01.水
人間では知覚できない曖昧な空間を微睡むようにたゆたっていた俺――海原 大海としての意識が突如知性を取り戻した。
点と点を結ぶように意識の線が繋がっていく感覚。視覚と呼んでいいのかわからないが、自分の周囲を見る機能が出来あがった。
備わったばかりの視界で周囲を見回すと、一面見渡すばかりの浅い水場に浮かぶようにして寝ているようだった。
手のひらを確認してみると慣れ親しんだ自分の手だ。体全体にも目をやるが特に変わったところはないように見える。
濡れていないかと服や自分の体に触れて確認してみるが特に濡れていないようだ。自分が横たわっている『濡れない水』に奇妙さを憶えつつ体を起こす。
"ザーッ"
俺が体を起こすにしたがって濡れない水が服や体を伝って流れ落ちる。そうして俺は立ち上がろうとするが、膝と手のひらを地面についたクラウチングスタートのような姿勢で固まってしまった。
意図せぬ存在が俺の視界に入り込んだからだ。それは少女だった。見たところ10歳とか11歳くらいだろうか?突然の知的生命体との遭遇、村人A的な存在との邂逅であった。
少女は水面に仰向けになって浮かび、手を小さな胸の上で行儀よく組んでいる。その表情は穏やかだ。水面に浮かんでいるという不思議さも相まってその寝姿は神秘的であった。
絵画の風景のような美しさにしばし見惚れていたが、不意に不安感が俺の内に湧き上がってくる。俺自身どうしてこんな場所にいるのかわからず、目の前の女の子の正体もわからないからだ。
コミュニケーションを取りに行くべきか、それとも逃げるべきか。それが問題だ。女の子は俺の葛藤などどこ吹く風と安らかに目を閉じて水面に浮かんでいる。
どうしようかと迷っていると、俺の動揺が伝わったのか少女が眼をうっすらと開いた。その眼は虹彩が青く、少女が身を横たえている穏やかな水面のようだった。
そして俺と少女の視線が交錯する。少女と二人きりの空間であることで『事案』という単語が脳裏によぎる。
俺の姿を青い瞳に映した少女は喉奥から『ヒッ』と引き攣るような声を出した。怯えを感じる声色に心配と焦りの感情が湧きたつ。
そのまま俺も少女も固まってしまい、しばし見つめ合っていた。
よろしくお願いします。