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大団円にはまだ早い


 裏の「白鋭士軍」兵舎がそろそろ完成しそうだ。ディーのお屋敷と同じ黒い石を使った、重厚な建物。外見はほぼ完成していて、大工さんたちはすでに内装に取り掛かっているようだ。

 「白」なのに黒い建物でいいのかなあ…?と思ったんだけど、うちが白いから白いと目立たないってことなんだって。


 そして、またあのドレスを押し入れから出す日がやってきた。

 王様から手紙は貰ったけど、ずいぶん前に主賓様から連絡が来てたんだよね。

『一週間後にメリクールへ行くよ。新しい道を走るの超楽しみ(*^▽^*)もちろん、ファルも一緒だよ♡』

 相変わらずの顔文字とスタンプの応酬。

 そう、ダンとエルドリスの作った材料で舗装したカーディナルへの道が全通したのだ。その上を、アスファル王が通る。

 これは二つの国の国交発展の何よりのシンボルになる。

 この先交通量が増えるだろうとダンが予測し、二車線に広げて上り下りを別にしたという。馬車が凹凸を気にせず高速で走れるようになったので、メリクールとカーディナル王都間は一日半でたどり着けるようになったそうだ。

 ついでに言うと、ノバフルームは半日で行ける。この早さになるのは予想外だったけど、ノバフルームは農業地の他に観光地としての面も持ってるからこれからどんどん栄えていくと思う。

「うーん…やはりまだカーディナルの生活のおかげで細いんだな…ありがたいことだ」

 黄色いドレスに身をつつみ、リボンはキュッときつく結ぶ。髪を巻いて、メイクして。

 そして、小箱を開ける。

 エメラルドのイヤリングと、ネックレス。ディーのお母さまから頂いたものだ。つけると、お母さまに守られている気がする。

 紺色の衣装を身に着けたダンが一階に降りるとすぐ、馬車がやってきた。あのパーティーの日と全く同じ。ただ、迎えに来たディーとペティちゃんの礼服が上下真っ白なものに変わっていた。

「ワインをこぼしたら大変だね」

「ワイン、こぼさせないでくださいね」

 若い二人が冗談を言って笑いあう。

 私はディーを見た。すごいな、マントが銀色だ。これどうやってつくったんだろ?

「ダンたちの研究でできたばかりの布らしい。銀は一切使っていないそうだ」

 触るとすべすべした。ナイロンのようなものかもしれないな。

 それにしても、白と銀なんて王様より上の人みたい。「白鋭士軍」の鋭さ、気高さそのものだ。

 ディーはもともとカッコイイけど、さらに磨きがかかっちゃって私は思わず見入ってしまう。

 ボーっとしている私に顔を近づけ、指で耳に触れた。

 こんな時に? くすぐったい…というか、ヤバい。

「イヤリング、今日もつけてくれたんだな。嬉しい。そして、今日もきれいだ」

「ふあああ」それどこじゃないよ。

「ん…? ああ、そうか…!すまん!」

 まだまだ未熟な私の彼氏、自分が何を触っていたのか今になって気づいたようだ。

 ダンたちがニヤニヤしてる。ディーはマントをバサアと広げて私を隠す。「見るな! 見世物ではない!」

「仲がおよろしいようで何よりですなあ」

「二人とも、おめでとうございます」ペティちゃん!あなた内気をどこにやったの!



 馬車に揺られて城に着くなり、うわーっとハグされた。

「サギリー! 会いたかったよ! えっと、もう二か月?三か月?まあいいや、超久しぶり!」

 ヴィオラ…じゃなくてカーディナル王妃のフィッダ様は生成りのドレスに金のティアラをつけ、私をぎゅうぎゅう抱きしめた。

 お…おう…カーディナル最強女子の上私が力をつけちゃってんのに…それ以上抱きしめられたら死ぬ!

「ウチねウチね、も、超窮屈でさー。大丈夫だっつってんのに城の外に出してもらえないんだよー。もう退屈で」

「い、息が…ヴィオラ、手加減して」

 私が意識失いかけていると男性二人がやってきた。

「サギリが困っているぞフィッダ。少し離れていても会話は十分できる」

 超絶イケメンの国王アスファル様だ。

「サギリ…久しぶり…だな」

 少し髪が伸びた宰相のアズー。

「お久しぶりです国王。そして、アズー殿」

 ディーがスッと出た。多分、アズーを私に近づけさせないつもりだ。ダンも加わって男たちは握手しあう。

 ヴィオラは次にペティちゃんをハグしたが、メリクール最強女子のペティちゃんはぐぐぐっと抵抗している。

「サギリ やっと来た」

 アイギスちゃんがかわいらしいドレスでやってきた。ルーフスがその後ろをついてくる。へえ、パーティーともなると一応正装をするんだなこのライオンさんは。生成りの貫頭衣もカチッとした作りだし、首にかけてる赤いストールも高級そうだ。

