異世界の暮らし
転生して数十日が経過した。
宿屋での仕事をこなし、魔法の練習をする日々が過ぎていく。
宿屋での仕事は接客を除き大体の仕事はできるようになった。僕の料理はジョンソンさんから見てもなかなかの腕前だそうだ。大きい宿屋ではないので掃除も大変ではない。
魔法の方は出力のコントロールが難しかったが数日で制御できるようになった。僕は属性魔法の適性が高いようだが、無属性魔法の適性はほとんどないようだ。
魔法には大きく分けると無属性魔法と属性魔法の二つに分類されるようだ。無属性魔法は治癒魔法、物理魔法、精神魔法の三種類があり、属性魔法は火魔法、水魔法、風魔法、光魔法、闇魔法の五種類があるようだ。ただ、無属性魔法の適性を持つ者はほとんどいないらしい。
僕は属性魔法の中でも特に火魔法と風魔法に高い適性を持っているようだ。火魔法の適性は宿屋の厨房でとても重宝された。だが、ジョンソンさんが言うには僕の火魔法は魔物と戦うのに十分な威力と持続力があるらしいので魔物を退治する職に就いても良いのではないかと勧められた。だが、この町に住みながら継続的にできる魔物退治の仕事がないので辞退した。
ある日、宿屋に駆け出しの冒険者がやってきた。
その冒険者はとなりの都から修行のためにやってきたがゴブリンと戦い、けがをしたので都に帰りたくても帰れないようだ。
「もうやだ。お家帰るぅ。ゴブリンが魔法使うなんて聞いてないよぅ」
宿屋の食堂で大声で叫ぶのはやめてくれ……などと考えているとジョンソンさんが冒険者をなだめて部屋に案内していった。
次の日、冒険者は都に帰る予定だったのだが町に雇える護衛がいなかったので、冒険者は怒ったような声で
「護衛を雇えないとはどういうことだ!!護衛をできる冒険者はいないのか!!ぼくは貴族だぞ」
と宿屋のカウンターで騒いでいるので
「申し訳ございません。この町に護衛はおりません」
ジョンソンさんがなぜか謝っている。
「まったく、あいつらは何をやっているんだ……早く探しに来い」
ジョンソンさんの話によるとこの冒険者は貴族で戦いを見るのが好きだったため、自分も剣を使いたいと思って一人で都の外に出たが都の近くで魔物が見つからず町の近くまで来たら、たまたま歩いていたゴブリンにやられて町まで逃げてきたそうだ。この貴族は宿屋で何でもできると思っているらしいのでジョンソンさんが仕方なく対応している。
「この町はどうやってゴブリンと戦っているのだ?」
「町の住人で協力して退治していおります」
「戦える者がいるのだな?」
「剣を扱える者と弓を扱える者がおります」
「お前は戦えるのか?」
「ゴブリンならば戦えます」
「お前がぼくを送っていけ」
「宿屋の仕事がありますので申し訳ございません」
「ふざけるな!お前ができないなら代わりを用意しろ!ぼくは貴族だぞ」
「困りましたね」
「おい!そこのやつ!護衛しろ」
突然怒りの矛先が僕の方へ向いた。
「……えっ」
戸惑う僕にジョンソンさんがフォローを入れてくれる。
「そいつは新入りなので困ります」
「他に用意できないならこいつに身代わりになってもらう」
貴族が剣の鞘に手をかけたので
「わかりました。身支度を整えてください」
ジョンソンさんは諦めたようにそう言うと貴族は部屋に戻っていった。
「おまえの火魔法ならゴブリンに会っても大丈夫だ。これがこの辺の地図だ」
そう言って僕に地図を渡してくれた。
「早くいくぞ」
貴族に連れられ僕は貴族を都まで送り届けた。
都に行くまでゴブリンと遭遇しなかったので、ただ歩いただけだった。貴族からお礼はなかった。
帰り道でゴブリンと遭遇したので、とっさに火魔法を使ってしまった。ゴブリンは一瞬で灰になった。威力が強すぎたようだ。
こうして僕の初めての戦いは幕を閉じた。