【最後の日に】
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最後の日に
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あなたが会社を去る最後の日に、わたしは、あなたにお餞別を用意していました。
最後の日なのに、あなたは、また閉じこもりの状態で、声がかけにくい空気をまとっていました。
今、思えば、照れもあったのかもしれませんね。
会話らしい会話もないまま、時間が刻々と過ぎていき、わたしは内心焦りを感じずにいられませんでした。
あなたは口元に笑みこそ浮かべてくれていましたが、それは口角があがっているだけのものでした。
最後の日なのに、こんな感じなのかと、また胸が痛み出しました。
でも最後の日だから、わたしは一生懸命平常心を装い、自分からほがらかに接するようにしていました。
あなたの所作から、あなたの心は、”もう、ここには無い”ことを痛感し、そういったことに気づけば気づくほど、胸が痛んで泣きそうになりました。
わたしは拭いきれない予感から、「いつの間にか帰らないでね。帰る前に声かけてね。」とあなたに念押ししました。
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いよいよ最後の日の定時を迎えました。
予感通り、誰にも目もくれず、さっさと帰っていこうとするオオカミ君を、廊下で慌てて呼び止めました。そして、用意していたお餞別を渡しました。
だけど、またそのまま帰ろうとするので、「今、開けて見て欲しいねん!」とみっともなく引き止めて、プレゼントを開封してもらいましたね。
贈り物を見て、お礼を言ってくれましたけど。とても優れない顔をしながら、目も合わしてくれませんでした。
わたしは他の何かを言ってくれるのを待っていましたけれど、そのお餞別に対するお礼だけでした。
そう、わたしは 『お世話になりました』 という言葉を期待していました。その言葉だけを待っていました。
その言葉があれば、たくさんの想いも最後に報われるように思えていました。
待っていた言葉は聴けないままに、あなたは、そのまま静かに去っていきました。
最後の日に、そんな別れ方をして、そんなの心残りになるに決まってるじゃないですか。
オオカミ君に、わたしへの気持ちがあるとかないとかは置いておいて。
最後に、そんな ”らしくない姿” で去られたら、わたしはずっとその姿であなたのことを思い出すんですよ。
『あんな去り方をさせてしまったな』って、今もずっと悔いになっています。
あなたに、そんな顔をさせて去らせてしまう責任は、会社の中のもっと他のところにあることは、重々分かっています。
逆に「わたしのせいで」なんて思う方がおこがましいのでしょう。
でも、それでも今も、わたしの悔いになって残っているのです。
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この会社のことは、とっくに過去のことになっていますか?
今のあなたは、よどみなく笑えていますか?