「サギリ、ボルスターさんとも話したけど、やっぱノバフルームに学校を作るのがベストだと思うんだ。両方の国から生徒を集められるからな」

「なるほど! 私もボルスターさんに教わりたいことたくさんあるから、たまに行くよ。…ってか、アイギスちゃんはどうするの?」

 ちょっとニヤリとして小さな女の子を見たが、彼女は首を振る。

「わたし、おしごとあるから。でも、ルーフスは、来てくれる」

 そうか。アイギスちゃんの力はこの国になくてはならないものだからね。

「そう。俺らは商売で行ったり来たりさ。なあ、アスワド」

 いつの間にか彼がいた。フォーマルというか…今日は商人じゃないな。うちから輸出したボディーアーマーを身に着け、黒いストールを巻いている。

 明らかに、王と王妃のSPだ。

「アスワドさんて、何にでもなれるんだねえ」

「まあな。場によって姿を変えるのは俺の仕事じゃ当たり前だから」

 すると、彼の姿がすうっと消えた。思わず目をこする。

「アスワドの『力』らしいぞ。サギリすげえ能力あげちゃったな」

 うわあ。スパイのアスワドさん、本気で消えられるのか。

 でも、二人のために力を使ってくれるなら全然オッケーだ。



 パーティが始まった。

 両国の国王が並び、王妃と王子も控える。

 アスファル王があまりにイケメンなので、列席している女性たちが色めきだっていた。でも王妃がいますからね。「いいもの見た」ぐらいで収めてもらわんと。

「カーディナルとの道が完成し、その道の上を通っていらした王と王妃に祝福を。本日をもって、メリクールとカーディナルはまた一歩近づいた。この先の未来も輝かしいものとなるよう願い、乾杯!」

 私たちは一斉にグラスを持ち上げた。

 そして次に…やはり私たちは白鋭士軍と一緒に立たされた。王様が白鋭士軍の披露をし、カーディナルでの働きについて熱く語っている。

 話は長いし、ここにいるのはずかしいなあ。

「サギリ、もっと堂々としろ。お前はこの場にいるべき人間で、しかも主役のようなものだ」

 ディーは隣でいうけど。

「私そんな大したことしてないし、軍の人間じゃないし。」

「じゃあ、俺の婚約者として立っていればいいのでは?」

 私は自分の顔が爆発する音をきいた。

 そ、そりゃあずいぶん前からそういう約束だけど。

(この男…あの一回でずいぶんとイキリおったな?)

 ちょっとズボンをつねってやった。

「サギリっ、なにをする」

「ばーか!ディーのバカ!」

 パーティー客に声は聞こえてないと思うけど、ダンの他、白鋭士軍のみんなが戸惑う。

 私がふくれていると、肩に手。

「私は、彼らに、彼女に、そして彼女の友達に心を救われました。辛かった時期に支えてもらい、一緒に笑い、勇気をもらいました。彼女の力なくば、カーディナルは復興できませんでした」

 褐色の王妃様が、低くもよく通る声で言った。

 ヴィオラはそっと言う。(何痴話ゲンカしてんの。仲いいのはいいけどさ)

 そして、王妃の顔に戻る。

「サギリ…彼女の姿、そして心こそがメリクールの形だと、私は感じております。カーディナルはメリクールと未来永劫、友好国であることをここに宣言します」

 王妃の言葉に、参加者がほう…と声を上げた。そしてさらに、私に視線が集まる!

