青天の陛下
べヴェルに猿ぐつわをし、ディーが持ち上げる。ラーウースもヴィオラが持ち上げ、砦の屋上に立った。
「聞け! ラーウースは私、フィッダが捕縛した。無駄な戦いをやめ、その剣を収めろ!」
砦の下の兵士たちは、銀も赤もこちらを向いた。
近衛隊によって倒れてしまった兵士もいる。
「国王もここにおわす。頭を下げよ!」
動けない人を除き、兵士たちはひざまずいた。
砦を降り、改めて私たちは兵士の前に立つ。戦士のいでたちをしている三人と比べ、私は小さいし細いので兵士は不思議そうに私を見てる。
「もう…ラーウースに恐れなくてよい。家族を人質に取られ何も言えぬ者もいただろう。お前たちは、もう自由だ」
他の建物から、近衛隊に捕らえられた貴族たちも現れた。ラーウースのとりまきだったのだろう。
国王はいきなり土下座をした。「わ…私は…申し訳ない! このような無駄な戦いで皆を…無駄な血を」
砂に頭をこすりつける王様を見て、みんな戸惑っている。
「私は…今をもって王の座を降りる。アスファル…お前に託す!」
兵士たちの後ろに、美しい王子が立っていた。
彼の後ろに光が差す。青空が広がり始めている。
アスファル王子は近づいて父王の手を取った。父王は泣き、彼にしがみつく。王子はその背をたたき、一緒に立ち上がる。
もう片方の手で、ヴィオラの手を取った。彼女は少し驚いたようだが、前を見た。
「今、父に代わり私は王になった。そして王として命ずる。皆、その武装を解いて戻ろう。王都はラーウースの企てにより焼かれてしまった。再建が急務である。共に、直してゆこう」
兵士たちは新しい王を見た。
「新しい、カーディナルを作ろう」
泣く人、ほっとする人、仲間と抱き合う人、いろいろな顔があった。兵士にもそれぞれの顔があって、それぞれ待っている人や守りたい人がいるのだ。
私はようやく、彼らの本当の姿を見た気がする。
兵士は砦を片付け、倒された兵士たちを担いでいる。
アイギスちゃんが一人一人治療していく。まあほとんど気絶していただけなんだけど。
「ねえ、どうしてこんなに早く馬車が着いたの?」
私はダンに尋ねた。馬車は一日遅れだと思っていたのに。
「それがねえ…」
ダンは腕を組み、ヴィオラとともにあれこれ取り仕切る王子を見た。
「俺たちさ、散々言われてた砂嵐に遭わなかったんだよ」
「ええ?」
「そのうえ、追い風に恵まれまして、とても快適にここまで来たんです」
ペティちゃんが付け加える。
「たぶん、王子の『力』じゃないのかな? あの人がいると、もう嵐は来ないと思う」
ほんとだ、二人のきれいなこと。私は砂で真っ黒だよ。
空を見上げる。今は焼けてしまいそうな青空だ。
すごいなあ、嵐を振り払う王様なんて。
そしてダンは、足元に転がっているべヴェルを見た。
「これを牢屋に閉じ込めるの…? しんどそうだね」
「こいつ二回も脱走してるんだもん。メリクールには死刑ないし、私も殺したくないけど、でも動くから」
「だよね。俺たちにとっては、こいつが一番厄介だよ」
「それにねえ」私はこのオッサンを見下ろした。
「祈っていない人間の力を引き出すとか、私にとっちゃ最悪のエーギョーボーガイだよ。私は仕事がしたいの!こいつに動かれちゃ仕事できないもん!」
ダンが呆れた。「姉ちゃん、何もかも仕事優先だもんなあ…」
「あったりまえでしょ?! まだまだ店開いたばかりなんだよ!」
そこにすっと、私の肩を抱く手。
「今なら間に合いそうだぞ。『あっち』を見に行かないか?」
ディーが私を見た。おー、と私は声を出した。
「そうだね。一応任せているけど、向こうの様子見ておきたい!」
近衛隊が何人か残り、砦の片づけと兵士の再配置をするそうだ。配置が決まり次第、みんなで戻る。
結局「グレナデン軍」は偽装したカーディナル兵だったことが分かった。それを動かしていた将軍も従わされていたということで、事情聴取には協力的だ。芝居を打つためにわざと殴られた兵士たちもいるらしい。なんともかわいそうだ。
「砂嵐、王子がいないと来るのかなあ」
「大丈夫だ。王子と一緒に動くつもりだからな。王子とフィッダ将軍はすぐに王都へ戻るそうだ」
「おー!助かる!」
王子をグラインさんの馬に乗せ、先導する。私たちもそれを追えば砂嵐は来ない。
帰りはウソのように楽だった。私はせっかくなのでディーを抱きしめてラブラブしながらいろいろ話した。
すると、平民の兵士が固まって動いているのが見える。
そして、砂漠の大きな違いに気づいた。
「ん? んん~?」
なんか変だ。私は撮っておいた画像と見比べる。えらいことになってんぞ。




