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どこへ逃げた


 城からの眺めはすごかった。街が一望できる。

 はるか向こう、グレナデンとの国境という山まで見える。

(この街が焼かれなかったら、もっときれいだったろうなあ…)

 今日から、私たちの拠点はここになる。

 お城にも温泉あるんだって。今度はどんなのだろう。楽しみだなあ。

「サギリ、会議だ。お前も来い」

 後ろからディーがやってきた。私は自分を指さす。

「私? 私は難しいことわかんないよ」

 彼は腕を組んで深く息を吐いた。「お前は自分をバカだバカだというが、俺は全くそう思わん。ちゃんと見ておけ。わからないことはすぐダンに聞けばいいだろう」

「やだー。眠くなっちゃうよー。あとで決まったこと教えてくれればいいからさあ」

「だ、め、だ!」

 ずるずると隊長様にひきずられる。えーやだ。絶対私寝ちゃう。



「ラーウースと国王は何処へ逃げたか…」

 やはりこの国ではどこでもあぐらをかくらしい。みんなでぐるりと円座する。アズーが地図をじゅうたんに広げた。

「近衛全員で各所を回ったが、それらしい集団は見当たらない。もしやべヴェルの手でメリクールへ動いたか、と思ったがそれも杞憂だった」

 ディーが報告する。

「そもそもメリクールは魔物だらけだべ。ただの兵士が太刀打ちできるもんじゃねえ。しかも、二人を守りながらだぜ?」

 じゃあそもそもべヴェルはどうやってこっちに来たの?と思ったんだけど、半年前にはもう逃げていたんだって。そんで、早々に身を隠してメリクールからの馬車に乗ってたっぽい。国交が回復して行き来がすごい時期だったから、近衛も気づかず守ってたみたいなんだよね…。

 べヴェルがこっちに現れたとポンメルさんに報告したら、ポンメルさんはすぐに監獄の兵士を取り調べた。ラーウースの使者からお金をもらってたらしい…。べヴェルの脱獄、二回目なんですけど。

(近衛隊と違って黒い鎧の人たちといい、兵士さんたちにはかなり違いがあるんだよね。だいたい近衛隊は貴族しかなれないのもおかしいっちゃおかしいんだよね)

「あとはもう、グレナデンだな」ヴィオラが言う。マントは羽織っているが鎧は着けてない。白い上下だ。道着にも見える。

「あのう、私の通信機が使えなくなった話はしましたよね」グラインさんが手をあげた。「今は使えるんですけど…あそこはなんなんですかねえ」

「砂が違うんだ。この辺りの砂は白いが、あちらは多少黒いものが混じる」

(鉄か磁石でも混じってんのかなあ…でもスマホもどきは魔法で動くものだし)

 ダンがつぶやいた。その魔法すら封じてしまう、ってことなのかな。

 でもグラインさんは馬で走れた。あの馬は私がやらかしたやつでものすごく速く走るんだけど、人間には負担がかかる。グラインさんは自分の周りにバリアをはれるのでそれを使って乗りこなしているんだよね。

 だから、なんか食い違ってしまう。

「国境までの道は黒い砂嵐が多い。距離としては大したことはないが、嵐がひどい時はそこにとどまらざるを得ない」

「その中へ、王を連れて?」

「ラーウースはグレナデンのパイプがあるからな。そして、置き去りの銀狼軍がいる」

 ヴィオラはじっと黙ってしまった。抜けてきてしまったとはいえ自分の大事な軍が何に使われているか考えているんじゃないかな。しかも王様がいる。命令には従わざるをえない。

「…しかしグレナデンとの戦は狂言であり、それは私たちが国民に知らしめた。今更、あの男は何をするというのだ?」

 ただグレナデンに逃げるだけなのか、って意味なのかな。

「王は心配なのだが…」

「ラーウースはグレナデンで地位があるとは思えないし…」

「行くべきなのはわかるのだが…闇雲に動けないな」

 みんな、考え込んでしまった。


 私も考えるフリをしていたのだが、ダンはぶつぶつつぶやいていた。

「…狂言を、本物にする?」

 みんなが注目した。びびる。

「あー、あの、言ってみただけなんで」

 弟が手をわさわさ振ると、王子が手をダンに向ける。「いい。言ってくれ」

 ダンは頭をかいた。

「あのー…本当に、思い付きですからね。一応こっちは戦争はウソだと言ったけど、まだ王様の権力はあるしラーウースの力も強い。で、グレナデンの道は険しくて連絡が取りにくい。グラインさんが必死で見てきたくらい、大変な場所です。

