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ヒミツの親子


 カーディナルの王都はみるみるうちに修繕されていった。

 戻ってきた銀狼軍と赤の軍が加わり、速度が変わったのだ。

 毎朝王都を見るのが楽しみになった。いろんな場所が変わっていくんだもの。

 メリクールからも石を運んでいて、より頑丈な建物を作ったりもしているそうだ。やっぱメリクールの石すごい。

 難民もカーディナルに次々と戻ってきた。街はどんどんにぎやかになる。


 ラーウースは尋問にかけられていた。国庫にあったお金をどこに隠したか。

 しかしカーディナルは死刑のある国だから、言ってしまえば即刻殺される。ラーウースは黙秘を続けた。

 クリスは「僕は参加したくないねえ」とのこと。そりゃそうだ。

 取り巻きの貴族たちにも尋問したが、答えがみんなバラバラ。嘘をついているか、ラーウースにだまされたかだ。

 兵士たちが彼らの言った場所を探してみたが、やはり見つからなかった。

 もうあきらめるしかないのか…? とみんなが諦めかけたころ、アズーから連絡があった。

 アズーの作った湖が干上がり、そこから大きな袋が出てきたのだ。中には金貨がこれでもかと入っていた。

 どうも砂漠のどこかに小屋を作りそこに入れていたんだけど、アズーがそれを飲み込むほど大きな湖を作って小屋は押しつぶされたらしい。

「あと少しで沈み込むところだった。あの水が突発的に湧き水を作るかもしれんと思い、見に行ったのだが…」

 湧き水が地形に影響しないか心配だったそうだ。

 国のお金は戻り、税金は国民に返された。ラーウースはそれを耳にして老人のようになってしまったという。「あそこは迷いやすく人が踏み入れず、今まで見つからなかったというのに」

 ラーウースはカーディナルの法によってひっそり処刑された。

「彼がやったような見世物の処刑はすまい、たとえ大罪人であろうと」新しい王は法律を変えたのだ。


 元国王は自分も罰を受けるべきだと息子に言った。

「私は弱い人間だ。お前のそばにいては、国に支障をきたす」

 アスファル王は非常に悩んでしまったが、クリスがゲンタシン寺院へ来てはどうかと提案した。「身の安全は保障しますし安らかな場所です。ゆっくりなさってください」


 私はアスファル王に頼まれ、父王の髪を切ることになった。ぱっつんだと寺院で目立つからだ。

 静かな場所で、私は彼の首にクロスを巻いた。

「ところで、とてもお聞きしたいことがあるんです」

「何だ…? 私に、何ができるのだろうか」

「今まで王様たちの髪を切っていた方に、お会いしたいのです。この国は変わり、あなたがこの国を出るとその人の仕事はなくなってしまいます。私はその人と協力し、カーディナルの人たちの髪を切っていきたいんです」

 この人もやはり刈り上げがあった。それに合わせて無難な短髪に仕上げていく。力は使っていない。

「そうか…彼らが心配だ。よし、私にできる最後の仕事をしよう」

 父王は馬車に乗ってメリクールへと発った。私は書類を手に、城のとある場所へ行くことに。

 ただ、怖かったのでディーとダンについてもらっている。だって地下だし重々しい扉があるんだもの。

「こんなに厳重に隠す必要があったの?」

 衛兵に書類を見せて扉を開けてもらう。

「あのぱっつんに意味があるとは…」

「しかし王族としてのオーラはあったな。あの仕事を代々守っていたのだろう?」

 何となく肌寒い。あの時の牢屋を思い出す。

 廊下のつきあたりに木製の普通のドアがあった。

 ノックをする…が出てこないし声もない。

「いないのかな」

「たぶん、ノックなんかされないんじゃないの?」

 私は扉を開けた。

「うわ、マネキンちゃんがいる!」

 私の第一声はそれだ。頭だけのマネキン。髪の毛が植えてある。

 二人の男性が、マネキンの前でカットの練習をしていたようだ。

「なんだ、お前は?」

 年上の男性がマネキンを隠すようにして私の前に立った。私は書類を見せる。

「私…メリクールっていうか、そこの美容師でサギリと申します。あの、美容師って言うのは髪切り職人で」

「ん? なんだ…その髪型は。メリクールは髪を切らぬ国ではないのか。ちょっと、その切り方見せてくれ」

 彼は私の髪にいきなり触れた。身体がこわばるディーをダンがおさえる。

 やがてディーもダンもあちこち髪の毛をさわられた。

「どういうことだ。何故、この滅びた技術を持っている」

「え?」

 滅びた? どういうこと?



