男
「……この裏路地、どこまで続いてるんだ……?」
壁に手をつき、思わず呟く。それもそうだ、裏路地に入ってから1時間が経とうとしている。
少女はと言うと、あの後足が汚れないように俺がおぶり、20分ほど前から寝息を立てている。
「いくらなんでも複雑すぎるだろ……」
そう、先程からただただ直線を進んでいるのではなく、まっすぐ進んで突き当たりにつくと左右に道が分かれていたり、ところどころに脇道があったりと、迷路同然の場所だったのだ。ましてや屋敷に住んで十数年、屋敷から出たことも無い俺にこの辺りの地理がわかるはずもなく、さまようばかりであった。
「表道りに出れなきゃ何も出来ないってのに……」
そうして何度と着いたかわからない突き当たりにぶつかり、壁に向かって項垂れていると、
「おい兄ちゃん、こんなとこで何してんだ?」
「っ!?」
右側から急に声をかけられ、思わずビクッと反応してしまう。
反射的に横を向くと、ガタイのいい20代後半くらいの男が立っていた。
男は顎に手をやりながら言った。
「っと、悪ぃ、驚かしちまったか」
その言葉に慌てて首を振り、
「い、いえ……あの、どこから……?」
と問うと、ああ、と言い男は路地の少し奥を指さした。
「あそこに扉があんだろ?あれ、俺の店の裏口なんだよ。」
男が指さした方向を見てみると、なるほど何も無い壁の中にぽつんと穴が空いている場所が見えた。
「……ん、てかそのお嬢ちゃんは大丈夫なのか?」
と俺の背中で寝ている少女を覗き込む男。
「ああ、この子は寝てるだけですよ」
「この子?お嬢ちゃんあんたの妹かなんかじゃあ無いのか?」
確かにこの状況だとほとんどの人がそう思うだろう。俺は屋敷で起きたことを事細かに説明した。すると男は鍵の件に反応してきた。
「手を添えただけで鍵を開けた……?そりぁもしや……」
「!なにか知ってるんですか!?」
男が何やら心当たりのあるような発言をしたためつい大声を出し男に詰め寄る。
「おお、まあ落ち着けや……まあ、あくまでも、の話だが……」
しばらく考え込むように俯いていた男だったが、やがて口を開いて
「立ち話もなんだ、店、寄ってけよ」