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【最後の日に】

* * *

最後の日に

* * *


あなたが会社を去る最後の日に、わたしは、あなたにお餞別を用意していました。


最後の日なのに、あなたは、また閉じこもりの状態で、声がかけにくい空気をまとっていました。


今、思えば、照れもあったのかもしれませんね。


会話らしい会話もないまま、時間が刻々と過ぎていき、わたしは内心焦りを感じずにいられませんでした。


あなたは口元に笑みこそ浮かべてくれていましたが、それは口角があがっているだけのものでした。


最後の日なのに、こんな感じなのかと、また胸が痛み出しました。

でも最後の日だから、わたしは一生懸命平常心を装い、自分からほがらかに接するようにしていました。


あなたの所作から、あなたの心は、”もう、ここには無い”ことを痛感し、そういったことに気づけば気づくほど、胸が痛んで泣きそうになりました。


わたしは拭いきれない予感から、「いつの間にか帰らないでね。帰る前に声かけてね。」とあなたに念押ししました。


* * *


いよいよ最後の日の定時を迎えました。


予感通り、誰にも目もくれず、さっさと帰っていこうとするオオカミ君を、廊下で慌てて呼び止めました。そして、用意していたお餞別を渡しました。

だけど、またそのまま帰ろうとするので、「今、開けて見て欲しいねん!」とみっともなく引き止めて、プレゼントを開封してもらいましたね。


贈り物を見て、お礼を言ってくれましたけど。とても優れない顔をしながら、目も合わしてくれませんでした。


わたしは他の何かを言ってくれるのを待っていましたけれど、そのお餞別に対するお礼だけでした。


そう、わたしは 『お世話になりました』 という言葉を期待していました。その言葉だけを待っていました。


その言葉があれば、たくさんの想いも最後に報われるように思えていました。


待っていた言葉は聴けないままに、あなたは、そのまま静かに去っていきました。



最後の日に、そんな別れ方をして、そんなの心残りになるに決まってるじゃないですか。


オオカミ君に、わたしへの気持ちがあるとかないとかは置いておいて。


最後に、そんな ”らしくない姿” で去られたら、わたしはずっとその姿であなたのことを思い出すんですよ。


『あんな去り方をさせてしまったな』って、今もずっと悔いになっています。


あなたに、そんな顔をさせて去らせてしまう責任は、会社の中のもっと他のところにあることは、重々分かっています。

逆に「わたしのせいで」なんて思う方がおこがましいのでしょう。


でも、それでも今も、わたしの悔いになって残っているのです。


☆ ☆ ☆



この会社のことは、とっくに過去のことになっていますか?


今のあなたは、よどみなく笑えていますか?




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