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私の、お店。

はじめてのなろう小説です。自分の趣味が詰まっています。

 初めてのお客様が、彼女でよかった。



 おそるおそるドアを開け、店内を見回す白髪の老婦人。

「チラシを見たんですけど、予約いらないのかしら」

 小柄で、眼鏡がおしゃれで、上品な感じだ。

 あたしは駆けつける「気持ち」で静かにお迎えした。

「本日開店したばかりですから、予約は必要ありません。いらっしゃいませ!」

 長年の修行で身につけた笑顔を、喜びを込めて贈る。

 

 受付のカウンターに案内して貴重品以外の荷物を預かり、真っ白いチェアへ誘導する。

 雑誌はどうしようかな?週刊誌は置かないぞと決めたのだ。

 インテリア雑誌はどうだろう?映画の雑誌もいいかな?

 鏡の前に数冊置いた後、お客様の後ろに回り、そして鏡越しに話しかける。

「本日は、どうされますか?」



 美容学校で2年。インターンが2年、仕事を任せられるようになって数年。

 私はようやく独立し、自分の美容室を開いた。

 お金をこつこつ貯めて…節約の限りを尽くして…

 とはいえ、店自体は亡くなった母さんの店を改装したものだけどね。二階はもとから私と弟の生活スペースだ。

 銀色のクロスを巻いたご婦人はウフフと笑った。

「私ねえ…新しいものが大好きなの。だから、近所で新しいお店ができるとつい覗いてしまうのよ」

「素敵。毎日充実されていらっしゃるんですね!」

 流れるようにセットされたショートヘアーだったが、少し雰囲気を変えてみよう。太い刃のハサミを一度両手で握る。

 祈るように。

 そして長さは変えず量を減らし、前髪を作ってみた。

 手鏡でご婦人は首を傾けながらニコニコしてくれた。

「まあ、魔法にかかったみたい。こんな私もいるのね」

「あなたです。いろんなあなたのうちの、一人なんですよ」

「あらあら、まあまあ!」

 お会計をして、荷物をお返しし、外までご案内する。

 彼女が見えなくなるまで、頭を下げ、手を振る。

 とても満足気で、足取りが軽そうに見えた。

 いつもいつも興味を失わない、毎日を思いっきり楽しんでいる人なんだろうなあ。


 ああ、あの人でよかった。

 あの人が、お店を出た後でよかった。


 トラックが突っ込んできたのは、その直後だった。


 私はすべてを失った。今までの努力も、資金も、お店も家も何もかも。

 店のガラスのように、粉々に砕け散った。



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