羽衣/美しい歌
「羽衣」
年をとる度に貴方は若返る
花が散ったあと蕾が現れる
旋回する桜の花弁を見ている
息吹と鼓動が柔らかく解れだす
年をとる度に貴方は美しくなる
全てを奪われ地上に落ちてきた時
貴方は青白い顔をしていた
フラスコ画の女性と同じ
年をとる度に貴方は成長する
悲しき命の定めから
どうやって抜け出したの
羽衣でも落ちていたの
年をとる度に貴方は変わっていく
ある者は自分を偽り
ある者は泥を被る
蛇行ばかりの道の中
始めから分かっていたように歩く
貴方は普通の人
年をとる度に貴方は生き生きして
日々移ろう空を
朝露とノースポールと四葉のつめ草をくれる
軽やかに扉を叩く
年をとる度に貴方は自由になる
ピンが外れ 黄金や毛皮でできた鎖を抜け
走りだしていく速度を上げて
光の飛沫が零れる笑顔
年をとる度に貴方は言う
心の針をどこに振るか決めれば
こんなに簡単なことはない
貴方だってできている
上空に速く雲が流れている
子供のように手を繋いだら
どこまでも歩けそう
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「美しい歌」
美しい歌を歌える貴方が妬ましい
泥をろ過しきれない私には
甘露を滴らすその指が欲しかった
美しい歌を歌える貴方が妬ましい
いつでも旅に出られる見えない翼と
世界中の空に通じる瞳を羨んだ
美しい歌を歌える貴方が妬ましい
私は澱んだものに足を取られずに
最後まで息を吐き切ることはできない
貴方は美しい歌を歌う
いつになったらそこまで行けるのだろう
いつまでたっても行けないかもしれない
貴方が歌う美しい歌は
この世にある中でもとても素敵なもの
優しさとすこしの憂鬱が架ける虹
美しい歌を歌う貴方を
いつものように羨んだ後でふと
人の不完全さを思った
手の届かない存在なら
私の過程などとうに超えていると思える
貴方もそうやって笑い飛ばしてくれればいい
貴方が何も言わずに消えてしまう夢を見た
あてのない不安と私のエゴで
貴方をここに留め置こうとするのを
何を馬鹿なことと妬ましいぐらい明るく笑って欲しい
__少しだけ でも長いあいだ
この世の美しい歌を憎んでいたことがある
遠い楽園の歌は緩やかに苦しかった
貴方の歌う歌は美しい
けれど貴方が笑えないというのなら
貴方がここから去ることを選んだら
美しさなんてどうでも良くなるだろう
今度こそ嫌いになったとしても辛くはない
なぜならば
私にとって貴方は無類の人