「ヴィオラ~」助かったけどさあ。

「いいじゃんホントのことなんだから。さ、踊ろう」

「え、メリクールは…」

 するとヴィオラは手をあげた。なんとカーディナルから楽団が来ていて、楽器を鳴らし始めたのだ。

 みんな聴きなれない音にざわつくが、

「本日は私たちカーディナルの音楽を捧げます。そして、皆さま一緒に踊りませんか?カーディナルの人々はこうして心を通わせるのです」

 アスファル王もこの仕掛けを知っていたようで、もうヴィオラの隣に進み出ていた。二人は手を取り合い、踊り出す。

 簡単なダンスだけど、若くて美しい二人がくるりと踊るものだからメリクールの貴族たちは驚くばかり。興奮のため息も聞こえた。

「さあサギリも隊長さんも、踊って!」

 しょうがないなあ。

 私はつねった膝をよしよしして、ディーを見上げた。

「ごめん、さっきはちょっとムカついたけど、別にケンカしたいわけじゃないからね?」

「すまなかった…俺が調子に乗っていたな」

 私たちもあの日のダンスを思い出して踊り始めた。ダンもペティちゃんの手を取る。

 白鋭士軍が踊り出し、貴族の中から踊り出す人が現れる。このダンスは簡単だし、音もウキウキするからつい引き込まれるんだよね。

「父上、どうですか?」クリスも立ち上がる。

「ふむ…こうなっては踊らない理由はないな」

 メリクール王が踊り出したので、もう誰もとがめられない。

「いーんだよ、下手でも!楽しければいいんだからさ!」

「ルーフス、こえ、おっきい」

 アイギスちゃんはルーフスにくるくる回されている感じだ。

 でもただ一人、壁に寄りかかってため息をつくアズーがいた。運動神経ゼロだもんなあ…

 私は手を振った。それを見て、遠慮がちに振り返す宰相さま。

「こら、よそ見をするな」

「もー、ディーはもう少し大人になってよね!」

 踊りの中で私は彼に抱き着いた。ディーはそのまま、回る。

 メリーゴーランドみたい。

「お熱いっすね!」

 フラットさんがヒルトと近づいてきた。が、ヒルトがその足を蹴っ飛ばす。「あんたはどうしてそう、下品なことしか言えないの?」

 エルドリスもここぞとばかりにグラインさんをつかまえて踊っているが、グラインさんはデレっとしているだけだ。

「あれは本当にどうにかならんのか…?」

「グラインさんの中でエルドリスが高嶺の花から変わんないっぽいんだよねえ」

 なんて言いながら、私はまたダンスを再開した。

 腕を組んで、離れてからくるっと回って、そして、お互いの手を叩く。

 いろいろな関係がある。いろんな人がいる。

 私とディーも、いろんな関係を越えてきた。

「楽しいね!」

「俺はお前の顔を見ているのが一番楽しい」

 お互いの笑顔を見つめあう。

 そしてパン、という音が会場内に響いた。



「はあああ~疲れたなあ。さすがに踊り続けてたら喉乾いちゃった!」

 会場ではまだまだ音楽が流れ、踊る人がいるんだけど、私とディーはそこから離れる。炭酸水を飲み干した。

「アスファル王たちはまだ踊っているのか…さすがだな」

 二人は見栄えするから、列席者が見とれてしまっている。

「サギリ、ようやくダンスを終えたか」

 アズーが近づいてきた。少々隣がムッとしてるが、あえて無視する。

「やっぱ、ダンスも苦手なんだ」

「私は…踊ると笑われてしまうのだ」

 腕を組んだ。彼はコミュニケーションにおいて、これから険しい道を進むことになるんだな。

「前髪、伸びたね」

「ああ。ボルスター殿にお任せしているのだが、この方がいいと」

 そうだよね。あの時は短めにするしかなかったし。

「似合ってるよ」

 宰相さまは真っ赤になってしまった。「あ…ありがとう」

「そういえば、ダンとは話したの?石油のこととか」

「いや、まだ到着したばかりだからな。一週間は滞在するので、その間に」

「じゃあ、一日くらいはメリクールを見てってよ。おいしいものたくさんあるから!」

「俺が、案内しますので」

 セ●ムが私をぐいっと引き寄せた。怖い怖い。

 アズーはくすくす笑う。「大丈夫ですよ。あなたには叶いません」

 そこで、花火が上がった。昼の花火。明るいから、音しかないけれど。

「メリクールに夜はないというけれど、昼の宴もまた良いものですね」

 私たちは空を見つめた。

「しかし、この国にも安全な夜をもたらしたい。私は将軍として、その試練に立ち向かおうと思います」

「私たちは、貴方たちに救われた。ファルも王妃もメリクールを信頼している。いつかメリクールに何かあれば、迷わず力をお貸しします」

 ゆっくり、二人の間の空気が柔らかくなった。

 私はほっとしたし楽しみになってきた。きっと、これからいいことが起こるはず。

 そんな予感がする。


 二つの月が、今日も輝いていた。



──ところが。

 そこにコツコツと高い足音が近づいてきたのだ。

「あなたが、サギリだったのね」

「え? ええ…私…ですけど」

 全く知らない女の子だ。メリクールの戒律をまだ守っているらしく、長い金髪を二つに分け、複雑に編みを施して結い上げている。

 上向きの眉毛と化粧のせいなのかきつめに見えるが、深い紫色のドレスが似合う美女だ。

 おそらく相当に身分の高いお嬢様だろう。

 彼女は私を見て、そしてディーとアズーを見た。

「なんなの…っ。なんなのよ、あなたは!」

 ん?何のこと?

 と思っている間にパァンと派手な音がした。

「サギリ!」

 ディーとアズーがそれぞれ両側から支える。

 私は…ビンタをされて後ろによろけてしまったのだ。

 お嬢様は、びしっと指をさした。

「私は…わたくしは、あなたを絶対に許しませんわ!」

 ビンタした手を握り、体中を震わせている。

 

 え?

 はあ?

 私、何かしました?


ありがとうございました!

最後の最後で大いなるヒキがありますが、これにて第二章完結です。

第三章は執筆中です。しばらくまたお待ちください。

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