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解(ほど)く

 たまに、髪の毛の長い男の子がいたりしなかっただろうか。

 私は小学生の時隣の席にそんな子がいた。

 顔立ちがもともとかわいらしくて親が切らせなかったらしい。

 女の子の髪の毛よりもツヤツヤしていたし、いいなあと眺めていた。


 ところが、小学校も4年くらいの頃だろうか。

 突然その子が髪の毛をバッサリ切ってきたのである。

 クラス中びっくりしたが、彼は自分の頭をなでながら、

「僕だって好きな髪形にしたかったんだ」

 と照れながら言ったのだ。

 きれいな髪だったのでもったいないなと思いつつも、少しずつ成長して顔が直線的になってきた彼にその髪型はぴったりだった。いい美容師さんが切ったんだろうなと思った。

 そして、変身みたいだな、魔法みたいだなって思ったんだ。



──それからなのだ。私が性癖に目覚めたのは。

「あっ」

 まず顎の高さにハサミを入れた。胸まであった髪が一束、クロスに滑る。

 ディーズさんの息を呑む音が聞こえた。私は間をおかずにハサミを動かす。おかっぱ状態にしてからクリップで髪を分けて止める。サイドと上と、後ろと。

 そしてまず、後ろから刈り込む。うなじギリギリにハサミを入れて「えりあし」の形を作り、コームをあてて刈り上げる。

「少し下を向いてくれますか」

 頭をぐっと抑えて念入りに刈る。何をされているのだろうと眉毛がぐにゃぐにゃの隊長さんである。

 セニングで量を調整し、後ろをとりあえず切り終える。

「うわー。姉ちゃん徹底的。これは変わるな」

「話しかけないで」

「ほいほい」

 右サイドへ移る。私はためらわず耳の上にハサミを入れた。

 「んん??」

 突然ぐるりと耳回りがあらわになってびっくりしているようだ。

 こういう反応は初めて。

(そして、たまらない…!!)

 気持ちが高ぶりそうだけど、これは仕事。私は最高の作品を作らなければならない。


 初めて彼を見た時から、ぜったい、ぜったいに短髪が似合うと思っていた。

 つやっとした黒い髪、引き締まってて鋭さもある顔立ち。

 兵士だし戦うし、髪が邪魔にならず手入れしやすい形がいい。

 そして、ぜったいに私がそのカタチを「作る」と決めてたんだ。

 毎晩ずーっと、布団の中でどんな感じにしようかと妄想していた。前髪は上げるかどうするか、サイドはどのくらいの長さがいいか…考えすぎて眠れなかったこともある。

 っていうか…私はぶっちゃけて言うと短髪フェチなのである。小学校のあのときから、きれいな襟足や清潔そうな短い髪がたまらなく好きで、それが似合う人もめちゃくちゃ好きなのだ。

 短髪が似合いそうな人を担当してもうまくいかないことがあり、ぐっとこらえて仕事したりもしてた。注文を無視するわけにはいかないから。

 でもこうして、最高のめぐりあわせがやってきたのだ。神様、禁止用語わめいてごめんなさい。


 両サイドを作りこみ、ついにトップに入る。

 ダンは待合いソファに座って足を組んで眺めていた。

 ディーズさんはこのあたりからじっと鏡を見つめている。

(キリっとしているほうがいい。エライ人なのだから、チャラチャラしてたらダメだ。甘さもいらない)

 コームをうごかしながら、髪の束をもちあげながら、ただ右手に集中する。

 汗が飛んだ。「ごめん、ちょっと待って」ワゴンに置いといたタオルで顔をぬぐう。少し水分ほしかったけど、手を止めてはこの緊張がとけてしまう。

 この人をカッコよくするんだ。

 この人が縛られてる「鎖」を断ち切るんだ。

 私のためにすべて失おうとしてる人を、


 大事な人を、救いたいんだ。



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