02.土下座
『すいませんでしたぁぁーごぼごぼごぼっ!!』
しばし見つめ合っていたが沈黙に耐えられなくなった俺は、おもむろに少女に土下座をした。現実味のない光景に動揺が強くなりすぎてしまい、他人に靡いた方がいいような気がしたからだ。
あとは少女がこの世のものではないような美麗さを湛えていてたというのも大きい。いつか美術の時間に見た石膏像のように……いや、それ以上に整った顔立ちをしている。
そして眼がとても美しい。青い瞳は清浄さをあらわしているかのようで穢れを知らないような印象を抱かせる。長い睫毛もいいアクセントだ。
美しいものに感じ入ってしまい、自分の醜さを恥じてひれ伏すのは人間として正しい本能といえるだろう。俺は少女の人間離れした美麗さにすっかり恐れ入ってしまった。
『がぼごぼがぼ』
土下座をしていて視界に水面しか映っていないのがなんだか口惜しい。土下座をしたまま口を開いたので口内には濡れない水が流れ込んでいた。
思わず飲み込んでしまうが、人肌より少しぬるめで全く雑味を感じない清涼な水だ。
『人間……だよね?どうしてここに?あのお方の眼を盗んでこっそり引きこもってたのに……私の構築したシステムが不完全だった?』
俺の思索を他所に、少女は土下座がお気に召さないのか何やらぶつぶつと呟いている。言葉の端々が耳に入るのだが内容はよくわからない。
『あっ、あの……』
少女はしばらく言葉を紡いでいたが、俺の土下座を評価したのかおずおずと声をかけてくる。外見どおりの涼やかで内気そうな声だった。
『頭を上げて下さい』
少女に許された俺は顔を上げる。その際に勢いがついてしまったからか少女の口から再度『ヒッ』と引き攣った声が漏れ出た。表情からは緊張しているのが伝わってくる。
土下座の体勢で顔だけ上げた俺と少女。しばし二人で見つめ合っていたが、少女がやや緊張した面持ちで口を開いた。
『どうして……どうして、ここにいるんですか?』
俺に向けられた言葉にはいささか困惑しているという響きが含まれていた。