稲妻の
国境なのかな、あれ。
低い山が連なり、一か所だけ山が切り崩された場所がある。鎌倉にこういうとこがあるってダンが言ってたな。
そこに門と建物がある。
「国境だ。そろそろウチらに気づいて反撃来るかな」
グラインさんの馬が跳ねた。矢が地面に刺さったからだ。
「ウチは降りるよ。あんたはバリアを大きくして、馬を防いで!」
ヴィオラが飛び降りた。そして、低いフォームで走り出す。
「…え、は、速くない?」
何本もの矢をまるで予知するかのように避け、飛び上がる。訓練された兵士の群れを空中で回転しながら蹴飛ばす。
着地したヴィオラは私に振り向いた。
「あれ?ウチ、ちょっと身体が変かも」
『力』かもしれない。
二人の兵士が身構える。
「将軍…なのか?」
「だが、あちらの砦にいらっしゃるのでは? 偽物か?」
「バーカ! お前ら銀狼軍だろう、私を忘れたのか?」
二人の兵士の首元。ヴィオラは飛び込み両手で一気に突いた。彼らはぶっ倒れてすぐに土下座した。
「恐れ入りました、将軍!」
「そのご手腕、まさしくフィッダ様です!」
二人の前に膝をついて話しかける。「よし。ラーウースは砦にいるのか?」
「は、はい。先ほどグレナデン軍を追い返しまして」
そして、平民の兵士にお金を配ったらしい。
「お前たち、勝ったなどと思っているのか」
二人はさらに頭を下げた。
「いいえ! しかしラーウースは…将軍を人質にしたと言い」
「私の身代わりだな。彼女には悪いことをした」
矢が飛んでくる。「あれは止められるか?」
二人の兵は白い布を出して振った。
皆、ヴィオラの部下みたいだ。矢はぴたりとやんだ。
「サギリ、先に砦へ飛んで行ってくれ!」
ヴィオラは国教の建物を指さした。私たちは抵抗しない兵士の上を飛び、砦の入り口に降り立つ。ドサンコちゃんには高く浮いてもらう。
「サギリ、大丈夫か。まず二人だけで入ることになるぞ」
「うん」カバンに手を突っ込み、板を出す。エルドリスの板。足に手に装着する。そして、シザーケース。
「べヴェルは私がやっつける」
絶対にいるはずだ。
「よし」ディーが扉を開けるとすぐに階段だった。板の力で駆け上がる。ディーとそれほど変わらない早さだったので、彼は驚いた。
「その早さなら、俺が手を取らなくても大丈夫そうだな」
さっき外を見た感じだと、砦は4階くらいあると見た。
国境の先を見張る高さが必要なんだろうね。
さっそく、兵士が現れた。ヨロイの色がヴィオラたちと違う。ディーが剣を構える前に私は体当たりした。
「どりゃあ!」
そして板を兵士に押し付ける。兵士は電撃に身体を震わせ、倒れてしまった。
ディーがたじろぐ。
「一体なんだ、その力は」
「うん。エルドリスに雷の魔法を入れてもらってね」
ぶっちゃけスタンガンである。
「敵が来たぞ! 守れ!」
赤い鎧だ。グレナデンは赤いってきいたけど、もしかするとこの人たちがグレナデン軍のフリをしていたのかもしれない。
「うらあっ!」
ディーの剣が廊下の空気を斬った。兵士たちが風に押され、突き当たりでぶつかって意識を失う。
「力をおさえるばかりで、逆に疲れるな」
廊下に溜まってしまった兵士を抱えてどける。お、重い…。
「隊長!」
後ろからグラインさんとヴィオラが追ってきた。「な、なんかさっきしびれている兵士を見たんですけど」
「ああ、それ私が倒したの」
私がにっこりすると、赤毛のイケメンさんが頭を抱える。
「何ですかそりゃ。稲妻のサギリ様ですか」
自分の二つ名を取られてしまった、とがっかりしている。