戦闘の恐怖
いつも通り宿屋での仕事をしていると派手な服装の人たちが宿屋にやってきた。
「ご主人様に傷を負わせた野蛮な奴はいるか?」
ひげを生やしたおじさんが威圧するような声で言った。
「そのような者はおりません」
いつも通り冷静に対応するジョンソンさん。
「ご主人様、この宿屋で間違いないのですね」
「当たり前だ。ぼくを何だと思っている?」
この前の貴族が手下を連れてやってきたようだ。
「こいつだ!」
僕の方に向かって叫んだ。
「こいつがぼくの身代わりにならなかったから、こいつが悪いんだ。お前が代わりに攻撃を受ければ良かったんだ」
貴族の言葉に僕たちは呆然とした。
「ご主人様、普通は身代わりになりませんよ」
「なんだと……」
今度は貴族が呆然とした。
「次からは一人で出かけないでくださいね」
ひげのおじさんが貴族をやさしく叱っている。
「大変お騒がせしました」
ひげのおじさんはそう言って貴族を連れて帰っていった……はずだったが数分後、
「お前ら離せ、ぼくの用事がまだ済んでない」
再び貴族がやってきた。だが、当然のようにひげのおじさんと部下らしき人たちに止められている。
「おい、あの火魔法は何だ!なぜお前ごときに魔法の素質がある」
「えっ……」
まさかゴブリンとの戦闘を見られていたと思っていなかったので驚いた。
「あの破壊力は忌々しい皇女に勝るとも劣らない威力だぞ。エルフの魔力を持っているな」
エルフの魔力?何のことだ?と訳の分からないことを言っているなと戸惑っていると
「転生者の中には高い魔力を持つ者がいることくらい知っているだろ」
ジョンソンさんが解説を入れてくれた。
「転生者の魔力はピンからキリまであるが、こいつの魔力は俺の知る中では最高クラスだぞ」
「えっ……」
衝撃の事実に耳を疑った。そういうことは早く教えてくださいよ……
「火魔法に関してはトップクラスの才能があるぞ。風魔法の才能は皇女にかなわないと思うけどな」
「ふざけるな!皇女クラスの風魔法など国の一大事だぞ!それに加えて最強クラスの火魔法など世界の大問題になるぞ」
「安心しろ。こいつは安全だ」
「そんな保証がどこにある」
「魔力をまだ完全に使いこなせていないが、暴走する気配もないから安心だ」
「ふざけるな!気が進まないが皇女に報告だ」
そう言い残して貴族は去っていった。
僕が状況を理解できないまま呆然としていると
「ソラ、おまえなら大丈夫だ」
ジョンソンさんがやさしく励ましてくれた。
それから数日が経過したころ、皇女様が宿屋に訪れた。
「あなたが件の転生者ですか。世界の脅威になるかどうかを見たいので一緒に来てくれますか?」
僕は断る理由もないので黙って頷いた。
僕が了承すると同時に知らない場所に僕と皇女様はワープしたようだった。
「ここならば力の限り戦えるでしょう。私と戦ってください」
皇女様が臨戦態勢になったので遠慮なく皇女様に火魔法を使った……はずなのだが全然皇女様には効いていないようだ。
「次はこちらからいきます」
皇女様の言葉が聞こえた時には僕の腕に激痛が走っていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
あまりの痛みに思わず悲鳴を上げてしまった。
「もう大丈夫です。終わりにしましょう」
皇女様のやさしい言葉と共に痛みが引いていった。
「安心してください、腕の傷は治っています。あなたは脅威にならないと私が判断したので帰りましょう」
皇女様のワープで宿に戻ると皇女様はすぐに帰っていった。
初めて戦いがこんなにも怖いものだと気づいた。そして、もっと強くなりたいと心の底から願った。