04.浮遊
俺はポンプ車の如く水を吸い上げていたが、突如として体が宙に持ち上がる感覚があった。地面から体が離れている。先ほどまでは水面に顔や体が触れていたが、今は体のどこも触れていない。
俺は首元をつままれた子猫のように宙に浮いてしまい、呆気にとられたこともあって呆然としてしまった。
『うにゅにゅ~……!』
少女は両手を前に突き出して手のひらを俺に向けている。体全体が力んでおり、強く食いしめた口元からは可愛らしい声が漏れ出ていた。かわいい。あれは『うぬぬ~!』と言っているのだろうか。
当人は力んでいるのだろうが緊迫した感じはせずただただ可愛らしかった。
『あっ……あなたッ!いきなり何をやっているんですかッ!?』
少女は手のひらを俺に向けたまま、先ほどまでの自信なさげな様子からうって変わって強い調子で俺を問いただしてきた。小動物系だった眼もぱっちり見開かれており目力が強まっている。その様子にやや混乱気味だった頭がクールダウンして俺は正気に戻った。
『いえ、あの……信仰を示せとお告げを受けた気がしまして』
俺の言葉に少女は白目を剥く。次いで泡を食ったように周囲を素早く見渡した。……最初の気弱そうな印象とはまるで別人のような俊敏さだ。誰か逆らえない相手でもいるのだろうか。
『……誰の気配もないじゃないですか!あなた人間ですよね!?神でもないのにそんなお告げを受けられるような感じには見えませんっ!変なこと言わないで下さいッ!あんまり変なこと言うと埋めちゃいますよッ!!』
少女はぷりぷりと怒って徐々に論調がヒートアップしている。正直怒ってもあんまり怖くはないのだが言っていることが物騒だ。本当に埋められたらヤバいしここは穏便にいこう。
『申し訳ありません。これはちょっとした行き違いというか誤解なんです』
『何が誤解なんですか!?』
『いえ、先ほどあなたさまが"どうしてここにいるんですか?"と俺に向けて言ったのを自分なりに解釈してみたんです。それでよくよく考えてみて、信仰を示せって意味かと思って……』
俺の説明を受けて少女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたが、すぐに"ぐぬぬ……"と怒りを堪えるような表情に変わった。
『なんでそうなるんですか!?もしそういう意味だとしても、それで水を飲み始めるとかあなた一体どんな思考回路をしてるんですか!?』
『落ち着いてください』
『落ち着くのはあなたですッ!!』
怒りを露わにしながらもどうにも可愛さの方が勝る少女を"どうどう"と宥める。ちなみに少女の力によって俺の体は宙に浮いたままだ。
宙に浮きながらもここは一体どこなのか、彼女は何者かを聞く機会をうかがっていた。