微かな記憶
「そういや、あのお嬢ちゃんのことなんだが……」
スープとパンを食べ終わり、皿洗いを手伝っていると男がふと思い出したように言ってきた。
「……ああ、そうでした。鍵の件で何か心当たりが……?」
そう言うと男は顔を顰め、
「そうだな……、奥に仕事場があるんだ、皿洗い終わったら嬢ちゃんと来てくれ」
と言ったのではい、と答えておく。そして男はダイニングの奥へと消えていった。
仕事場で何をするというのだろうか、あまり想像がつかない。仕方なく皿洗いを済ませ、リビングで遊んでいる少女の元へ向かう。
「おーい、あの人が呼んでる……と、何見てるんだ?」
少女の手元にはいつの間にか写真が何枚か握られていた。あまりに熱心に見つめているため、気になって覗き込む。
ほっそりとした、メガネの奥で目を細め微笑み穏やかな表情をしている男性。その隣には男とは対照的に健康的な体つきでで活発そうな、真っ白な歯が覗く笑顔でピースしている女性。そして二人の間には……
「……家族写真……?」
二人の間にいる控えめな笑顔の少年の面影にあの男と似たものを感じ、一つの可能性を呟く。
ボロボロになり色が霞んでしまっているが……
「……?この写真……見覚えが……」
しかし記憶はするりと手から抜け落ちてしまった。
これ以上記憶を絞ってもなにも出てこないことを悟り、こちらを見つめている少女を連れ、部屋の奥へ向かった。