情報の閉鎖された国境前で、グレナデンの兵隊が動くとします」

 ダンは立ち上がり、置かれた箱に手を入れた。いくつかのコマがある。地図に近づき、赤いコマを国境の向こうに置いた。

「そしたら、こっちの軍が周りに集めていた平民の軍を一斉に動かすんですよ。ずーっと立たされていた兵士たちを」

 カーディナル側に白いコマを何個かおいて、それを国境に動かす。

「グレナデンの軍はラーウースが動かしているものだから、さっさと負けたフリして逃げるんですね。もしくはグレナデン軍じゃなくて、それっぽく偽装したカーディナル兵でもいいんですよ。それを、平民の軍に見せる」

 赤いコマを取り去る。

「はい、カーディナル軍、大勝利。で、ラーウースは言うんです。『お前たちが一丸となって戦い、グレナデンは退けられた。お前たちは名誉ある兵士である!』みたいに。そして、平民たちにちょっとずつご褒美をあげてそれぞれの故郷に帰らせる。みんな気が大きくなってます。どうなると思います?」

「めちゃくちゃだ。せっかくこちらで情報を正したのに、帰ってきた彼らはそれをひっくり返してしまう」

 ヴィオラがはっきりした声で言う。

「この王都でも混乱が起こると思われます。そしてここで、ラーウースが今まで溜めていた税金を一気に開放するんです。たとえば王都を一気に直すとかしちゃう。あとは町や村のインフラをよくするとか」

「…国庫の金はすべて持ち去られていた。あの泥棒め、と思ったが」

 王子は城の金庫を確かめて驚いたそうだ。王都が真っ赤に燃えていたというのに。

「別の物に換金しているか、どこかに隠している可能性もあるな」

 あれ?でも…。

「ねえねえ、ダン。王都が直るんならいいことじゃん。ラーウースってなんで国にいいことすんの」

 私は弟の腕をつついた。

「あのな姉ちゃん。独裁者って最初はそうなんだよ。いいことすんの。で、国民を夢見心地にさせてからこっそり自分に邪魔な人を消していくんだ。すこしずつ法律を厳しくしていって、気が付いたら石投げただけで首吊りになるんだよ」

 ブルトカールのあの子を思い出す。

「それじゃ、元に戻っちゃうじゃん!」

「まあ王様はすぐに殺されるだろうし、ここにいる人たちだいたい追われるよ」

 そして、ダンは皆に顔を向けた。「…ってことなんですけど…」

 皆、難しい顔をしている。

「だとすれば私たちは大きく遅れを取ったことになる…ああ、くそっ」

「あれから二日。今頃国境にいるのでは?」

 あっちは普通の馬だと思うけど。砂嵐で足止めされていなければ。

「王都を燃やしたことなど、その前振りにすぎなかったと言うのか」

「間に合わない。もう偽の戦いは始まっている」

 ヴィオラは立ち上がったが、そのまま立ち尽くした。行かなきゃいけないけど、迷っている。

 この時間差で何ができるのか。

 私はない頭で考えた。ホントにもう、取り返しがつかないのかな…。もしその戦いが今行われているとして一日くらい演技するのかな。

 そうだ。平民の兵士さんが帰ってくるのはいつになるんだろう。

 馬はもちろんないだろうし、歩くんだよね? 砂嵐もあるし、結構かかるんじゃ…。

 あ。

「ねえ、平民の人たちは大丈夫じゃない? うまく一か所に集められれば」

 私は膝で立った。

「サギリ?」皆が見るけどダンのそれとは違うなー。

「ただ、私はその集め方が全然わかんないんだけど、どうにかなるかな?」

 私はディーに耳打ちした。

「そうか! サギリ、よく思いついた」

 ディーの声でみんなの私を見る目が少し変わった気がする。

「あとはラーウースを追って捕まえるだけだと思う。なる早で行こう。ヴィオラの兵士さんがかわいそうだもん」

 ヴィオラは私の思い付きを聞いて顔色がみるみるよくなった。

「よし、平民たちの流れはなんとかしよう。国境へ向かうぞ! ありがと、サギリ。まじリスペクト!」

 旅支度が始まった。エルドリスと親方は魔法の板づくりに大忙しだし、アイギスちゃんを連れていくには食糧が必要だしで。

 そして秘蔵のドサンコちゃんがついに飛ぶ。私とディーは空、グラインさんとヴィオラは陸からまず先行する。

 町の人は足の太いペガサスに腰を抜かしていた。


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