 二人が作業できれば十分、という部屋だったので隣の休憩室へ移動した。彼らは親子でボルスターと名乗った。

「カーディナルは昔、髪切り職人が多くいたという。昔のカーディナルは服装も含め貴族が華美になることを競っていた。美容にかける金は膨大になり、民は苦しみ、時の王が外見の贅沢を禁じたという。ただし、王を除いて。髪切り職人はボルスター家を除き消え、私たちの技術は秘伝とされた。服装についてはやがて贅沢を解かれたが、なぜか髪切り職人だけは変わらなかったのだ。そして三代前ごろから貴族が王の真似事をするようになった。私たちとはまったく技術が違っていたけれど」

「三代前…あなたたちはしんどかったんじゃないですか?」

 ふむ、と彼は目を伏せた。そういえばこの親子、ナイフで切っているように見せかけているが、とてもさっぱりしたいい髪型をしている。

「不満ではあったが、貴族たちは満足しているようだったし必要とされていないのでは仕方がない」

「私は必要なんです。今、カーディナルは変わろうとしています。新しい王には会いましたか? 私が…髪を切ったんですけど」

「君だったのか! すばらしい。私たちは何が起こったのだろうと思ったよ」

 ボルスターさんが立ち上がる。

「あのう…もしよかったら、私の髪、揃えてくれませんか? 私、こっちに来てから自分の髪を自分で切るしかなくて」

 セルフカットはなかなか難しい。ずっと切ってくれる人を探してたのだ。

 この人たちなら大丈夫だ。


 布を巻かれ、鏡の前に座る。ちゃんと、いすだ。

 ボルスターさんはすっすっとコームで私の髪を分けてブロッキングしていく。

「君の髪は左右非対称だが、そのままでよいのだな?」

「あっはい。これ、私のポリシーなんで」

 彼はくすっと笑った。そしてハサミをとる。普通のハサミだ。

 後ろからカットが始まった。私の髪は後ろに少々クセがあり多い。日本人としてはありふれた髪質だ。

「ふむ、やはり中で見えぬように量を減らしているのだな」

 サッと長さを整えると、ハサミ一本で私の髪を梳いていく。ちょ、やばい。私はセニングを使うのに。

「前髪はこんな感じでよいか?」

「あっ、ばっちりです! すごい!」

 ぱっつんになっているようでなっていない、すごく自然な仕上がりだ。

 布を取ったあと、自分の髪をさわった。軽ーい!! 見た目は何も変わってないけど、これだよ、私が求めていた私の髪型!

「何も変わっていないように思うが…」

「うん、まあ普通の人はそう思うよ。あれはプロの話だから」

 ディーとダンがぽつりと言う。

「すばらしいです、ボルスターさん! ぜひこの技術をカーディナルで広く伝えてください!」

 私よりレベルが全然上だよ。こんなとこに閉じ込めているのはもったいない。

「しかし私たちは」

「元国王があなたたちを心配していました。私はメリクールでたった一人の美容師で…私もこれから、お客さんを抱えていけるか不安なんです。一緒に職人を養成しませんか? こんなとこにいなくていいんです!お願いします!」

「うう…む…」

「父さん父さん。よく考えて。今、混乱してるみたいだけど…、国王があの切り方を必要としないってことは、もう俺たちは外に出ていいってことだよ。夜が明ける前に家を出て、日が落ちたら城を出て。もう、こそこそしなくていいんだよ」

 息子さんが彼の身体を支える。ダンと同じくらいの若者だ。

「ああ、そうか…あまりのことで理解が追い付かず」

 頭を抱えているお父さん。私は続けて言う。

「学校を作りましょう! 商人たちが欲しがっているんですよ。みんなナイフで切っているでしょう? 危ないなって思ってたんです。まず貴族をぱっつんにしてる人たちでも集めて教えていきましょうよ」

「学校?!」

 親子は声をあげた。

「私たちは知られぬ存在だったのに、まさか、教えるだなんて」

「お願いします! 私はまだ教えられる立場じゃないし、むしろあなたに教わりたい!」

 私は頭を下げた。うれしいよ、同じ仕事をしている人がこの世界にいたなんて。

 そして、私もまだまだ勉強できるんだ!



 ボルスター親子は新王の命のもと、その存在を明かされた。ぱっつん職人たちは二人の仕事を見てびっくりしていた。早いわ美しいわ、似合わせもカンペキだわで。

「そうかー。すげえなあ。まさかカーディナルにサギリと同じ仕事できる奴がいるなんてなあ」

 タオルを頭に巻いて土木作業をしているルーフスがうなった。

「これ、私とあんたの約束じゃん。もしお金が不安なら、お父さんを説得して見せてよ」

「だよなあ。学校となれば金がそうとういるからな。いっちょ顔を合わせて頭下げてみるか」

 私とルーフスはこぶしを突きあった。


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