張りに見張った。
一瞬だった。白く光る切っ先がまっすぐ魔物へ飛んだ。
すべてがぶった切られ、塵と化していく。
彼が剣を下ろした時には、石畳と建物以外何も残っていなかったのである。